37、ジラールの惨劇(その三)
「俺はサロモン王国のゼギアスだ。城内に残った遺体を燃やさないと疫病のもとになる。一人一人埋葬する余裕は無いから、一箇所にかためて燃やすことになるが……それでもいいか?」
「助けてくれて礼を言う。私はフベルト・ラプシン、ジラールの領主だ。遺体の処理はゼギアス殿に任せる。どのみち私にはどうしてやることもできない。遺体を焼いたと責める者が居たら、責任は全て私が負う」
フベルトの了承を得て、遺体を城内の大きな広場に部隊の皆に集めさせる。
「嫌な役目ですまないが頼む。燃やすのは俺がやる」
ざっくりと考えれば、四万人分の遺体があるはず。
領主にも話した通り、一人ずつ埋葬する余裕はない。
すまないと心で詫ながら、遺体がある程度集まったら魔法で火を着け燃やした。
次々と遺体をその炎の中へ放り込む。
丁寧に扱ってあげられなくてすまないとまた詫びる。
数時間の後、全ての遺体を焼き終え、遺骨をどうしようかとフベルトへ相談する。
どこかに大きな墓を作り、そこにまとめて埋葬するくらいしかできないが。
「私の家を取り壊し、そこに穴を掘り、遺骨を全てその穴に埋め、あとで慰霊碑を建てたい。ゼギアス殿は魔法で私の家を壊し、そしてそこに穴を掘ることはできるか?」
可能だから全て俺がやっておくと言うと、
「すまない。私が不甲斐ない領主なばかりに……」
フベルトはさめざめと泣き出す。
あとで詳しく事情は聞くと決め、その場は見ないように俺は領主の家へ向かう。
領主宅を燃やし、跡地に穴を開け、そこに遺骨を運び、その上に土をかける。
魔法を使用したのでさほど時間はかからなかった。
これで腐敗した遺体による疫病の発生は抑えられるだろう。
俺はフベルトに全て終えたことを報告する。
「何があった?」
五ヶ月前から、食料の調達ができなくなった。
商人は訪れなくなり、こちらから送った調達隊も戻ってこなかった。
それで異変が起きたと、ジャムヒドゥンに支援を頼もうと使者を送っても返事が来ない。
食料の備蓄が残り一月分になり、避難しようとしたがジラールから少し離れるとデザートスネークが襲ってくるのでジラールからどこへも行けなくなる。
デザートスネーク討伐隊も出したが全滅し、水はオアシスで補給できるが、食料が完全に底を尽き、そろそろ三週間になるとのこと。
フベルトは呆然として砂地を見ている。
なるほど。
うーん、どうしようか。
デザートスネークをどうにかしないと、ジラールは死んだも同然か。
俺はデザートスネークとは出会ったことがない。
どの程度の強さか判らないと対応できんなあ。
うちの兵で対応できるなら、うちの兵士等を護衛につけた食料調達隊を組み、ジラールの住民が飢えないようにはできる。
だからとにかくどの程度の強さなのか知る必要がある。
今のところ、巡回させてる飛竜からは報告が無い。
つまり空を飛ぶものには反応しないのだろう。
んー、蛇のことならギズムルが知ってるかもしれない。
俺は早速思念伝達でギズムルと話してみる。
(久しぶり。ギズムル様はデザートスネークって知ってる?)
(ゼギアスか、久しいな、たまには我の社まで遊びに来い。旨い酒があるぞ。ああ、デザートスネークか、知っとるぞ。一応、我の庇護下にいる種族だからな)
俺はジラール周辺で起きてるデザートスネーク絡みの事情を説明した。
(それはおかしいな。デザートスネークが人を襲うというのは判る。奴らは肉食だからな。だが、もしそのような状況ならば、何故ジラールを襲わないのだ)
(そう言われてもなあ。)
(ジラールへバルトロを連れていき、デザートスネークと会わせよ。バルトロならば状況を聞き出せるだろうからな)
近いうちに社まで遊びに行くと約束し、次にサラへ思念を送り、バルトロを連れてジラールまで来てくれと伝える。
「お兄ちゃん、バルトロ君を連れてきたよ」
転移してきたサラはバルトロと手をつないで現れた。
サラに事情を話し、ミズラを連れて家に戻ってもらえるようお願いした。
俺はバルトラを連れて、ジラール周辺でデザートスネークを探すつもりだ。
これからは身を守る術のないミズラには同行するのは厳しい。
ジラールでの仕事が終わるまでは家に居てもらう。
ミズラは残って手伝いたい様子だったが、俺が折れそうもないことを悟って引き下がった。
ミズラを連れたサラを見送り、アンヌにここに居る二百名の部隊とともに、ジラールの領民を守っていてくれと指示した。
「そういうわけで、しばらく俺に付き合ってくれ。デザートスネークが出たら、ここしばらくの事情を聞いてくれ」
「うん、わかったよー」
気の抜けたような返事が返ってきたのだが、まあ、嫌そうではないのでいい。
俺はバルトロと手をつないで、ジャムヒドゥン方面へ歩きだす。
歩きながら、バルトロの日常生活を聞いている。
俺が知らないうちに、バルトロは学校で読み書きと簡単な四則演算を学んでいたようだ。面白いかと聞くと、楽しいよーとはっきりと答えたから……それなりに楽しんでるのだな……まあ良かった。ギズムルは字を読めるのかと聞くときっぱりと切り捨てる。
ふむ、バルトロは読み書きと計算ができる最初のヘビになったんだな。
他には、首都で見た様々な種族のことや食べ物や服などのことを幾つか話してくれた。今の生活は楽しいかと聞くと、とても楽しいよーと明るいんだか感情の起伏がさほどではないのか判らない態度で答える。
ラミアとアマソナスもいつも立派に相手してるようで、バルトロは今の生活に不満はないようだ。
そんなことを話していると、地面がザザザザザッと鳴り、砂が盛り上がって茶色の大きなヘビが鎌首をもたげて現れる。大きなと言ってもギズムルと比較するとかなり小さく、せいぜい体長三メートルくらいだ。この程度じゃいくら睨まれても俺はビビらない。
現れたときはすぐにでも俺達に襲いかかりそうだったのだが、バルトロの身体が光ると、デザートスネークは動きをピタリと止めた。
俺はバルトロにデザートスネークから聞き出してほしいことを伝える。
ジラールと外部を切り離すように動くのは何故か?
ジラールから出てきた者は襲うのにジラールを襲わないのは何故か?
この二つを聞いてもらった。
答えは一つしかなかった。
”判らない。”
今、俺とバルトロを襲おうとしたことも、何故ここに居るのかも判らないらしい。
ん? どういうことだと再びギズムルに連絡をとり、聞いてみると
(蛇使いの笛かもしれない。)
地球のインドでもコブラを笛の音で操り、カゴから顔を出させたりする蛇使いが居たが、あれは笛の音で操ってるように見せてるだけで、実は周囲には気づかれぬようカゴを足で蹴ったり、さすったりして音ではなく振動でコブラを動かしていたらしい。
(デザートスネークを笛で操るなんてできるのか?)
信用してない空気ありありでギズムルに質問した。
(普通はできんが、特殊な音波を出す魔法がかかった笛があり……)
ギズムルの説明によると、その特殊な笛だと、ヘビはその笛の出す音波による振動で一種の催眠状態になり、笛使いの誘導に従うのだそうだ。
(じゃあデザートスネークは誰かに操られてるということか)
ギズムルとの会話を終える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます