39、フラキアの状況と皇国との協定(その二)

「それで、皆様にはお願いがございます」


 毎週、紅茶でお茶会を開いて貰いたいこと。

 ケーキはこちらから提供するので、お客は最大十名でお願いしたいこと。

 表の目的は、紅茶とケーキの宣伝だが、実際は情報収集の場だから主催者の目が届く人数にしたほうが良いと考えてるからだが、もしもっと人数を増やしたいなら相談に乗る。


「毎週、この美味しいケーキを食べられるのでしたら、喜んで開きますわ」


 次女のナミビアが賛成してくれる。他の方々も頷いてる。


「それで、フラキアにいらっしゃる奥様達は良いのですが、お嬢様達はせっかく情報を集めても、それを伝える手段が限られてしまいます。そこで……」


 フラキア自治領の紋章を刻んだペンダントを出し、


「申し訳ありませんが、髪の毛を一本いただけませんか?」


 娘達全員へお願いする。

 長女ティアラから受け取った髪一本をペンダントに載せ、魔法でペンダントに所有者を登録する。


「このペンダントには、ティアラ様が伝えようとすることを、フラキアと領地内に居る私共のエージェントや私、そしてミズラのような特定の者へ伝える魔法が込められています。ネックレスでも宜しいですし、他の装飾品と合わせてお使いになっても構いませんが、お体に触れるようお持ちになって、そうですね。試してみましょう。ミズラへ何かを口に出さずにお伝え下さい」


 そう言ってティアラにペンダントを渡し、今回は手に握ってから思念を送ってもらうことにした。ティアラは俺に言われるがままに手にペンダントを握り、ミズラの顔を見る。


「ええ、ティアラの考えてることが判りましたわ」


 ミズラがそう笑うと


「これは面白いわね。どれほど離れても伝わるのでしょうか?」


 ティアラは思念伝達のペンダントを見ながら聞いてくる。


「そのペンダントの効果だけなら、残念ながら、フラキアからですとジャムヒドゥン領内が限界ですね」


 ティアラはジャムヒドゥンの四士族ダギ族の有力士族のもとへ嫁いでるから、伝達に必要な距離は十分なはずで、ティアラ自身も安心していた。


 他の娘達のペンダントにもそれぞれの髪で所有者登録してから手渡した。


「お渡ししたペンダントは所有者以外には使えません。あと、一年に一度フラキアで更新しない場合も使えなくなりますのでお気をつけください」


 そして、情報を無理に集めようとしないで欲しいということを伝えた。不思議そうな顔をしているので、その理由を説明する。


 地位の高い方たちの間では、知っていても不思議じゃない情報でいいのだと、その情報を知って更に調べなければならないことや気になることはサロモン王国のエージェントが陰で調べる。


 フラキアは奥様達や娘達各人の立場なら知っていて不思議じゃない程度の情報を共有してる。この立場を維持することで、フラキアの者がどこに居ても警戒されにくくなる。それが大事だし、何かあってもフラキアに火の粉が飛んでくる確率は低くなる。


「まあ、それもしばらくのことで、フラキアとサロモン王国で築いてる情報収集機関が整ったら、皆さんには自由にして頂いて構わなくなります。そうですね、あと二年以内にはそうなることでしょう」


 三女のカエラが”そうなったらケーキはどうなるの?”と心配そうに言ってその場に笑いを呼んだ。”それまでには簡単にケーキを手に入れられるようにしておきますよ”と俺が言うと三女はニパッと笑っていた。まあ三女はまだ十七歳、結婚していてもまだ若い。


 試食会を無事終えて、領主と奥様のアリア、そして長女のティアラ、次女のナミビアの四人を残し、皆部屋を出ていった。


 領主ファアルドは、俺に相談があると話し始める。


「残っていただいてすみません。ここに残ったティアラとナミビアの件でご相談があります」


 ティアラとナミビアが俺に軽く頭を下げる。

 ティアラは、ジャムヒドゥンの四士族ダギ族の有力士族のところへ嫁いでる二十二歳。ナミビアは、カリネリア自治領領主マクシムの次男へ嫁いでる十九歳。

 ティアラとナミビアは正妻アリアの子。

 二人とも領主ファアルドから金髪と青い目を、アリアからはバランスの良さを受け継いだ端正で整った美しい女性だ。ティアラからは落ち着きを、ナミビアからは柔らかさを感じる。


 ちなみに、ミズラは子供がなかなか生まれなかった時の養女で、領主の娘の中では最年長、現在二十六歳。俺はミズラがダントツに綺麗で魅力的だと思ってるが、その辺は好みということでこれ以上は触れない。


 それで相談の内容というのは。


 嫁いでから五年になるがティアラに子供ができない。そのことをはっきりとは言われないのだけど空気が明らかに責めているもの。

 夫も第二夫人や愛人を可愛がって、ティアラとの仲も冷めてる。

 血筋で言えば、第二夫人や愛人と比べるとティアラが最も良い。

 だが、第二夫人もそこそこ血筋は良い。

 これが問題で、関係が冷めたティアラよりも第二夫人を正妻に置換えようとする動きがある。


 通常は、正室には血統を求め、子供は正室でも第二夫人でも愛人でも、誰かから生まれればいい。ところが第二夫人の血統もそこそこ良い上に、ティアラとの間に子供も居ないし、関係は冷めてる。

