4、亜人狩り (その三)

 里の南側に転移しマルティナと共に北側へ移動していった。

 人の気配がする家は中を確認した。兵士が居ないなら後続のサラ達に任せると決め、避難しろと声をかけるだけにとどめた。


 やがて兵士を見つけ闇属性を纏わせて 火系魔法を放った。


 俺は魔法を放ったあと、チラッとだけ周囲の様子を確認するものの、魔法がレジストされてないとわかった。

 ならば問題はないので、そのまま先へ進む。


 マルティナは闇属性を使うと言った意味を目の前の兵士が火に食われていく様子で理解したようだ。火で燃やされてるのではない。火に食われているとしか表現できない様子なのだから判るだろう。


 この状況は慣れないと確かに恐ろしい。

 ゼギアスが使用した火系魔法は威力の弱いモノだ。

 それはマルティナにも判る。最弱とは言わないが、そんなに威力のある魔法ではない。魔法耐性がある、もしくは対魔法障壁を張れる者ならほぼレジストできる程度の魔法だろう。魔法耐性がなくても、対魔法障壁を張れなくても、あの魔法では火傷をそこそこ負うくらいで滅多なことでは死に繋がらない。


 だが、闇属性を纏わせたあの火系魔法は、レジストできなければ確実に死に繋がる。火がついたところから食われているように身体が消えていくのだ。事前に闇属性を纏わせた攻撃魔法について説明されていなければ、何が起きてるのか判らなかっただろう。


 (ゼギアス様達を決して敵に回してはいけないというベアトリーチェ様と私の考えはやはり正しい。ゼギアス様がその気なら、国を起こすことも難しくない。あの力を見て反抗する者など居るだろうか……。


 グランダノン大陸南部には亜人や魔物、魔族が多く住み、種族や部族ごとの集団で生活している。その集団はせいぜい原始共同体に毛が生えた程度のものが圧倒的に多く、エルフのように部族単位の共同体は比較的大きな共同体。


 食料生産に携わる集団は少なく、そのことが弱肉強食傾向から離れられずにいる地域だ。昨年倒したオーガなどは強者に従う傾向が強いから、ゼギアスが従えようと考えたなら簡単に従えられるでしょう)


・・・・・・

・・・


 里のほとんどを確認した。あとは北側の一部に残る兵士を倒せば里の制圧は終わるだろう。

 まだまだ問題なく戦えるが、敵に支援部隊がもし来た場合、規模に拠っては不安を感じたので、俺は一旦マルティナに回復魔法をかけてもらうことにした。


「ありがとう。この先には既に捕まった里の人が居るだろう。それを守る兵士も数人は居るだろう。マルティナは少し離れたところで待機していて。鎮圧したら合図するからさ」


 マルティナの治癒・回復魔法は相当なものだが、攻撃力には不安が残る。


「これまでのようにいけばいい。でも得てしてこういった最終局面では、中ボスクラスが出て来るものなんだよ」


 と、前世で遊んだゲームの感覚を俺はつい口にした。


 中ボスって言われても何のことか判らないよな。だけど、言ってしまったものは仕方ない。それに判らなくても、マルティナは指示に素直に従ってくれそうだ。今はこれで良しとしよう。


「それじゃ先に行くね」


 俺は神聖皇国側の道を目指して駆けていく。

 マルティナは家の陰に隠れるように後を追ってきた。


 予感は当たってしまった。里の人を捕らえて檻へ入れ、その周りには五名の兵士がいる。その中には隊長も居て、兵士達に指示していた。


「まだ四名しか捕らえていないぞ! 残りはまだ来ないのか!」


 隊長は苛立って怒鳴っている。

 檻の中には確かに四人居る。その中には見覚えのある猫人のお姉さんの姿もあった。


「あ、ゼギちゃん! 助けて、助けてよ~~~」


 俺を見つけ檻にすがって叫んでる。弟ちゃんも中に見つけた。お姉さんの声で俺に気づいた他の人も助けてと叫び始めた。


 (この場面でゼギちゃんって呼ばれるとは)

 

 つい苦笑してしまった。

 もちろん助けるさ。


「じゃあ、ゼギちゃん、イッキマース!」


 前世で有名だったセリフを真似て、敵に突っ込んでいく。

 俺の口調の軽さと裏腹に、火系魔法をレジストできなかった者の末路は悲惨だ。助けてと叫んでいた檻の中から見ている里の人達も無言になる。


 それはそうだよね。

 火に食われて消えていく様子なんて恐怖の対象でしかない。


 ヒィ……ヒィィィィィィィィ……


 目の前で兵士三名が火に食われていく様子に恐れる声をあげ、隊長と兵士二名が逃げていく。追って殺すか?と考えたが、見るからに兵士とは違う格好をした女が一人残っている。黒い厚手のローブを纏い、その手には短剣が握られている


「あんたは逃げないのかい? それともあいつらとは別口かい?」


 その女に何か違和感を感じて、逃げた兵士を負うことを止める。


「あの方達とは同じ国の人間以上の関係は無いわね。でも。私は強い殿方が好きなの。戦ってみたくなるの。さっき面白いことしてたわね? あなたを見てると子宮がキュンキュンするわ。組み伏せて私のオトコにしたくなるのよ」


 赤い唇を舌なめずりしながら近寄ってくる。

 妖しい雰囲気を持つ美人で、ローブが翻るたびに見えるスタイルもけっこう良さそうだけど、Sっ気のある女性はちょっと苦手かもしれないなあ。


 速度を少しづつあげて近づいてきた。


 (来る!)


 右手に無属性の龍気を纏わせ、その女が振り下ろした短剣を頭上で受け止める。


「へぇ、気功使い。魔法だけじゃなく気功まで使うならら、モンクか何かかしら? でもやはりやるわね。私の短剣はそこらのナマクラじゃないのに。ま、本気で切りかかったわけじゃないけれど」


 俺から下がって距離をとり、短剣を腰にしまった。


「じゃあ、これはどう? 」


 赤い瞳を光らせて、先ほど俺が使っていたのとは比較にならないほど威力のある火系魔法を放とうと詠唱している。目前の女は魔術師か? 頭上にあげた女の両手に燃え盛る火炎の塊がドンドン大きくなる。


 だけど黙ってその様子を見守っていた。


「ほう、逃げないのね。受け止める自信がある? それとも当たらない自信? まあどっちでもいいわ」


 火炎の塊は今や家一軒分ほどにもなっている。

 俺も左手に魔力を貯めている。


 (あの程度なら受け止めることも難しくはないけど、檻の中に被害が出ては困る)


 魔法が放たれたらすぐに相殺しようと考えていた。


 頭上から両手を俺に向け魔法を放ってきた。

 左手をその火炎に向けて水系魔法を放った。


 火炎は俺の放った水系魔法に包まれ、水の塊の中で炎がドンドン消えていく。


 「無詠唱で私の火炎を相殺? あなた何者なの?」


 女の顔から笑みが消えた。


「あんたも亜人狩りに来たのか?」


 俺はゆっくりとその女に近寄っていく。


「いえ、違うわ。私は帰省のついでにこの辺りの状況を調べろと言われたの。亜人狩りでここに来る人が居たから一緒に来ただけ」


 俺が近寄る距離と同じほど後ろに下がっていく。


「じゃあ、もういいだろ。あんたが逃げるなら追わないぜ」

「そうはいかないわ。あなたも本気を出してないでしょうけど、私も出してないわ。それは判るでしょ? 」

「ああ」

「さっきも言ったけど、私は強い殿方が好きなの。私を屈服させられるような殿方に夜ごと抱かれたいのよ。あなたが私より強いなら私を好きにしていいの。どう? この体が欲しくはない?」


