29、各国の状況(ニカウア戦直後・その三)
首都に戻った俺は、サラにギズムルとバルトロを預け、今後のことを決めるために、宰相のヴァイスと経済担当のラニエロを我が家の俺の部屋に呼んだ。政務関係は、俺の部屋か居間でやってるのだが、そろそろ政務を行う建物を建てないといかんな。まあ、今はそれは置いておこう。
ギズムルの森のことを話し、開発の計画を進めるようヴァイスとラニエロに伝えた。
真っ先にギズムルの社を、立派な社を建ててくれと念を押したのは言うまでもない。
二人が帰ったあと、エルザークと会話しているはずのギズムル達が居る居間へ行く。
そこには”神竜だからと言って威張るなよ”とエルザークを相手にムキになってるギズムルがいた。
「おいゼギアス、何でもギズムル用の社を建てるというではないか? 我の社はどうなる?」
神竜様は御社が欲しいらしい。
でかくて邪魔だけど、貴方の神殿残してあるでしょうに……。
「でもさ? ギズムルは土地神としてあの辺りの土地とそこに住む者には加護を与えるというぞ? エルザークはこの世に不干渉なんだから加護なんか無いだろう? 社作っても誰も参拝なんかいかないんじゃないか?」
我が居るからディグレスはナザレスをお前のところに寄越し訓練してくれてるのだから……と引き下がらない。
ナザレスは我関せずの様子。
我儘な上司の矛先が自分に向かわないよう対策するのは龍も一緒らしい。
「うん、だからエルザークとナザレスの部屋をちゃんと用意してるじゃないか?」
いや、住居と社は別でなければと食い下がってくる。
お社って確か、神様の住居じゃなかったかな?
「そうか? でもうちに居れば、リエラの料理が食べられるし、風呂にも入れるぞ?」
まあ、それらは要らないから社が欲しいというなら考えるけどと言うと、渋々引き下がった。リエラの料理と風呂は失いたくないらしい。
神竜もけっこうガキである。
バルトラはというと……。
日頃冷静で落ち着いているゴルゴンのスィールが珍しく興奮した様子で、
「バルトラ様のお相手は我が種族が責任をもって務めさせていただきます」
元部族長の誇りにかけて、バルトラの面倒を見るに相応しい者を連れてくると言う。
ラミアにも声をかけておきます、あの種族もきっとバルトラ様のお相手をしたいと言い出すと言う。
結局、ゴルゴンから一名、ラミアから一名が選ばれてバルトラの相手役が決まった。二人のうちのどちらかが毎日身近でバルトラに不便が無いよう接するのだという。この役は名誉なものらしく、選ぶのがとても大変だったとスィールは言っていた。
やはり蛇に関係する種族にとって、ギズムルとその子は特別らしいな。
それでも俺がギズムルとの戦いに向かう前、スィールは俺の味方をしてくれていた。うん、とても嬉しいね。
バルトラも蛇の姿になれるのかと聞くと、なれるという。
だが、生まれた時が人型だったせいか、人型のままのほうが楽なのだという。
これは助かる。
我が家や街は人型の者に住みやすいように作られている。
腰から下が蛇型のラミアが生活できるのだから、バルトラが蛇型に戻っても問題はないのだろうが、想定外の不便があっても困る。バルトラだけに合わせて改修するには人手が足りない。そんなことを言い出したら、ラニエロが寝込む。
ギズムルは翌日湿地帯へ戻るのだが、その際
「バルトラよ、神竜の言うことなどきくことはないが、そこのゼギアスと妹のサラを、我が居ない時は親とも思うて言うことを聞くのだぞ」
と子を心配する親の姿を見せていた。
「契約は必ず守るよ。バルトラのことは俺やサラだけでなく家族や仲間と一緒にいろいろなことを教えるから安心していい」
ギズムルの信用に応えなければと強く思った。
ギズムルの姿に感動したんだ。
俺もいつ親になってもおかしくないからね。
見習わなければならない。
「ギズムル様、お兄ちゃんは約束は必ず守りますから。私も守りますのでご安心くださいね」
サラも応えていた。きっと俺と同じ思いなのだろう。
俺とサラによろしく頼むと握手し、バルトラの頭を撫で、そして消えるように湿地帯へ戻っていった。
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