54、エドシルド訪問から一年後(その二)

 今やグランダノン大陸で最大最強国と呼んで差し支えない国となったサロモン王国は、他国がドタバタしてる間に着々と充実させていった。

 軍事力の強化や住環境の充実など、ひと月ごとに前向きな変化が生じている。


 二十一世紀の地球の先進国日本での生活を知っているゼギアスにとってはまだまだ多くの不満がある状況なのだが、今までの生活やリエンム神聖皇国とジャムヒドゥンの生活を知る国民や友好国にとって、サロモン王国の体制は楽園であり天国であった。


 衣食住の心配がない。

 命の危険が少ない。


 この二つだけでもほとんどの者にとって夢のような環境なのに、子孫の繁栄にも国が協力し、食や労働にも楽しみがある環境は既に幸せオーバーフロー状態だった。


 まあ、ゼギアス自身も、魅力的な奥さん達とのハーレム状態をしばしば堪能できて嬉しい日々を送れているし、子供たちも元気に育っているので、欲を言わなければ十分幸せだった。


 ミズラの出産後、サエラ、スィール、リエッサも二人目の子供に恵まれた。我が家には一歳から八歳までの子が十一人も居る。


 ちなみにサエラとスィールの子は今回は女の子で、やはりサキュバスやゴルゴンの種族特性よりもデュラン族の特性を持ち外見や性質は人間のようだったが、性別が女の子のせいか、サキュバスやゴルゴンの特性も一人目よりは引き継いでいるように見える。


 俺もだけど、サエラもスィールもそんなことはどうでもよく、とにかく子供ができたというだけで喜んでいる。リエッサの子はまた女の子でリエッサは大喜び。アマソナス現族長のヘラは二人目も自分が鍛える!と気合を入れていた。できれば程々にして欲しいけれども、喜んでくれてるので陰からそう祈るだけである。


 俺は子供たちと龍気戦隊デュラン族なる戦隊ごっこを子供たちと遊び、その中で敵の総大将を演じている。俺が倒されるときの”我を倒しても第二第三の●●が……”という台詞が子供たちの間で流行ってるのはサラには内緒だ。


 サラに知られたら、”お兄ちゃんみたいなのが二人も居たら私は家出する”などと言われかねないからね。もしかすると既に知っているかもしれないが、きっと温かい目で見てくれているのだろう。


 俺視点で見ると子供は十一人も居ることだしもう十分なのだが、奥様視点で見ると多くても二人で、この時代多ければ十人、少なくても六人程度出産するのが普通だからまだまだ産みますよ~という感じ。


 特にもともと出産率が低い種族の奥様、ベアトリーチェ、サエラ、スィール、リエッサは”ゼギアス様ならまだまだ孕ませてくれそう”と言って、今後はもっとイチャイチャするんだと力が入ってる。なんだろう……喜んでくれるのは嬉しいし、イチャつくのは大歓迎なのだが、奥様達の間で俺の種馬色が強まってる気がしてどうも腑に落ちない。


 でも、最年長二十八歳のミズラは当然だが、女の子の色が薄まり女性らしさが強調されてる奥様達の色気の戦闘力は凄まじく、まあ、毎晩のように奥様達に籠絡されてるのである。嬉しい敗北だけどね。俺も二十六で、元気いっぱいイチャつき盛りだし、仕方ないよね。だって、俺が寝室に居ると誰かしらがベッドに潜り込んでくるし、多い日だと三名も来るし、触れる肌の柔らかさ、甘い体臭が香ってくるだけでたまらなくなるよね。


 いや、男ならたまらなくなって当然だ!

 ならなければならない!!


 こんな感じだから、俺としちゃできるだけ家でベッドに入りたいのだ。

 奥様達とイチャついた日々だけを送りたいのだ。


 ……だが、世の中そうは甘くない。


 頻繁に訪れなくても、ほぼ自力で領地運営を順調に進められるようになったオルダーン、ザールート、そしてフラキアを除くとまだまだ頻繁に確認しないといけない領地がある。ジラールとカリネリアは安心して任せられるところまでは行っていないし、コルラード王国、カンドラ、ライアナはやっとスタート地点に立ったばかり。


 ジラールは、対ジャムヒドゥン方面軍事拠点としての整備は済み、紡績・紡織の街へと変わるよう日々努力中。綿・毛・絹全て生産には成功しているし、蒸気機関を利用した工業化で大量の織物の製造も可能になった。本来なら大成功していておかしくないはずなのだが……俺が失敗して、ちょっと足踏み状態を起こしてしまったのだ。


 織物のデザインというか、模様というか……この時代の感性からあまりにもかけ離れたものを俺が指示して作らせ……大量に売れ残ったのだ。意地になって商品製造可能になった最初の一年は俺の指示に拘らせたのだが全滅みたいなもん。


 やっぱね。デザインって時代を先取りしすぎちゃダメなんだよね。

 ええ、よ~く判りましたよ。


 まあ、こんな偉そうなこと言ってるが、単に地球で流行ってたデザインを模倣しただけなんだけども。


 ……ということで、二年目は、我が家でデザインセンスのあるサエラを筆頭に奥様達の意見も取り入れてみました、というより全ておまかせしました。地球で複製してきたファッション雑誌から奥様達が良さそうなデザインを選び、それをこっちの世界風にアレンジしていましたよ。


 うん、売れてる売れてる。

 一年目の損失はどうやら挽回できそうだし、今後も見込めそうだ。


 申し訳なさそうな俺を、ジラールの代理領主のフベルトと長女のオードリィが慰めてくれましたよ。


「こういうこともありますよ。今年の売上は順調に伸びてるんですから気にしなくても」

「斬新なデザインで、私は嫌いじゃなかったですよ? でも衣装にはちょっと使いづらいかもしれない。……あ、でも嫌いじゃないんですよ?」


 いいさ、俺が評価されなくても、うちの奥様達が評価されたんだからさ。


「俺のことを嫌いになってもサロモン王国製品は嫌いにならないでください」


 そう言おう。

 いや、言わない方がいいかな?

