50、フォモール族滅亡(その三)

 ゼギアスはサラから状況の報告を受け取り、フォモール族の動きを監視するよう伝えた。飛竜かグリフォンによる巡回を行い、必要な際にはサロモン軍を動かすつもりでいた。


 カエラ救出の数日後、ライアナは再びフォモール族に襲われる。

 前回はフォモール族の兵数を確認できなかったが、今回は二千程度だと判った。


 ライアナ軍は前回同様に為す術を持たず、住民を避難させるだけで精一杯だった。

 避難民はカンドラを目指し、カンドラには避難民用のテントが所狭しと並んでいる。


 カンドラは、エドシルド加盟自治体へ救援物資を頼み、各自治体はその要請に応じたが当面必要な物資が足りない。


 このままでは飢えで苦しみ暴徒化する者も出る可能性が出てきていた。


「フラキアの名前で食料を送ってあげてください」


 サラはサロモン王国から食料を転送させ、フラキア経由でカンドラへ送るように手配した。その際、一部の特権階級の者に多く渡らないよう、カンドラへ強く要求するよう依頼した。”もしそのような事実が確認されたなら、フラキアからの支援は打ち切る”とファアルドから伝えさせた。


 カンドラ領主フリーゼンは、この指示はサロモン王国からのものと理解していた。フラキアは食料を豊富に生産している領地ではない。送られてくる物資は全てサロモン王国からの物と察していた。本来自国の問題ではないことでサロモン王国の機嫌を損なうのは馬鹿らしいと、フリーゼンは物資の公平な配給を徹底させた。不正が見つかったらきつく罰すると部下に伝えて。


 その結果、ライアナの特権階級の者達から多くの不満が出たが、フリーゼンは無視し、逆に、”では貴方方の言うことを聞く方たちから食料を集めてきてはどうですか?”と言い返した。フリーゼンにすると、暴徒化されて領地が荒れることも、サロモン王国から敬遠されることも絶対に避けたかったのだ。他国の貴族がいくら騒ごうといっこうに気にならない、そういう気持ちでいた。


 ライアナには今だに数十万人の住民が残っていて、三十万以上の軍隊も残っていたから、カンドラへ避難してきたライアナの貴族はこの時点ではまだ強気だった。


 だが、三度目の巨人侵攻でその強気な態度も変わる。

 三度目は二万近い数の巨人が攻めてきて、ライアナ軍は二十万の兵を失ったのだ。


 ライアナ国王オレジノは頭を抱え、何か対抗策はないか配下に調べさせた。そして、一体の巨人が石化したままでいることを知り、その手段なら対抗できるのではないかと巨人を石化した者を探す。


 ライアナの有力貴族であったドリアヌスは、国王へ”サロモン王国の者が……”と報告した。だが、ドリアヌスが元妻の縁者と喧嘩別れした噂はライアナ国王や貴族たちの耳にも入っていた。サラが指示してその噂を流させていた。


 国王オレジノはドリアヌスに”早急にフラキアへ行き、謝罪してサロモン王国の助力を得よ。できなければそなたの資産と爵位は没収だ!”と命令される。


・・・・・・

・・・


「何をしにいらしたのですか? 主からは貴方には取り次ぐなと申しつかっておりますのでお引き取りください」


 ファアルドどころか、侍従長にしかドリアヌスは会わせてもらえない。


「……そこを……そこを何とか」


 疲労で目を窪ませて侍従長に縋り付くが、侍従長は数名の使用人を呼んでドリアヌスを門の外へ連れ出し門を閉じさせた。侍従長はサロモン王国への恩も強く感じていたが、幼い頃から可愛がっていた三女カエラを罵ったドリアヌスをとても許せなかった。


