50、フォモール族滅亡(その二)
メールはサラの言葉に頷き、巨人に向けて両手を伸ばす。
淡い赤い光がメールの手に浮かんだかと思うと、巨人へその光がスッと伸びていく。
すると、巨人は苦しそうに自分の目を押さえ、次の瞬間に全身が石化して動きを止めた。
「どうやら状態異常魔法は効くようね。ラウィーアさんから属性魔法は効きづらいと聞いていたから、状態魔法はどうかしらと思っていたのだけど、これは大きな収穫があったわ。さあ、カエラさん、参りましょう」
メールの状態異常魔法が効いたことを確認し満足した顔でサラは転移の準備する。
「……ま……待て、他の巨人も倒さんか!」
「ご自分で奴隷の力など借りないと仰ったではありませんか。それに私は姉妹のカエラさんさえ無事なら良いのです。貴方方を助ける義理はありませんわ。あなたも早くお逃げにならないと食べられてしまいますわよ」
サラの視線はきつく鋭い。
どうしてこう貴族という類の生き物は他人を思い通りに動かせると勘違いしてるのかしらと貴族を見る目には蔑みがあった。
「……金なら出す。だから助けろ」
「馬鹿にして貰っちゃ困ります。お金なんか要りませんわ。とにかく失礼致します」
旦那を置いて、サラは三名を連れて転移しようとした。
「サラ様! こんな男ですが、やはり夫なのです。一緒に連れて行っては貰えませんか?」
頭を下げてカエラが申し訳なさそうに依頼する。
カエラから頭を下げられてはサラも無碍にはできない。
”仕方ないですね”と呟いて、サラは旦那の袖も掴んで転移した。
・・・・・・
・・・
・
カンドラに戻ったサラ達は、これからの予定を話し合う。
サラはカエラ夫婦をフラキアへ連れていき、その後メール達と合流する。
メール達はカンドラの確認作業を続けていく。
ヘラはサラと共にどうしても行くと言うので、ヘラもサラに同行することになった。
万が一巨人がカンドラにも現れたら、その時はメールが石化して防ぐことも確認した。
サラは、まだギャアギャアと煩いカエラの旦那に催眠魔法をかけ眠らせる。
その後、カエラ夫婦とヘラを連れてフラキア領主宅へ転移した。
(リアトスさん、カエラさんは無事救出したわ。それとライアナに侵攻した巨人には状態異常魔法が有効だから周知させておいてね)
サラからの報告を受けたリアトスは了解の旨を伝えて思念を切った。
リアトスへの報告を終えたサラは、カエラ夫婦と共にフラキア領主宅へ入る。
カエラの無事を確認したファアルドは喜び、アリアはカエラを抱擁し、その後サラに感謝している。ヘラに担がれた旦那……ドリアヌスというらしいが……を近くのソファに横たえさせ、サラは魔法を解除する。
目を覚ましたドリアヌスは再び騒ぎ始めた。
”この奴隷達は私の命令に従わなかった。”
”奴隷が親戚にいるとは知らなかった。”
”自分を無理やりここまで連れてきた。”
”こいつらと縁を切らないならカエラとは離婚だ。”
「ヘラ、動いてはダメよ」
サラから言われてなければ、ドリアヌスの命はヘラによって奪われていただろう状況が目の前で続いている。
ドリアヌスの罵声にカエラは申し訳なさそうに小さくなっている。
パンッ!
日頃は大人しいファアルドがドリアヌスの頬に平手打ちする。
サラは拍手したい気分で目に笑みを浮かべた。
「何をする! ちょっと景気が良くなったからとその態度は何だ。もういい! フラキアと我が家は絶縁だ!!」
頬を打たれて、多少は勢いが落ちたが、ドリアヌスの怒りはまだ続いていた。
「こちらこそ、大人しく聞いていれば、我が領地の恩人に向かって奴隷奴隷と失礼な。私どもと絶縁? こちらこそ望むところ。ええ、喜んでカエラも戻します。お帰りください!!」
”あとで泣きついてきても、びた一文貸さないからな”と捨て台詞を残し、ダンッと扉を開いてドリアヌスは外へ出ていった。
「サラ様、申し訳ありませんでした。不快な思いされたことでしょう」
ファアルド夫婦はサラに深々と頭を下げた。
「ファアルド様が謝られることではありませんわ。それに、直に泣きついてくるのは向こうです」
サラはファアルド夫婦に余裕の笑みを見せ、”状態異常魔法を使える魔術師などそう多くはありませんもの”とつぶやく。先の展開が見えてると自信の表情。
「ライアナは必ずサロモン王国へ泣きついてきます。その際に接点はフラキアしかない。カンドラはまだ我が国と友好関係にあるとは言えませんからね。あとドリアヌスのことは、こちらから言いふらして置きますわ。カエラさんに酷い態度をとったあの男にはせいぜい泣いて貰いましょう」
治癒・回復魔法が聖属性に属する魔法なら、状態異常魔法は魔属性に属する。
魔法の性質上人間や亜人で状態異常魔法を使える者は少ない。魔法が得意な種族が多い魔族でもヴァンレギオスに居るような種族だと使えないのが状態異常魔法。デュラン族でも聖属性の魔法や龍気を使える者は少ないし、魔属性の魔法や闇属性の龍気を使える者となると更に少ない。
リエンム神聖皇国だろうとジャムヒドゥンやエドシルドだろうと、あの巨人に対して有効な状態異常魔法を使える者は少ない。多分、ほとんど居ないと言って良いだろう。
そしてその少なく限られた使用可能者をフルに運用すれば、魔法力か体力が尽きて使用できなくなる。
ゴルゴンやデーモンのように状態異常魔法を効率的に使える者を多く抱えるサロモン王国には、あの巨人に対して大きなアドバンテージがあり、もし、サロモン王国やその友好国へ巨人が攻めてこようとも恐れることは全く無い。
他国はあの巨人に対して有効な手段を多く持ち合わせていないため、サロモン王国に頼らざるをえないはず。別に頭を下げてこいなどとは言わない。ただ、当たり前のことを当たり前に対応できる知性と良識を持ち合わせていない相手を助けるつもりは無い。
あのドリアヌスのような輩にはせいぜい痛い目に遭ってもらえばいい。
サラは冷たい視線をドリアヌスが去った扉へ向けていた。
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