43、ジラール復興の間に(その二)
ジラール代理領主フベルト・ラプシンは、日々苦戦している。
ゼギアスが使用する言葉のいくつかがさっぱり判らないからだ。
土壌改良だの点滴灌漑だのバーク堆肥を生産するだの、実際の作業をするのはフベルトではないにしろ、城壁の内外で行われている作業くらいある程度は理解しておきたいと考えてゼギアスに質問するのだが、返ってきた内容がいつも判らない。
そもそも砂漠地で植物を栽培することが可能なのかすらフベルトには判らない。今まではオアシスのそばで栽培していたが、オアシスから離れた土地で栽培しようとしている。
ある区画では、スプリンクラーなるもので水を撒き、ある区画ではオルダーンから持ってきた大量の落ち葉を砂地に混ぜ、ある区画では羊や牛などの糞を集めては、消臭して堆肥にすると言ってフベルトには理解できない巨大な箱のようなものに入れていたりと、何をしてるのかまったくわからない。
サロモン王国から派遣されてきたエルフや亜人達は、ゼギアスの指示に従って何の疑問も感じないように作業している。
「詳しいことは、ゼギアス様か、ゼギアス様の指示で研究しているドワーフ等にしか判りませんが、心配は要りませんよ」
爽やかな笑顔で作業の結果を保証する。
オルダーンの次期領主クラウディオに話を聞くと、オルダーンでも最初は何をやってるのか判らないまま指示に従ってただけだが、数年経ってみるとだんだん判ってくるという。
うーん、だが、住民から質問されて、”私も判らないけど、あと数年後には判るらしいよ”とは答えづらい。
ただ、上下水道施設なるものも何をするものなのか詳しくは判らなかったが、今では何となく判ってきた。同じように、他のこともいずれ判るようになるのだろうというのは多分事実だと感じてる。
オアシスから水を桶に汲み、鍋に水をいれ火にかけてから使用することも無くなった。蛇口をひねれば飲水が出るというだけで驚きだし、日々の家事も楽になった。さらに家庭にトイレが設けられ排泄物がレバーをひねれば水で流されていき、下水処理施設で家事などで出た汚水とともに処理され、水は川まで配管で送られ、汚泥は肥料などに使われるようになり、街がきれいで臭くなくなった。
今は判らないことばかりだけど、きっとこの街のためにやってくれていることだと思う。
あの惨劇から生き残り、今は新たな家へ住む日を住民全員が楽しみにしている。
サロモン王国から派遣されてきた工事や建築労働者とジラール住民とで結婚する者もいる。大勢の人が亡くなり暗かった街にも明るさが戻ってきてる。
「嫁さんが居なくて不便なら、亜人や魔族でも抵抗ないならいくらでも紹介するぞ」
ゼギアス様はそう言ってくれたが、まだそんな気にはなれない。代理とは言え領主であるからには、住民にもとの生活よりも良い生活環境が用意されてから自分のことは考えたい。娘のオードリィにまで強要するつもりはないし、誰かと縁があるなら娘は娘の幸せを見つけてもらいたい。以前のように、持参金をたくさん用意して貴族や士族のもとへ嫁いでなどということももう考えていない。というより、もはや自分はそんな立場ではないのだ。
今のところ大きな問題はない。ザールートとの移動は可能になったから商人もやってくるようになった。おかげで物資の補給は楽になり、生活に困ることもない。困ってるのは、サロモン王国が整備しているモノが何なのかが判らない私くらいで、説明できないとしても住民が不安がるわけでもない。派遣されてきた者達と住民の間に一定の信頼関係ができているから私が説明できなくても不安がらない。
私の目にはジラールは復興というより新たな姿へ進展している途中に見える。
判らないものが動いていても、不安ではなくワクワクする期待がある。
期待が余りに大きくなるのは、後の落胆につながりやすいから、期待とは慎重に向き合わなければならないが、期待が無い状況よりは良いのかもしれない。ジラールの住民の活気を取り戻しつつある様子を見ると私はそう思う。
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