 ドリアヌスが毎日何度足を運ぼうと、門が開かれることはなかった。

 他の来客に合わせて門から中に入っても玄関前で門の外へ連れ出される。


 王から言われた期日の前日になって、ドリアヌスはライアナへ戻る。


「それで、そなたはこれからどうするのだ?」


 国王オレジノは跪くドリアヌスを見下ろして冷たい声で聞く。


「……私にはどうにも……」


「お前は奴隷の力は借りんと言ったそうではないか? 自力で巨人を倒してはどうだ?」


「……」


「どうやらお前が我が国にいる限り、サロモン王国の助力は得られそうもない。つまりライアナはお前の道連れにならねばならんのか?」


「……そ……それは」


 冷や汗を汚れたハンカチで拭きながら、何とか許しを得ようと言葉を探すがドリアヌスには見つからない。


「もう良い。顔も見たくない。どこぞへなりと行くがいい。但しライアナで見かけた時は覚えておれよ」


 去れというように手を振ってドリアヌスを下がらせ、オレジノは自身でフラキアへ行き嘆願すると決めた。


 この翌日、ライアナへ四度目の巨人侵攻があり、残っていた兵も全滅に近い結果となり、国民のほとんどと国王自身もカンドラへ避難した。ライアナは廃墟となり果てていた。


 オレジノは、従者数人を連れてフラキアへ急ぎ向かった。


・・・・・・

・・・


「うちのドリアヌスが大変失礼なことを仕出かした。その件は深く詫びるゆえ、どうかファアルド領主に会わせては貰えぬか?」


 侍従長はオレジノをファアルドの部屋へ案内する。

 そこにはファアルド夫婦と見知らぬ若い女性が居た。サラである。


 オレジノが部屋に入ってもファアルドはサラをそのまま部屋に置いておくようなので、”彼の者がサロモン王国の関係者かもしれぬ”とサラにも礼をしてファアルドへ口を開く。


「頼む。ライアナを救ってくれ。もう他に頼める場所はないのだ。ドリアヌスの件は深く詫びる。あの者からは資産も爵位も没収し、ライアナからも追放した。まだ気が済まぬというなら他にも手を考えよう。サロモン王国の目指す奴隷解放にも助力しよう。だから頼む。ファアルド領主。私に力を貸してくれ」


 深々と頭を下げ、涙を流しながらオレジノはファアルドに頼んだ。

 その様子を見て、ファアルドはサラに”何とかなりませんか”と視線を送る。


「私はサロモン王国国王ゼギアス・デュランの妹サラと申します。オレジノ国王、初めまして」


 オレジノは顔をあげサラの顔を見る。

 やや幼さは残るがキリッとした美しい顔をした若い娘。だが、その視線は厳しく年齢に似合わない力を感じた。


「一つだけ気に入らないことがありますので、最初に申し上げておきます。何故最初から国王自らこちらへいらっしゃらないんですの? ドリアヌスなど何の権限もないただの貴族の一人ではありませんか。国王自身が、サロモン王国などドリアヌスさえ謝罪すれば動くと軽く見てらっしゃったんではなくて?」


 ……そうかもしれない。

 ドリアヌスが不始末を仕出かさなければ、フラキアから依頼すればサロモン王国など簡単に動くと思っていたかもしれない。


 オレジノは汗を拭きながら反省していた。

 この若い娘ですらこのように鋭いならばサロモン王国は侮って良い相手ではない。


 実際はサラが鋭いのであって、ゼギアスはそうでもないのだが、オレジノはゼギアスを怖れた。


「申し訳ない。そのように考えていたつもりはないが、言われてみるとそうかもしれぬ」


「まあ、いいでしょう。今後気をつけてくださいね。それで、ライアナからあの巨人を追い払えばいいのですか?」


 オレジノの反省してる様子を見て、サラの視線から冷たさが消えた。


「できることならば、そうしていただけると……。この御恩は決して忘れない。頼めるだろうか?」


「フォモールを滅ぼさない限り、いずれまた襲ってくるでしょうけど、そこまでは望まない?」


 ラウィーアからフォモールの事情を聞いてるサラは、フォモール族が居る限り何度でも侵攻してくると確信していた。


「そんなことが可能なのだろうか?」


「ええ、できますわよ。但し、フォモールを滅ぼすまではライアナを拠点にして戦うことになるでしょうから、協力していただかないと困ります」


 サラにはフォモール族を全滅させる自信があった。ゼギアスからも許可は出てる。

 何せ、ゼギアスとサラにとって同族のデュラン族を滅亡寸前にまで追い込んだのがフォモールだ。この際、根絶やしにすると決めていたのだ。


「できることは何でもする!」


「判りました。早速動きましょう」


 サラはニッコリと笑って返事をした。

 オレジノは感謝の言葉を述べ、立礼した。


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