 ローブを開き、薄手の布で包まれた肢体を晒す。


「魅力的な話だけど、今はいいかな?」

「へえ、私よりもいい女が居るってことかしら。妬けるわね。それより、あなたが勝つ前提のようだけど、そんなに自信があるの?」

「ああ、負けそうもない」

「そう。じゃあ、次で最後にしてあげるわよ」


 女は更に距離をとった。

 両腕を自分の身体にまわし、目をつぶり何やら詠唱している。


 先程までとは違う。

 体外に炎を作り、それを敵にぶつけてダメージを与えるような種類の魔法じゃないようだ。体内に魔力を貯め、魔法で増幅させてるそんな感じに見える。


 観察してると詠唱が終わったのか、ゼギアスに話しかけてきた。


「私の名はマリオン。艶爆のマリオンとも呼ばれてるんだけど聞いたことはないかしら?」

「いや初めて聞いた。山の中で暮らしてるんで、すまないね」

「別にいいわよ。で、あなたの名は? 名前くらい教えてくれてもいいでしょ?」

「ゼギアス。今日からゼギちゃんと呼ばれるようになるかも」

「余裕あるのね。さあ、死なないでよ? あなたは絶対私のモノにする。大丈夫よ、火傷くらいならすぐ治してあげる。こう見えても私は神官。治癒や回復は得意なの」

「そうだな。ついでに髪が燃えないよう気をつけてくれると嬉しいな」

「フッ、そんな余裕は私にはないわよ!! 」


 言い終えたマリオンは突っ込んできた。

 今までで一番早く移動している。

 だが避けようと思えば避けられない速度じゃない。


 「受け止めてやる」


 ニヤリと俺は笑った。

 バトルジャンキーではないから、避けることに嫌悪など感じないけど、受け止めなければマリオンは納得しないだろうからな。


 マリオンは俺の腕に手を当てると体内で増幅した魔力を使って、包み込んで来るような炎を……今までで最大火力の炎を展開した。


 (ほう、これは確かに面白い技だな)


 俺の周り全方位から超高熱の炎で焼き尽くそうとしてくる。


 (ふむ、コークス作りに役立つかもしれない)


 原理は判ったから帰って試してみるさ。 


 これに対抗するには全身を対魔法障壁で包み込むか、相殺しうる魔法を全方位に放出するか。この技をサラレベルの魔力の持ち主が使ったなら俺でも火傷の一つや二つはしただろうな。


「技は面白い。でも俺を倒すには魔力が全然足りない」


 そう言ってから、身体に気合を込め包んでいた炎を吹き飛ばす。


 俺はマリオンの攻撃を受ける直前に、自分の身体に無属性の龍気を薄く張り巡らした。マリオンは火系に特化した魔法使いだろうから水属性で龍気を張ることも考えた。だが、水属性で張った場合、相手の技がどの程度なのか見極めるのが難しい。触れるそばから相殺してしまうのだから・・・・・・。


「嘘……。まだケレブレアの祝福の儀式は通過していないけど、私の魔法力は戦闘神官候補の中では一番だったのに……」


 先程までの、俺の身体を品定めをするような嫌らしい視線がマリオンから消えている。


「もう判っただろ。あんたの攻撃は俺には通用しない。体術でも無理。さあ、帰ってくれ」


 呆然としていたマリオンがスクッと立ち、両腕を広げて飛び込んできた。見上げるマリオンは潤んだ瞳、少し赤くなった表情、ど、どうしたんだ?


「好き!」

「はぁ?」

「惚れたわ。私の身体は好きにしていいし、贅沢だって好きなだけさせてあげるわ。だから私のオトコになってちょうだい! お願いよ!」

「はぁぁぁぁぁぁ?」

「ねえねえ、お願いよ~~。何でもするわ。もうダメ、あなたが欲しいの。欲しくてたまらないわ」


 美人に好かれるのは嬉しい。

 本当に嬉しい。

 でも、マリオンの今にもこの場で押し倒してきそうな勢いには、さすがの俺も引く。


「ちょ、ちょっと落ち着け! 俺は里の人を檻から解放しなきゃならないし、他にもやることがあるんだ。後で話は聞くから、とにかく落ち着いてくれ」


 こんなところをサラに見られたら、また俺の評価が下がるじゃないか。

 一年かけて少しは上昇したはずの俺の評価。

 いくら引き剥がそうとしても、顔をすり付け抱きついて離れないマリオンを見ながら溜息をつく。

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