41、ナミビア救出(その三)

 フラキアに戻った五名は、領主の部屋に居た。

 娘とその夫を見て、領主達は安堵のため息を漏らし交互に抱きしめる。


「さて、これからが本番になります。というのも、現状のままお二人が戻っても、再び捕らえられるか、軟禁と変わらぬ生活を送らされるだけでしょう。あの国は変えなければなりません。どう変えるかはカリネリア領主が決めるべきことですが、こちらは変えられる範囲を限定し、領主の決定がこちらのおよその想定内に落ち着くようにします」


 その一つが奴隷の解放。


 ・解放すれば、金鉱山用の労働力に人件費がかかる。

  芸術家のパトロンできなくなる。

  芸術家のパトロン継続すれば、どこぞに安全保障費用を払えなくなる。   


 ・解放しなければ、サロモン王国との戦争

  他国か助力してくれる組織を頼む


 もう一つがいざとなったら手伝うという口約束。


 ・サロモン王国との協力関係の道を残してある。


 その他


 大雑把にこの程度の想定。


「カリネリア自治領でとにかく違和感があるのが、金鉱山があるのにジャムヒドゥンと対抗できるだけの独自の軍事力を持っていない点……」


 金は金貨で使用される。リエンム神聖皇国でもジャムヒドゥンでも金貨が使われてる。どこの国も金は欲しいはず。他国から狙われやすい自治領なのに、軍事力を持ってない。カリネリア自治領はどこかの国、どこかの組織に金を払い自治領で軍事力を持たずに済むようにしているはず。


「一ヶ月の猶予を与えたのも、どこかの国か組織が時間に余裕がなくてカリネリアを守れない状況を避けるためです。我が国は四日もあれば侵攻可能ですから、カリネリアの動きを見てから動いても十分間に合う」


 フラキアは何の心配も要らないと付け加え領主達を少しでも安心させる。


「とにかく、カリネリアには何らかの変化が生じるでしょう。アルベールさんとナミビアさんはそれを見てから、カリネリアに戻るかどうか決めたほうが良い。フラキアに滞在していてもいいし、サロモン王国に滞在していてもいい、それは好みの場所を選んでください」


 フラキアにはサロモン王国から諜報関係の人員が既にいる。彼らが逐次サロモン王国へ報告しているから、何かあったらすぐゼギアスが飛んでくるので心配はない。


 ゼギアスとベアトリーチェ、ミズラは、ヴァイスとカリネリア対策を練るためにサロモン王国へ帰ることにする。


◇◇◇◇◇◇


 カリネリア次期自治領主セドリックは、カリネリアの南に接するコルラード王国の王オルハーンと取り引きしている。毎月一定額の税を払う条件で、カリネリア自治領にどこかから侵攻があった場合は防衛することを約している。


 また、ジャムヒドゥン国内に傭兵を五千名ほど飼っている。これはジャムヒドゥンが侵攻してきた時、ジャムヒドゥン軍の側面から攻めるためであった。 


 カリネリアにとって今までの仮想敵はジャムヒドゥンであった。だが、ジャムヒドゥンはリエンム神聖皇国と十年ほど戦争を続けていて、カリネリアに侵攻してくる気配はない。


 セドリックは、サロモン王国の防衛にコルラード王国軍を、攻撃に傭兵を当てるつもりでいる。カリネリアには軍を置いていないから、サロモン王国は舐めてかかってくると想定していた。但し、ゼギアスだけは何かしら対策をうたないと兵数などいくらあっても話にならないだろう。


「あれは噂に違わず化物だ。転移魔法は高等魔術師でも一人で近場に転移するのが精一杯で当たり前。高等魔術師でも上のクラスならもう少し使い勝手は良くなる。それほど魔法力を消費する魔法だ。だが、ゼギアスは五名でまとまってフラキアまで転移していった。どれだけの魔法力もってやがるんだ」


 ゼギアスを倒せないとしても、戦線から離さないといけない。できることなら倒したいが、正面から当っていては倒せそうに思えない。セドリックの目にはゼギアスの余裕ある態度が残っている。


 ゼギアスの話を……噂の類でも眉唾のような話でもセドリックは集める。ゼギアスの弱点を見つけるために、金に糸目をつけず情報を集めた。策を組み立てる何らかの糸口が欲しい。策が無ければカリネリアはゼギアスの好きにされてしまう。そんなことは認められない。


 しかし、父の自由にさせておいたのは失敗だった。


 どうせ近いうちにセドリックが領主の座を継ぐのだと、その際に、父から快く譲ってもらうために、父の気が済むよう口出しせずにいたのが間違いだった。セドリックが領主の座についたら芸術家達のパトロンなどやめて、金の鉱山から得られる利益を元手に工業都市を目指すつもりだった。領主になった後は、父の言うことなど無視するつもりだ。


 南には鉱物資源を多く産出するコルラード王国があり、当初は協力しあい、いずれは飲み込み、リエンム神聖皇国とジャムヒドゥンに続く大国にカリネリアを育てるつもりだったし、まだ若いセドリックにはそのための時間も自信もあった。


 だが、今のままではその夢に向かって動き出すこともできなくなってしまう。奴隷解放するにしても、金鉱山の他の領地を潤す手段を整えてからでないと、カリネリアの力がしばらく衰えてしまうのを避けられなくなる。コルラード王国に蒔いた種がいつ芽を出し、攻略の機会が訪れるか判らないのだから、いつでも動ける体勢だけは維持しておかなければならない。


 今はまだゼギアスの要求に応えられる時期ではない。セドリックが領主になり……そうだな五年後くらいなら奴隷解放しても問題のない体制を築けるだろう。そこまでは何とか今の体制を維持するのだ。


 予想外のトラブルの一つや二つ乗り越えられずに、ジャムヒドゥンやコルラード王国と渡り合い領地を守り豊かにすることなどできはしない。ゼギアスは確かに化物だが、他は所詮奴隷上がりの野蛮人ではないか。この危機を乗り越えられずに第三の大国など築けるはずもない。セドリックなら乗り越えられるはず、いや乗り越えなければならない。


 リエンム神聖皇国はサロモン王国に勝てなかったらしいが、一地方都市でしかないカリネリアがサロモン王国に勝ったとしたら、エドシルド内での発言力も高くなり、コルラード王国攻略の力にもなるだろう。


 必ず勝ってみせる。


 セドリックは、サロモン王国との迫る戦いを、自身の野望実現の足がかりにするため、コルラード王国へ向かう。

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