56、亡命受け入れの影響(その二)

 男性だからといって、誰もがゼギアスのようにハーレム願望があるわけではない。

 だが、男女比三対七のサロモン王国で子孫を求める女性にとっては、ハーレム願望を持つ男性は好ましい男性であった……というより熱烈に必要とされていた。


 特に、妊娠率が低い種族が多い魔族では、頻繁に交尾する相手は男女ともに常時望まれている。

 亡命して新たにサロモン王国国民となった者は、男女比六対四くらいで男性が多く、サロモン王国の女性陣が喜んだのは言うまでもない。また、新たに国民となった男性の中には、これまでは経済的理由で独身だったり、相手に恵まれずに独身だったパートナーを欲する男性も多かった。


 新たな夫婦や愛人関係が増えたのも当然であった。


 長い目で見れば、人口増加はある程度のところで抑えないと食糧事情の悪化など、安定した生活維持の不安に繋がる。医療技術が向上し、既に食糧事情も良いサロモン王国では多産多死ではなく多産少死の環境になりつつある。


 もっとも、子供を生んでも五割以上の確率で失うからこそ多産が望まれ習慣化していたのだから、生まれた子供のほとんどが成長する環境になれば、女性にとって大きなリスクが有る出産をそう何度も経験しなくても良いと皆が理解してくれるかもしれない。


 それにサロモン王国では慢性的な人手不足のため、また女性のみの種族も幾つかあったため、女性の社会参加は既に当たり前だから、女性もそうそう出産や育児に人生の時間を多く割くことはないと考えてくれるのではないかと期待している点もある。


 まあ難しいことを考えなくても、多分これから千年以上は人口増加したところで何の問題も無い。イチャつくカップルが目立つ街の様子を見てゼギアスは微笑んでいる。まあ、子供十一人居るお前が人口増加心配してるようなこと言うなって話でもあるのだが。


 何にせよ、これも人生や生活を楽しむ一つの選択だから、夫婦や愛人関係が増えようと、少なくともサロモン王国では何の問題もないのだ。


 ただ、肉食獣達のはしゃぎようを見てると、ちょっと不安にはなるのだが。

 新たに大勢の仲間達が加わったことで、十数年後のサロモン王国は更に賑やかになりそうだ。


◇◇◇◇◇◇


 教育に力を入れてきた成果が出始め、十五歳未満の子供なら読み書きは殆どの者ができるようになり、大人でも大勢、といってもこちらはまだ六割程度だが……が読み書き出来るようになった。


 郵便や個別の家への配達の需要が生まれた。

 郵便や荷物の個別配送は、小人族とハーピィ族が一手に引き受けている。


 小人族は賢いのだが肉体的に力がなく、ハーピィ族は素早くて空も飛べると言っても長時間長距離の移動はやはり体力的に無理があった。まあ、彼らの体力がないというより、他が人間に比べるとあり過ぎるのだが。


 郵便や荷物の個別配送では彼らの弱点はまったく問題にならず、彼らは好んで我が国の郵便配送業を担ってくれている。街から街へは転送魔法使える者が一括転送し、街に転送された郵便や荷物を彼らが個別宅へ配送する。

 我が国の全ての街は碁盤目状に整備されてるので、住所は”北○番目、東○番目”といった情報で確認できる。

 新たな住民が増えても、彼らの多くは読み書きができないので、すぐには郵便配送の仕事が大幅に増えるわけではない。だが、時間の経過とともに増加するのは確実なので、作業の効率化と人員の補充は必要だ。


 ところが小人族は千人、ハーピィは二千人程度でどちらかと言えば少数種族。


 では他種族からも増やせばいいではないかと考えたいところなのだが、彼らには同種族間では言葉を使わなくても意思の疎通が可能という特徴がある。小人族は相手が離れていても思念で、ハーピィは遠くまで届く鳴き声で意思の伝達が可能だ。


 テレビやラジオに携帯電話やインターネットがある二十一世紀の日本の感覚と違い、情報は人と人の直接会話による伝達が主流のため、担当の配送地域に居て、何かあれば担当地域の住民へ情報を伝え、担当地域で起きた異変を中央へ伝える役割が郵便配送を担ってる者達にはあった。