 そしてまだはっきりとはしないが第二夫人に懐妊の兆候がある。


 夫も家族も、ティアラが今のまま正室だと、相続の際、第二夫人を手厚くできない。それを嫌って、第二夫人を正室に……要は、ティアラを追い出そうとしているそうだ。最近はかなり露骨なのだという。


 フラキアがサロモン王国と今も協力関係になければ、ティアラに耐えて貰うところだが、状況が変わったので、無理をさせる必要はないのではないかと考えてる。


 それにもしジャムヒドゥンがフラキアに侵攻するようなことがあれば、夫や家族と冷めてるティアラの身が心配だ。夫や家と上手くいっていれば、悪くてもフラキアとの関係断絶を強制される程度だろうが、今のティアラの状況だと殺害される心配がある。


 そこでこの際、ティアラを病気療養の名目でフラキアにこのまま残し、先方には正室として求められる諸々を務めることができそうにないという理由でティアラを離縁してもらう。


 その後、ティアラをオルダーンの次期領主か、ザールートの次期領主のもとへ送りたい。だが、ゼギアスは賛成してくれるか? 賛成してくれるなら是非後押しして欲しいとのこと。


 オルダーンのクラウディオとザールートのエルスか。

 どちらも良いやつで俺は好きだからなあ。


 俺個人としては本人の自由意志でと言いたいのだが、この世界では俺のような考えは俺くらいで、家同士の結びつきだのの政治的な関係を構築したり維持するために結婚するのが普通。

 後押しまではどうかと思うが、反対するつもりはない。


 それにクラウディオとエルスのことはよく知っているが、ティアラのことはほとんど知らない。

 どうしたもんかなと迷っていると、ミズラが


「オルダーンとザールートでしばらく過ごしてみてはいかがですか? ティアラも神経すり減らして生活してるようですし、何ならサロモン王国の我が家でのんびりするのもいいでしょう。その後改めてオルダーンとザールートの次期領主とのことを考えてもいいのでは?」


 ”でもティアラももう二十二ですし”とアリアは母として落ち着かない様子。


 この世界では十五歳から結婚できるし、二十歳を越えると行き遅れてると見られがちだから、アリアの心配は判らないわけではない。


 だが、ティアラが”そうさせて貰えるなら”と言うので、領主ファアルドも”しばらく休養させるのもいいな”ということになった。

 最初は我が家で預かり、オルダーンとザールートへ遊びにいく予定とした。 


 まあ、ミズラが面倒を見るというので、俺に不安はない。


 次に、ナミビアの話。


 ナミビアが嫁いだカリネリア自治領というのは文化・芸術に優れた都市で、詩や文学、彫刻や絵画で才能ある人材を集めてるらしい。


 ナミビアは一通りの教養はあるものの、文化芸術の知識や才能は正直周囲に見劣りする。

 カリネリア領主の次男であるナミビアの夫は優しい人で、ナミビアとの仲も良い。

 だが、領主のマクシム・コウトニクは、ナミビアにもそれなりの見識を求めてくるのでどうしたらいいかとファアルドもナミビアも悩んでいた。


 フラキアでの紅茶栽培と製造のためサロモン王国からエルフやドワーフが派遣されている。現場見学のついでにエルフやドワーフと話してたら、ゼギアス様はこの世界では知られていない様々なことを知ってる”と言う。


 ではナミビアの悩みを解決する良い案も教えて貰えるのではないかとファアルドは考えて相談しているということらしい。


 うーん、知識だけなら、我が国が誇る図書館があるから、そこでなんとでもなりそうな気がする。絵もセイランに協力を頼めば多少は見方も判るようになるかもしれない。


 だが、詩や文学となるとなぁ。

 まあ、とにかくカリネリアの文化や芸術とやらがどういうものかを知らないと対応できない。


「一度、カリネリアの文化や芸術に触れてみないと私もどうしたらいいか思いつきません。明日からはしばらく国で用を抱えてるのですが、それが済んだらカリネリアへ行きますので、ナミビアさんにはその際カリネリアを案内していただけないでしょうか?」


 領主達はお願いしますと頭を下げ、ミズラは”その際は私も同行しますね”とナミビアを安心させていた。俺だけだとやはり怖いのかもしれない。


 あ~あ、イケメンだったらなあ、きっと怖がられないのに。


 領主達との話はここで終わり、俺はミズラに”時間が許す限り皆と話してきたらいい”と告げ、フラキアを拠点とした情報機関組織作りを担当してるモルドラの部下アルマンのところへ行く。一応モルドラから報告を貰ってるのだけど、やはり顔を合わせておきたいと思っていたのだ。


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