46、コルラード王国との同盟(その三)
「私あなたと結婚する前は、いろんな亜人や魔族と作る国では、どちらかと言えば器用貧乏で戦いに向かないエルフは軽視されてしまうかもと心配していたの」
今しがたまで愛し合い、まだ汗もひかないまま少し息が荒いベアトリーチェが俺の胸に手を置いて話しかけてきた。軽いけだるさの残るこの時間は眠りにつくまでいつも雑談している。
「そうなんだ」
「ええ、でも実際は違って、今ではどこでも必要とされる種族になって、軽視など全然されなくて……あんなに心配したのにって」
「ハハハ、取り越し苦労だったってわけか」
「そうなの。私と同じこと父も心配してたのだけど、先日話したら、杞憂で終わって良かったって笑ってたわ」
俺はベアトリーチェと一緒にクスクスと笑った。
サロモン王国だけでなく、オルダーン、ザールート、フラキアにジラール、どこでも農業と畜産業ではエルフが活躍してる。もともと植物や動物の知識に詳しかったのに加えて俺が地球での知識を教えたら、品種改良や土壌改良なども含めてエルフの手助けなしでは苦労する状況が生まれた。また、魔法力の強い者は少ないけれど各種魔法を使用していたので、魔法の研究開発でも力を発揮してくれている。
デーモンやゴルゴンにも治癒回復魔法使用者が増えてはいるが、エルフの指導が欠かせない。
日常生活でエルフの協力を必要としてる場面はまだまだ多く、戦闘でそれほど目立たなくても軽視する者は我が国には居ない。
「まあ、スィールも状態異常魔法なんて戦いでしか使えないものだと思っていたようだし、サエラも催淫も魔法と混ぜて使えば、益虫や獲物の獣を呼び寄せるために使えるとは思わなかったって言ってたしな。いろんな可能性が誰にでもあるんだと俺も最近よく思うよ」
「そうね。ほんとそうなんだわ」
「魔法を必要とする分野には魔法使える者が当然引っ張っていかれる。獣人には魔法使える者少ないけど、だから魔法を必要としない分野で活躍する者が増えた。特に人と接する仕事では獣人だけじゃなくラミアやハーピィ小人族も活躍してるサロモン王国への旅行客も増えて、案内役とか観光の補助とか……魔法で片付けてしまっては味気ない仕事で頑張ってくれてる」
「そう言えば、ラミアの一人に夢中になった旅行客が居たの知ってる?」
身体を起こし、目の前に顔を近づけてきてベアトリーチェが楽しそうに話す。
ある男性旅行客がラミアの子に夢中になり、滞在中ずっと一緒に過ごしていた。宿泊も宿をキャンセルしてそのラミアの子の家に滞在したとのこと。一人の雄に気に入られることは滅多にないラミアの子は大喜びで、その男性の滞在中相当尽くしたらしい。それでその男性は余計そのラミアの子に惚れ込んで、サロモン王国への移住希望してるとのこと。移住できたらそのラミアの子と結婚を予定している。
「おめでたいことだなあ。亜人と結婚したラミア族は幾人も居るけど人間とは初めてになるんじゃないのか?」
「多分そうよ」
ベアトリーチェもやや興奮気味に話してるけど、興奮したくなる気持ちは判る。
下半身が蛇型のラミア族は、正妻はもちろん愛人としてもなかなか相手を見つけにくいのが実情。接してみると、優しいし賢いし献身的なラミア族なんだけど外見でとても損している。
ハーピィや小人族はパートナーそれなりに見つけてるけど、ラミアは不利な状況。
俺の家族の間では、何か良い方法はないものかと話し合うこともあるのだ。
だから人間の男性がラミアを気に入り、結婚も考えてくれているというのはとても嬉しい話題で、ベアトリーチェが興奮するのも判る。
でもお互いに苦労しそうだなとつぶやくと、
「男性もだけど、ラミアのその子も苦労してるみたいよ?」
「どんな?」
「その男性がラミアの子を押し倒そうとしたらしいんだけど、ラミアって身体も大きいし力も強いじゃない? それに男性に押し倒される経験なんてしたことないから黙って受け止めたんだって」
その場面が簡単に想像できる。
「その後その男性落ち込んだらしいんだけど、ラミアの子には理由が判らない」
「なるほど」
そりゃ押し倒す気満々で抱きついてもビクともしなければ、男として自信なくしちゃうかもなあ。
「それでドリスに相談したら、それは黙って押し倒されなかった貴女が悪いって怒られて、クスクス……男性が抱きついてきたら無条件で押し倒されるようにしたら元気を取り戻したって」
「そりゃそうだろうなあ。雄を押し倒すことには慣れていても押し倒される経験してるラミアはそうは居ないだろうからなあ」
「で、人間の雄に押し倒されたラミアってことで、他のラミアから羨ましがられてるらしいの」
そうかあ。ラミアのことを気に入ってくれる人間が増えるといいなあ。
ラミアは顔立ちの綺麗な子多いし、色気はあるし、ちょっと性欲過多なところはあるけど、賢いし、献身的だし。
まあ、旅行客の案内していたら出会いも増えるだろう。その中から一人でも多くのラミアを気に入ってくれる方が出て来ることを祈る。
そのカップルのことを想像して微笑んでるベアトリーチェの唇にキスをして”さあ、明日も頑張ろう”と言って俺達は眠りにつく。
グランダノン南部同盟ができてサロモン王国周辺が落ち着いた。経済も順調で国内はもちろん友好国も展望は明るい。おかげで良い関係を築けている。
慌ただしいけれど家族も国民も平和に過ごしてるのが判り、ベアトリーチェの温もりと柔らかい香りに心から俺は幸せを噛みしめていた。
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