40、慌ただしい日々(その二)
その夜、俺はマリオンと愛し合ったあと、サラから言われたことを話した。
「そんなことを辛いと思ってくれたのねん。ダーリンは」
俺の頭をギュッと抱きしめてくれた。
いや辛いだろう。
マリオン達が早く年を取っていくのは受け入れられるんだけど、仕方ないと言っても先に居なくなるのは考えたくない。
「大丈夫よ。私も、きっとミズラさんも判ってる。だからその分、ダーリンとイチャつけるうちに亜人や魔族の三倍イチャついて、年を取ったらダーリンにたくさん面倒を見てもらうの。私が年を取ってもダーリンが私の面倒を見られるように、早く国を安定させて、ダーリンが少しでも多く自分の時間をとれるように、今は一緒に頑張るの」
……マズイ……泣けてきた。
マリオンの背中に回した腕に自然と力が入る。
「だからね?今のうちにいっぱい愛してちょうだい。年をとったら、できるだけそばにいてちょうだい。今も幸せだけど、もっともっと幸せにしてちょうだい。私もいっぱい甘えさせてあげるから……」
「……ああ、そうするよ」
無言で優しく抱きしめてくれるマリオン。
俺より脆い命を持つマリオンが愛しくてたまらなかった。
◇◇◇◇◇◇
ジラールの復興を進めていたり、リエンム神聖皇国と休戦協定結んだり、サラの結婚心配したり、人間の生の脆さに辛くなっている間に、ティアラは首都エルでの生活を楽しんでいたようだ。ミズラによると、”結婚前の明るいティアラが戻ってきた”そうで、”そろそろオルダーンかザールートで過ごさせないと、ここから離れなくなるかも”という状態らしい。首都エルから離れないだろうという理由の一つが、移住管理部門担当のケーダ・ガルージャらしい。
仕事帰りのケーダと夕食をとる様子をしばしば見るらしい。
首都にはリエラの料理から学んだ料理人が居るけれど、やはりリエラ本人のは一味違う。そのリエラの料理よりもケーダとの夕食を楽しむとは相当楽しいのだろう。
「そのままくっついてくれたら、問題解決なんじゃない?」
ミズラにそう言ったら、
「そう簡単じゃないと思うわ。お父様は’家’のあるところへ嫁がせたいのよ。ケーダさんは良い人だし、私もあなたと同じ気持ちだけど、’家’を出て独立してる状態でしょ?」
ああ、なるほど。
でも、ケーダは独立してると言っても、離縁されたわけじゃないし、今もガルージャ姓を名乗ってるんだし……でも、家を引き継いでるわけではないか。ケーダが家を持って同じ姓を名乗っても、ガルージャ家の分家ではないしな。
地球でも貴族の家ってそういうところあったな。
家系を重視するというところ。
「だけど、もしティアラがケーダを気に入ってるなら、他の男のところへ嫁がせるのは可哀想じゃない?」
「それはそうなのよ。ここで家系に縛られない生き方を知っちゃったでしょ? 特にティアラは前の嫁ぎ先で家というもので苦労したから、なおさら今の状態が気持ちいいと感じてるのよ。」
「ケーダとティアラが結婚までいくかはまだ判らないけど、ファアルドさんとアリアさんにティアラの様子見せたほうがいいんじゃないかな? 娘が楽しそうにしてるのだから、ケーダと結婚するのもいいと考えてくれるかも」
「そうね、そうしてみるわ」
ミズラは”お父様達を招待するわ。お父様はここを気に入っていたから来ると思う”と言ってこの話は一旦終了した。そこで気になっていた件を話す。
「それと、そろそろナミビアのところへ行かないとと思ってね。」
「そのことも考えていたの。ティアラとも話したのだけど、ナミビアと夫のアルベールをここに連れてきて……ここで勉強させたらいいと思うの。図書館に美学の書籍があって、あれはかなり参考になるんじゃないかと思ったわ」
ふむ、ミズラなりにいろいろ調べていたってわけか。
家族思いで素晴らしいね。
惚れ直しちゃうよ。
「だったら、思念回析の指輪と美学関係の書籍は俺が複製してナミビアへ渡したほうがいいんじゃない? 時間があるときに勉強できるし。あの手の学術書なら外で誰に知られたところでうちの国に影響ないしね」
「いいの? 図書館の蔵書は外へは出せないものだと思っていたわ」
うん、基本的に持ち出し禁止してるからね。
そう考えるのは不思議じゃない。
「工学や理学関係は絶対に国外には出せないね。他にも出せないものはたくさんあるけど美学なら構わないよ」
その日のうちに、ナミビア用の思念回析の指輪を作成し美学関係の書籍を数冊複製した。美学辞典だの美学辞書だの……この世界で通用するかなと思いつつも、直接は役立たなくても見方や考え方を知る上では有効だろうとは思ってる。
だが画像が多いものは申し訳ないが持っていけない。本当は画像の多いものでそれらを解説してるものの方が判りやすいとは思うんだけど、別の世界の絵や像、建造物の画像は他人に見られて騒がれるとやっかいだからね。画像の多い書籍が必要なときは、うちの図書館まで来てもらうことにしよう。
ミズラとも方針がまとまって、先にナミビアのところへ行ってからフラキアから領主夫婦をサロモン王国まで連れてくる予定になった。
ナミビアのところへ行く前夜、
「ここのところ、何かあったの?」
全裸で俺の胸に身体を預けながらミズラが聞いてきた。
「ん? どうして?」
「前より激しく求められるから、それはとても嬉しいけれど、どうかしたのかな? と思ったの」
サラの結婚の心配してからマリオンと話した内容をミズラにも話す。
「そんなに堅く考えなくてもいいのに。でも貴方はやっぱり別の世界の感覚の人なのねって思うわ。こっちの世界の人なら、子どもも作れなくなった年老いた女のことをそこまで考えたりしないもの」
「おかしいかい?」
「ううん、私もマリオンさんと同じ気持ちだわ。たくさん愛してちょうだい。それに私も貴方に似てきたのかなと思うことあるの。貴方がそばに居ないと寂しいと感じること増えたわ。だからもっと甘えてちょうだい。私も甘えるから」
「リーチェも言うけど、俺ってそんなに寂しがり屋かなあ? 寂しがりだとは思うけど、皆が言うほどかなと」
「ええ、とっても。でもそれは私達にとって悪いことじゃないわ。必要とされてるって判るもの。だからそのままで居てちょうだい」
とても寂しがりの旦那なんて奥さんからするとうざいんじゃないかと思うし、なんか男として情けないようにも思うんだけど、このままでいいと言ってくれるんだから深く考えないようにしよう。サエラやスィール、それにリエッサも俺が甘えても嫌そうな表情一度も見たことないし。二十一世紀の地球の女性とこちらの女性はいろいろ感覚違うし、地球の女性の気持ちもこっちの世界の女性の気持ちも俺には判らないところ多いし、……今のままでいいよな。
でも、中世直前の時代から転生繰り返してるのだから、女性がモノ扱いされてた時代も知ってるはずなのに、常識や感覚って生きた時代が新たになるたび上書きされるのかもしれないな。中世前後の記憶はあるけれども、当時の感覚がどうだったかなんて思い出せないし、当時は当たり前だったと言われても、だから問題なしとは考えられない。
人間って難しいね(今は人間じゃないけど)
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