 だから、配送作業がなくても通常は担当地域に居て、郵便や荷物が転送されて担当地域のモノがあれば郵便や荷物が転送されてくる集積所に戻り、荷物を持って再び担当地区に戻り配送する。この連絡も種族の特性を活かして行っていたのだ。


 だから首都エルの郵便配送はハーピィだけで、中央都市ギズは小人族だけで作業を行うように街ごとに担当種族が決められている。


 一人の担当地域を増やせば配送自体は難しくなくても、いざという時の情報伝達に遅れや支障が出る。グランダノン大陸南部は広大で未開の土地もまだまだあり、というか圧倒的に未開の土地の方が多い、万が一が無いとは言えない地域だ。魔獣のテリトリーは決まってるので、魔獣を恐れる必要はないのだが、伝染病の発見などは発見してからの早期対応が必須なので、情報の伝達速度は重要なのだ。


 そこで、ゼギアスが居なければ作れない思念伝達アイテムではなく、無線機を開発しようとゼギアスが言い出した。とりあえずは据え置き型でいいから無線機を作り、各地各配送担当地域に設置できるようにということになった。


 またもドワーフさん大忙しになり、ゼギアスのところへドワーフ妻達からの非難が集まったのは言うまでもない。


「お金がいくらあっても、家族で過ごせないんじゃ困るんですよ!!」

「子供たちが父親の顔を覚えていないんです!!」

「うちはまだ子供が居ないんですよ?どうしてくれるんです!」


 仕事をしているドワーフ達は”給与の割増や年代物の酒を差し入れしてくれる程度じゃ割に合わん”などとブツブツと文句を言いながらもとても楽しそうでワーカホリック状態なのだが奥さんや家族は違う。


 いや、本当に申し訳ない。


 作業しているドワーフ達の体調管理も厳重にチェックして、彼らには専任の治癒回復役も付け、給与は他の三倍、食事も彼らの希望を必ず取り入れて、可能な範囲で待遇には気をつけてはいるが、仕事量だけは減らせないでいる。


 サロモン王国建国してからもうすぐ十年になるが、ラニエロとドワーフの仕事が減ったことはないからねぇ。減る以上に増えてるかもしれない。確かにブラックな環境だった。


 労使交渉というかドワーフ妻達との交渉結果、現在の仕事が済んだら必ず工場を半年閉めて休暇させ、半年後も仕事量をもう少し減らすと約束し許して貰った。


「判ればいいんですよ、判ればね」


 ドワーフ妻達の言葉が胸に刺さりましたよ。

 ヴァイスにも話して、ドワーフの仕事が必要になる案件は一年は我慢しようということになった。


「やっぱね、現場の事情を無視しちゃいかんですよ」


 ……アロンが他人事のように言いやがった。


 ――ちくしょう。


 無視していたわけじゃないけど、やりたいこと優先してきたのは認める。

 でも私利私欲で動いたことはないぞ~と心の中で言い訳して、サエラに慰められながら自室のベッドでダンゴムシになる。


「主様、これで小人族とハーピィの悩みが解消されるならいいじゃないですか」


 そうなんだけどね。

 確かにそうなんだけどさ。


 サエラに優しくされると泣きたくなる。


 ちなみに、”子供達が真似するので、子供達に見えるところでのダンゴムシは止めて下さい”と、マネージャーストップというかPTAからのクレームというか……が入り、最近はダンゴムシにも自由になれない状態。


 今も扉に鍵をかけてからのダンゴムシ。

 俺に許された閉鎖的ダンゴムシワールド。


 世間では化物だの神だのと言われていても、家に帰ればごく普通のお父さん。

 まあ、仕方ないよね。


 国民が増えてとても嬉しいのだが、それは本当に喜んでるのだが、それに伴う別件のせいで陰で泣いてる国王が居ることも是非忘れないで欲しい。


 ――俺は丸まりながらも強く願った。

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