50、フォモール族滅亡(その一)

「どこにも居ないぞ?」


 獣面の巨人フォモール、今では牛・豚・馬・山羊の四部族しか残っていないが、総数は十万名ほど生き残っている。ヴァンレギオスの民を食せば低下した出生率が戻るかもとたびたび戦争をしかけてきた。


 ヴァンレギオスの民がサロモン王国へ移住してから……もちろんフォモールはそのことを知らない……半年後に再び侵攻したら、抵抗もなくヴァンレギオス全土へ侵攻できた。だが、そこには一人の民も見当たらない。


 獣を食べるだけなら、フォモールに居ても間に合う。数十万のフォモール族が食べていけるだけの土地がフォモールにはあり、森の恵みも十分なのだから。ヴァンレギオスに侵攻し続けてきたのは、ヴァンレギオスの民を食べるためで土地が欲しいわけではない。


「テタル、王に報告するしかあるまい」


 馬面の巨人が豚頭の巨人テタルに苛立たしそうに言う。

 灰色の巨体で腰布をまとい、その太い手で棍棒を振り回しながらテタルから視線を逸らし、身体を翻して来た方向へ戻っていく。


「ああ、これでは今まで攻めてきたことが無駄だ」


 テタルは悔しそうに言い、その灰色の身体をクルリと向きを変えて自国へ戻る。


・・・・・・

・・・


「なんだと? 一人も残っていないというのか?」


 報告を聞いた牛頭の巨人、フォモール族族長フェアラーは歯噛みしながら俯いた。がっくりと肩を落として残念そうにつぶやいている。


「この二十年、雌は三万居ると言うのに、生まれた子供はゼロだ。百年遡っても十名も生まれてない。我々の寿命が百五十年だとしても、そう遠くない将来に滅んでしまう」


 洞窟の灯りがフェアラーの身体にユラユラとした影を映す。憂鬱そうな表情にフォモール族の苦悩が表れてる。


「族長、居ないものを当てにしていても仕方がないではないか? この際、ヴァンレギオスの奴らじゃなくてもいいから他種族を食っていくしかあるまいよ」


 山羊頭の巨人がフェアラーに顔を向け、拳を握って力説する。


「そうだ。ルビエの言う通りだ。南側には大勢の人間も住んでる。奴らを食ってみればいいのだ」


 馬頭の巨人がルビエに同意する。


「ジリーノもそう思うか。あとはテタル、どうだ? お前も同じ意見か」


 フェアラーは豚頭の巨人テタルに意見を問う。テタルも同意すれば、フォモール族の三部族が賛成することになり、牛頭族のフェアラーも族長だからといっても反対できなくなる。


「ああ、俺も賛成だ。どうせこのままじゃジリ貧だ。やれることは何でもやってみればいい」


「そうか、では牛頭族も賛成しよう。これで四部族全部が南下に賛成したことになる。では早速明日から南へ向かうぞ? いいな」


 各部族長は黙って頷き、その視線の先にはエドシルド第二の国ライアナを映している。


 ”たかが人間、喰らい尽くしてやるわ”


 フォモール族の思いは一つになっている。


◇◇◇◇◇◇


 サラはカンドラに来ている。ゼギアスがラウィーアを連れて国内視察に回ってるため、代りにカンドラの様子を見に来ているのだ。


 サラはカンドラの農業および土壌の質を調べるため、マルティナの部下で農地研究を専門にしてるヴィアベルと、ゴルゴンのメール、現アマソナスのリーダーのヘラが護衛で同行している。サラに護衛など要らないのだが、ゼギアスが連れて行けと煩いのだ。


 サラは三名を連れてカンドラへ転移し、のんびりとカンドラの各地を見回っていた。


 (サラ様、急ぎお願いしたいことが発生しました)


 カリネリア総督リアトスから思念が飛んできた。


 (実は、カンドラの隣国ライアナへどうやらフォモール族が侵攻し、ライアナの貴族に嫁いでいるフラキアの三女カエラ様の身が危ないようなのです。そこでサラ様にカエラ様を救助していただけないかと)


 ”判ったわ”と返事し、カエラのおおよその居場所を伝えてもらい、サラはヴィアベルだけを残してライアナへ転移した。


・・・・・・

・・・


 カエラが居るはずの地区に転移したサラは思念を飛ばした。


 (カエラさん、サロモン王国のサラです。今、どちらにいらっしゃいますか?)


 カエラから居場所を聞いたサラは再び転移する。


 カエラの屋敷の周囲は、巨人の襲撃から逃げ惑う人々で大騒ぎになっていた。

 サラ達は人混みを避けながら屋敷のドアを叩く。

 扉が開くと、カエラが見知らぬ男性と並んで待っていた。

 多分、カエラの旦那だろう。


「カエラさん、さあ、急いで脱出しましょう」


 サラがカエラの手を取ろうとすると、


「誰だ、お前は」


 およそ三十歳くらいの貴族風の格好をした男が、サラとカエラの間に入ってくる。


「ああ、失礼いたしました。私はサロモン王国国王ゼギアス・デュランの妹サラと言います。カエラさんのお父様から救出を頼まれまして参りました」


 微笑んで丁寧にサラは自己紹介した。


「サロモン王国だと? なんだ亜人や魔族の奴隷の国の者か。そのような者に妻を触らせるわけにはいかん」


 カエラの旦那は、サロモン王国と聞いてサラ達を見下し、カエラと共に屋敷の中へ戻ろうとする。


「せっかくですが、私は貴方には用はありません。カエラさんは連れていきます。ここに居たら巨人の餌にされてしまいますので」


 サラはそう言って、カエラの旦那に魔法をかけて動けなくし、カエラを連れて外へ出ようとする。


「巨人だと? 我が国の軍が退治するわ。奴隷の手など借りずともカエラの身は安全だ」


「そう。ではご自分の目で見てご覧なさないな。貴方の自慢の軍が食われてる様を」


 そう言ってカエラの旦那の魔法を解き、玄関の外へ来るよう伝えた。

 サラはカエラとメール、ヘラと共に外へ出て、様子を伺っている。


 カエラは口を押さえ目を見開いて驚きつつも様子を見ていた。

 旦那が外へ出て振り返ると、建物の上に巨人が兵士を捕まえては口に放り込む様子が見えた。旦那が誇っていた軍は巨人に為す術もなくただ捕食されていたのである。


「メール。目の前の巨人に状態異常魔法が効くか試せるかしら?」

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