30、深まる関係(その二)

「そうですか、暇を持て余していないようで良かった。で、これからは具体的な話しをしましょう。そちらも興味があるでしょうし」


 俺はザールートの砂浜の砂をアンヌに持ってきて貰って調べてみた。ガラスの原料としてどうなのかを実際に使ってガラスを作り調べたのだ。

 すると、硅砂の成分量が多く、高い温度にも耐えられるガラスが作れる砂だということが判った。


「……そちらの海岸の砂を売っていただきたい。値段はうちの担当の者と後ほど相談でお願いします。あと、そちらでは遊ばせてる農地が相当あると聞いています。そこをお貸しいただきたい。そこには温室を建て、オリーブやバラやジャスミンの栽培を行う予定です。地代も担当者と決めていただければと思います」


 耐熱ガラスはうちの設備のために使用する分だけ必要なので、そう多くは必要ない。……今のところはね。


 そして温室での栽培では、オリーブは石鹸の材料として、バラとジャスミンは精油や香料の原料にしたいのだ。オリーブもそうだが、今は花のほうを栽培したい。今は自生しているバラなどから精油を作り、石鹸の香り付けをしているが、香りの種類も増やしたいし、何より自生のモノだけを利用していては原料の確保が大変なのだ。


「あの……オルダーンでは新たな野菜を栽培し、特産品として売り出して、近隣ではなかなか好評です。これからは広い地域でも求められるものになるでしょう。私共もできれば何かと思ってるのですが、それは無理でしょうか?」


 エルスが率直に、でも遠慮がちに聞いてくる。


「ええ、だからそのための準備をしているのです。ザールートの客は我が国です。オリーブはずっと栽培して貰いますが……今回実験で栽培するバラやジャスミンだけでなく、将来は花の品種も増やします。もちろん上手くいけばの話ですけどね。我が国がザールートで栽培されたオリーブと花を全て買い取ります。いかがですか?」


「ええと、おおよそで良いのですが、どの程度の売上になると考えてらっしゃいますか?」


「今、そちらで作ってる穀物の全ての売上とそう変わらないと思いますよ」


 何故ならうちで作る石鹸は必ず高額商品になる。

 現在市場で売られてる石鹸でもかなり高い。

 動物油脂原料で匂いもキツイもの、それもあまり良い香りではないものが多いのにだ。


 バラで香り付けした商品は金持ち相手に、ジャスミンなどは比較的価格を抑えて……と取らぬ狸の皮算用しているのだが、だが売れる自信があるのだ。


「砂はすぐにでも買い取ります。オリーブや花は、当面うちの者が実験栽培します。そして成功したら、そちらにも栽培に関する情報を伝えますので、その際は温室を増やし、栽培に関わる従事者を増やして……という辺りはそちらと相談の上で進めたい。これはお母様が気に入った石鹸を今より大量に作るために必要なことなのです。順調にいけばですが、我が国で製造する石鹸はザールートへ卸すことにすれば、そちらは原材料の生産と商品の販売で利益をあげられると思うのですが?」


「こちらの石鹸の販売まで?」


「ええ、そうです」


「そちらで販売しない理由があるのでしょうか? ゼギアス様の仰るように、あの石鹸ならば必ず売れると私も思います」


 母のファラが不思議そうに聞いてくる。


「先日サラが伺った時、そちらでちょっとしたトラブルがありましたが、やはり亜人や魔族が作った商品は今のところ売りづらいのです。我々はバカにされてますからね。いずれは亜人や魔族が作ろうと良い商品なら適正な値段で買ってくれるようになるでしょうが、それはまだ数年先でしょう。ですからザールートの人達に売っていただいたほうが、我々も利益があがるのです」


 ザールートの三名はリスクが殆ど無いことに気づいた。更に、これから売ろうとする商品の魅力を知ってるので俺の提案に頷いてくれた。温室を建てる予定などはラニエロに任せることにし、とりあえず領主へのお土産用にと石鹸もザールードへ届けることにした。一年は保つ量を持っていってあげよう。お母様も喜んでくれるだろうし、そうだ、街でもある程度配ろう。いい宣伝になると思うんだ。


◇◇◇◇◇◇


 二週間後、俺はザールートに行った。

 温室建設の様子を見る、それが訪問理由。


 ザールートへ到着し、まず領主のところへ軽く挨拶を済ませ、作業現場を確認する。移動は飛竜。オルダーンの周辺警備ではグリフォンを利用している。だが、ザールートの周辺も警戒する際を考えると、攻撃力に優れた飛竜にも近く住民には慣れてもらいたいのだ。見かけるたびに怖がらせるのは嫌なので、日頃から少しづつ目にする機会を増やそうと考えている。


 少し離れた場所から温泉を引っ張ってくるので、その工事に時間がかかっているが、概ね順調に進んでいた。


 作業現場から街に戻り、街の人達に石鹸を配った。領主の次男ケーダに配って貰ったので、不思議そうな顔はしていたけれども皆受け取ってくれた。


 まあ、石鹸は高額なモノというイメージがあるから、無料で貰うことに違和感を感じるのは当然。


 だが、使用経験者を増やすのが俺の目的なので、経費は度外視している。実際、今のところは仲間の労働力分くらいで原料費はかかっていないようなものだから可能な限り配った。多分、二千個くらいは配ったんじゃないかな。


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