30、深まる関係(その一)

 国内平定最大の難関のように考えていた大蛇ギズムルが、運良く他者の助けを必要としていたために、ギズムルの森を開発する障害は難なく解決した。ギズムルの他にも怖れられている魔獣の生息域はある。だが、当面はそれらの地域に手を出す必要はない。ギズムルのように土地神にでもなっていたら、社を建てて……と思っていても手が足りないのだ。


 最近、エルフ達はデーモンやゴルゴンと共に様々な魔法を研究している。

 建築・土木作業や生活に役立つ魔法が求められてると知り、実験研究を進めている。


 特に興味深く役にたってるのは、混合魔法。

 四大属性の魔法で、戦場ではセンスが必要とされ意外と使いづらい土属性魔法が特に活躍している。


 例えば、火属性の魔法と風属性の魔法を混合すると熱風を生み出せる。風の強さも温度も魔法使用者次第で変えられる。この魔法を覚えたマリオンは、風呂上がりのドライヤー代わりに使って髪を乾かしている。火属性魔法を水属性魔法に変えると冷風を生むこともできる。


 そこに土属性魔法も混合させると、暖かい空気の塊を生みだせる。これに拠って、例えば、コンクリートで舗装された道路を作ってる時、コンクリートを乾かすために、魔法を一度使っただけで、コンクリートを乾かすための温かい空気の塊を乾かしたい箇所に残しておくことができる。つまり乾かしたい箇所が複数ある場合、魔法を使う者は一箇所の作業が終わるまでその場に留まっていなくていい。

 土属性魔法を他の魔法と混合させると、火や水、空気の塊を好きな形で固定することができる。


 これが結構便利なのだ。


 空気の塊は型枠に利用できる。

 風属性魔法に土属性魔法で塊の強度を高めて好きな形の空気の固まりを生みだせるのだ。つまり固めたい形状と固まるために必要な時間を……必要ならば火属性や水属性の魔法も混合することで塊の温度も決めることができる……術式に組み込めば、型枠を作る必要がなくなる。液状のものが求める形で固まったら、魔法を解除すればいい。


 更に、戦場でも使える優れもの。


 ゼギアスやサラのような化物レベルの魔法力を持っていなくても、ベアトリーチェのように強度のある結界魔法を使えなくても、基本的な四大属性魔法を使えるなら、火や水の塊を弓兵の頭上や前面にずっと置いておくことで敵の侵入を阻止できるようになった。


 どちらかと言えば使い勝手が悪い土属性魔法が得意な使い手は、今まで活躍の場が少なかった。きっと寂しかったことだろう。だが混合魔法の開発結果、もう引っ張りだこになった。四大属性は全てほぼ全員が使えるけど魔法攻撃力も防御力も弱い者が他の魔法を使える種族より多いエルフとゴルゴン。支援魔法をかけたらしばらく暇になりがちだったのだが、活躍する場が戦場でも増えた。


 ちなみに、この魔法をスィールに使用して貰って、リエラはプリンやアイスなどを作る際に利用している。まだ冷蔵庫の温度調節ができない現状ではもっとも有効な手段だ。


 またガラス工房では、同じ形の製品を作るために利用しているという。商品の大量生産が可能になりつつある。オルダーンにあるショップから注文がひっきりなしに来てるので非常に助かる。これからレンズ製造を試していこうとしてるので、そこでも役立つことが期待されてる。


 これまで不遇だった土属性魔法使いの時代がやってきたのだ。入国したばかりでも四大属性魔法が使える者は特に即戦力扱い。魔法を使えなくても、人手が欲しい場所はたくさんあるから誰もが即戦力なのだが、特に足りなくなったのである。 


 これを機会に魔法研究所を作ろうという話になり、現在組織作りを進めている。


 建築・土木作業の効率があがったため、移住者を増やしても良い時期が近づいている。再び奴隷解放の戦いに入る日が近い。


◇◇◇◇◇◇


「……いや、大変驚きました。綺麗に整った街並み、見たことも聞いたこともない無い多くの技術とそれによる文明的な生活。生活する人々の明るく活気ある様子。目にするもの全てに驚きました」


 俺とサラ、ベアトリーチェの三名と、ザールートの領主の奥方と息子二名が、俺の家の居間で談笑している。数日前から三名が我が国の首都へ見学に来ている。ザールートで既に顔見知りのサラに三名を案内させていた。俺はまとまった時間をなかなか確保できず、今日初めて顔を合わせる。


 奥方のファラ・ガルージャが、見学した感想を楽しそうに話している。


「どうやら楽しんでいただけてるようで良かったです。滞在中は可能な限りご案内ご説明しますので遠慮などせずに何でも聞いてください」


 サラには責められるところはまったく無いのだけれど、ザールートでの一件が理由で今後のわだかまりを残すことはしたくなかった。サラもその辺は判っているようで、ザールートからのお客は自分が案内すると言ってくれた。


「息子達も勉強になったようで、こちらに来て本当に良かった。今回は領主のカレイズは伺うことはできませんでしたが、必ず寄越しますのでその際は宜しくお願いします」


 長男で次期領主のエルスと次男ケーダも母に同意している。特にエルスは三名のうちでもっとも興奮した様子。俺に聞きたいことがありそうなので、話を振った。


「エルス様、何か興味を持てそうなものありましたか?」


 俺の言葉に待ってましたと言わんばかりに食いついてきた。


「ええ、それはもう……。まず最初に驚いたのは石鹸でした。香りも良く泡立ちも柔らかく、母はあれを知ったら手離せないと感動しておりましたし、私も同感でした」


 うん、そうだよね。

 我が国で使ってるような石鹸は他国で見たこと無い。

 まあ、それも当然だよな。

 二十一世紀の日本で売られていてもおかしくない質のものだからな。


「この国のガラス製品や陶器の素晴らしさはオルダーンで売られている商品で判っていました。驚いたのは、子供達が楽しんで作っているモノですら、立派に商品として成り立つモノが多かったことです。この国の製品レベルの高さの理由が判った気がしました」


 自分の家庭用に作らせているのだが、確かに、中には素晴らしいモノがあるな。

 ……子供が作るにしてはだが。


 エルスは次男のケーダとともに、道路に使われてるコンクリートのことや、板ガラスのことなどを感心して話していた。

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