 けっこう批判された台詞だしな。


 まあ、中核になる産業が順調に育ってるのは確かだから良かった。

 人口も元の五万人に近づいてるし、近いうちに五万人は越えるだろう。


 ジャムヒドゥンとの交易は現在止まってるようなものだけど、ジラールが東西交易の重要な中継地点であることは変わらない。また、カリネリアからジラール、ジラールからザールートまでの間に作られたスカイウォークがとても便利で、コルラードに用事が無い場合はジラールを必ず利用する商人が大多数だ。


 砂や岩を積み上げて石化し、周囲をコンクリートで補強し、それを道路の状態まで整形したスカイウォークは、砂漠でも道に迷うこともなく、途中に宿や飲食物を補給する休憩地点もあり、更に、スカイウォーク周辺なら砂漠の怪物も出てこない。


 スカイウォークをラミアやゴルゴン連れてトテトテ散歩するバルトロが、デザートスネークは当然としてサソリ型や蟻型の化物など怪物達と遊んでしまうので近づかなくなったのだ。怪物が出てこなくても、スカイウォークで出会う商人たちとの会話や各地の食べ物を食べられてバルトロはご機嫌だ。バルトロの趣味とサロモン王国の実益を兼ねたお散歩によってスカイウォークの安全は確保されている。

 これもスカイウォーク利用者にとっても魅力だ。


 おかげでジラールは、利用者も移住者も毎日のように増えている。

 ジラールの周辺、砂漠地帯の土壌改良も徐々に進み、ヤシやブドウなどを栽培し始めている。ヤシはなんとかなりそうだが、ワイン向きの味には遠いブドウは試行錯誤が必要だろう。だが、可能性が見えているので今後にだいぶ期待している。


 目下の悩みは、ジラールの守備隊長を誰にするか。

 うちの軍はもともと攻めるに強く守りに弱点がある。

 それは兵数の問題が大きかったのだけれど、兵数の問題が解決しつつある現在、守備が得意な将が足りないのでどうしようか悩んでいる。


 今のところは俺がやることになっているが、できれば早めにジラールの守備を誰かに任せたい。


 カリネリアのカカオは今のところ順調で、新作のケーキやお菓子の原料としてリエラからも”もっと安く手に入れられるようになりたいですね”との要望が来ている。


 だが、今植えているカカオから実を収穫できるのは四年後だから、現在自生しているモノから収穫できる範囲で利用するしかない。ただ、年に二回収穫できることと、一つの樹から多ければ三百個くらいは収穫できるので、サロモン王国限定の製品として使う分にはそう高価なものにはならないのではないかと思ってはいる。


 またジラール同様ヤシを栽培しているが、こちらはカカオよりも順調で、金鉱山に頼らなくてもカリネリアの領地を潤せる日は近いだろう。何せ超高価な石鹸の売れ行きが良いのだから、もう少し安価な製品を作れば更に収入は安定すると思うのだ。


 リアトスも総督の仕事に慣れてきて占領後の不安定な時期が終わりつつある。またホーディンも治安維持と対外警戒に余念がないようで、コルラード軍と協力して軍事演習もしてるらしい。コルラード王国のヤジールとの意思疎通も良いようだし、カリネリア方面は安心していられそうだ。


 コルラード王国は反国王派を政治の場から弾いた後は安定している。香辛料やハーブの栽培はまだ量は生産できていないが、ライオネルが成果を出しているので、近いうちにそれなりの生産量を安定させてくれると期待している。手伝っているエルフからも手応えがあると報告来ているし、これからは、ヴァンレギオスのマドリュアスの助力も得られそうだから栽培面での問題解決は進むだろう。


 マドリュアスは木の精霊で、土の状態はともかく木の状態については把握してくれる。日光や水が足りない、栄養が足りない、気温や湿度の問題、病にかかっているなどの状況をライオネル達に教えてくれる。なので、問題のありかを絞って調査できるので作業効率がアップしてる。


 カンドラはインフラ整備もだいぶ進み、そろそろ都市の再整備に入る段階。衛生面も向上して住みやすい国になりつつある。米の生産も実験的に始めている。今のところは野菜の収穫で利益をあげているが、いずれは米の生産国にしたい。


 ライアナは先にトウモロコシの栽培を軌道に乗せる予定だ。もともと人口がカンドラの倍あった国で建物も多く、立ち退きや移動に費用も時間もかかってインフラ再整備が難しい。だからトウモロコシで利益をあげ、それをもとに一部ずつ改善していくことでライアナ国王オレジノと話はついている。


 この一年ほどで変わったことや現状はこんな感じだ。

 いろいろと問題はまだあるものの、前向きな問題だからいいかなと思ってる。

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