21、整いつつあること(その一)

「あ~あ、これはサラさんに怒られますよ? 家も何もかも飛ばしちゃって……」


 サラにチクる気まんまんのアロンが周囲を見渡しながら言う。


「だっていちいち殴るのも面倒になって、でも、火系や水系を使うより後始末は楽じゃないか?」


 一応言い訳はするものの、周囲を改めて見ると、やり過ぎたかも……とは思う。


 でもさ~飛ばしただけだし、デーモンやガーゴイルは飛べるんだし、キマイラだって生命力強いって話だし、命の危険は最小限に抑えたと思うんだよなあ。


 …………判ったよ。

 反省するよ。


「やっちゃったものは仕方ないですからね。まあ、もう春ですし、魔族は丈夫だと聞いてますから数日くらい家がなくても大丈夫でしょ。でも、手伝わないわけにはいきません。神殿の森の工事が少し遅れるでしょうが、人手をこちらへ多少まわしてもらいましょう」


「ああ、すまんな。で、マルファとは話してどうだった?」


 マルファから最近周囲に侵攻していた事情をアロンに聞かせていた。


 俺が話すつもりだったのだが、”ジズー族の人口やその動態などを含めて他にもいくつか聞いておきたいことがあるので私が聞いておきます”と言うアロンに譲ったのだ。


 ヴァイスの影響が強いのだろう。

 口調もやることもどんどんヴァイスに似てくる。


 頼りになるのは有り難いのだが、頭があがらない相手が増えるのは好ましくない。   

 サラとヴァイスだけでなくアロンにまで頭があがらなくなったらと考えるとちょっと嫌だな。サラだけでいいと思うんだ。


 そうそうマルファの話だった。


「マルファの目的は、リエンム神聖皇国と五分に戦える国家の建設だったようです」


「えっ?」


「そうです。手段は違いますし、国家の性格などいろいろと違いはありますが、私達が目指してる地点と同じようなところを目指していたようです」


「でも何でデーモンが?」


「きっかけはマルファの子供が奴隷にされたあげく殺された私怨です。ですが、そのことで魔族が置かれている現状は危ういと考え、自分が魔族を統一して国家を作ろうと考えたようです」


「なるほどな。俺達ともっと早く知り合っていたら、ジズー族の侵攻もなかったかもしれないな」


「それはどうでしょう。この地では強さが基準です。今回、私達の力を知り、ジズー族よりも上だと思い知ったから、仲間になることを受け入れたと私は思います。もし私達の力を知らなければ、ジズー族は一方的に服従を強いたでしょう。それはゴルゴンを攻めたことでも判るように、まず力を見せつけることを彼らは選ぶのです」


「だが、ハーピィ等や獣魔は向こうからこちらに協力関係結ぶどころか配下にしてくれと言ってきた。俺達は彼らを攻めてはいないのにだ」


「それは簡単です。デーモンを倒したという事実、ゴルゴンや厳魔、そしてアマソナスが仲間に居る事実。その点を考えて、私達とは敵対してはいけないと考えたのでしょう。ジズー族の配下での待遇と私達の配下になった際の待遇も比較検討したでしょうね」


「なるほどね。判った。じゃあ、後のことはヴァイスとアロン、それにシモーナに任せていいかな?」


 アロンが頷くのを確認し、俺は部隊のところへ戻る。


 皆、頑張ってくれたんだ。

 慰労もかねて礼を言いたい。


・・・・・・

・・・


 部隊に戻ると、リエッサが飛びついてきた。


「ゼギアス様、やはり子種をいただけませんか?」


 そうなんだよな。

 強い雄の子を生みたい欲求が、アマソナスとゴルゴンはとても強い。

 アマソナスはゴルゴンよりもその欲求が強い。


 これはゴルゴンの子は必ずゴルゴンしか生まれないのに比べて、アマソナスは男の子も生むから、女の子しか身内として認めないアマソナスは女の子が生まれるまで子種を求めるせいではないかと俺は勝手に想像している。リエッサはまだ出産経験がないらしく、初めての子はどうしても強い雄の子種が欲しいのだと部族の者達にも言ってるらしい。


 だが、俺は遠慮させてもらおう。

 いや、リエッサには魅力あるよ?

 締まった筋肉の持ち主なのに、肉感的な雰囲気を醸しだしているし、ボーイッシュで整った顔も魅力的だ。

 慣れると性格も悪くないし、なにより情熱的でマリオンと同じく一途な面もある。


 リエッサも地肌は薄い青なのだが、その肌はキメ細かくツヤツヤとしてるし、野性的で戦闘的な表情も見せるが艶のある女の顔も見せるし、可愛いところもある。スタイルも出るべきところはしっかりと出て、細くあって欲しいところは細いんだしな。真面目な性格も好感度につながっている。


 だからこうして抱きつかれるのは嫌ではないのだが、俺を見る目はいつもギラッとしていて、この目で見られると狼に狙われてる子羊のような気持ちになるのだ。


「リエッサ、ベアトリーチェと戦って判っただろう? しっかりと訓練すれば強くなるんだ。強い男だけ求めずに、いろいろ男を見てみろ」


 ”そうかもしれませんが、やはり私は・・・・・・”と俺に拘るリエッサを優しく放し、部隊の前へ歩いて行く。


「今回の戦い、皆よく頑張ってくれた。ありがとう。おかげでジズー族とも仲間になれたし、この辺りでの戦争も多分無くなる。お疲れ様でした」


 俺の言葉が終わると、


「大将が最後あんなことしちゃうもんだから、俺は自信無くしちまいましたよ」


 ダヤンがボヤいている。


「ダヤン、お前の指揮見事だったな。敵の動きを先読みして攻撃させずに倒していく様子は見ていて感動した」


 他のリーダー達にも、戦闘の感想を伝える。

 皆、照れながら喜んでくれた。


 リエッサとスィールはお約束通り”お礼なら一晩付き合って……”と言っていたが聞こえないフリをした。


 ヴァイスに思念伝達で連絡し、部隊の迎えに飛竜を百頭要請した。一頭に三名乗れるから、数回往復して貰えば全員神殿の森まで戻れるだろう。ずっと歩きで戻るのは大変だろうからね。


 俺は転移魔法で先に戻るけど、何かあればヴァイスかアロンから連絡あるだろう。

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