27、はじめての奴隷解放(その二)

 俺の目の前には、二千名強の今回戦いに行く兵士達とそれを見守る家族や友人、知人たちなど国民が大勢居る。俺は皆の前で演説しなければならない。俺に合わない仕事だが、皆に言われて覚悟を決めた。


「ああ、俺は堅苦しい言葉は苦手なんで普段通りの言葉で伝える」


 皆が一人残らず口も開かず俺を見つめている。


「敵の数は多い、うちの三十倍だ。だが、俺達は負けない。ただ負けないのではない。ほとんど被害を被らずに勝つんだ。その算段はしっかりとしてあるから安心して欲しい。みんなが訓練してきたことをそのままやれば必ず勝つんだ。まずそれを言いたい。兵士の家族や友達は心配せずに待っていて欲しい」


「……」


「敵と戦うにあたって、俺達は何者なのかを刻んで欲しい。俺達は盗人じゃない。だから戦いに勝っても敵のモノでも盗むな。俺達は侵略者じゃない。だから敵の女を襲うな。まあ……日頃、魅力的な女性に誘われてる奴らばかりだろうから、そんな元気のあるヤツは居ないと思うけどな」


 ”もっと若い人をお願い~。”

 ”元気が余ってるなら戦いが終わったら私のところへおいで~。”


 見守ってるいくつかの種族のお姉さん達が笑いを飛ばしている。

 うん、うちはこれでいい。


「ハハハ……。俺達は殺戮したいわけじゃない。だから向かってくる者には一切の情けもいらんが、逃げる者や攻撃してこない者には手を出すな。では俺達は何者だ。俺達は解放者だ。奴隷のままで良いという変わった奴がいるかもしれないが、多くの奴隷はそのままでいいとは思っていない。どこかから連れ去られ、自分の意思でもないのに奴隷の身分のまま働かされてるんだ。俺達の同胞がだ」


「……」


「身勝手な理由で殺される者も居る。許せるか?」


「否!」


 皆が否定の言葉をいっせいに叫ぶ。


「自分の妻が無理やり犯されることもある。許せるか?」


「否!」


「親から子供が引き離され、親が知らないうちにどこかへ売られることもある。許せるか?」


「否!!」


「そうだ。許さん!! だから俺達は誇りをもって彼らを解放するんだ!」


「応!!!」


「忘れるな! 俺達は解放のために戦いに行くんだ。無駄な殺しはしない、盗みもしない……同胞を解放するために戦う誇りを忘れるな! 仲間に対してできないことを敵側の人間だからとやるような奴がいたら、そいつにはこの国から去ってもらう。初めてであろうと許さない。誇りなき者はこの国に居てもらいたくない。これは俺の意思だ」


「……」


「さあ、行くぞ! 解放のための戦いをさあ始めようじゃないか」


 俺が右手を掲げると、歓声があがった。

 ウオォォォオオオオオ! という空気が震える大歓声だった。


 ホッとした俺は、後ろに下がる。

 後はヴァイスとアロンに任せるさ。


◇◇◇


 リエンム神聖皇国領土内に入って二日目。

 ニカウアに到着するまであと三日。

 ここまでいくつもの小さな村や里から奴隷を解放してきた。


 解放した奴隷はエルフによって治癒や回復され、呼ばれたグリフォンによって移送されていった。

 奴隷以外の亜人や魔族も多少居て、それらのうち国境を越える自信がなくその場で生活していた移住希望者も移送した。


 人間でも移住希望者が居れば移送するつもりだったが、これまでのところでは人間の移住希望者は居なかった。まあ、亜人と魔族のための国というイメージが強いのは仕方ない。


 アロンによると、そろそろニカウアから敵軍が出てくる、衝突するとすれば明日だろうから、ここらで休憩し備えるという。その辺はアロンの指示に従っていいと考えてる。偵察は出してるだろうし、休憩も交代でとるだろうからな。


 ここまででぶつかったのは多くてもせいぜい数千人規模の守備隊で、地上部隊が出るまでもなく空戦部隊の攻撃を受けると逃げていく。まあ、歩兵と騎馬隊が主戦力の相手では、空戦部隊を攻撃することもできないだろうから仕方ない。

 うちの被害はゼロ。怪我をした者もいない。


 ただ、今後は弓兵も多くなるだろうし、魔法を使える者も敵に出てくるだろう。

 万が一、戦闘神官クラスの魔法使用者が出てきたら多少苦戦するかもしれないが、その時はその相手を俺がすればいい。


 俺は味方を慰労しつつ、表情を確かめていた。

 皆、いい顔をしている。

 これなら悪さするようなバカは居ないだろう。


 指揮官達は油断なく今後のことをいつも通り話し合っている。


 うん、大丈夫。


・・・・・・

・・・


 翌日の朝、アロンと顔を合わせると


「敵が夜襲仕掛けてきた場合を想定して、前方の林に弓隊とクルーグを待機させていたんですが、無駄になりました」


「いいことじゃないか」


「そうなんですけど、ここまでの間に戦った守備隊などからうちの情報はある程度知られてるはずなんです」


「空戦部隊を怖れて手出しできなかったのでは?」


「うーん、そうなら楽でいいんですけどね。偵察の話から、前方で……あと二時間程度でぶつかる距離なんですが、部隊を展開させてるらしいんです。夜に仕掛けられないのに、昼間に仕掛けられるんでしょうかねえ?」


「ごめん、俺には理由はわかんないな」 


「ええ、多分ですが、敵の指揮官は頭が古いんじゃないかと。正々堂々と名乗りを上げて戦おうと、それが騎士の義務だと考えるタイプなのではないかと思うんです」


「何か問題でも?」


「いえ、もしそうなら今回の戦いは、一方的な戦いになると、つまらない戦いになるんじゃないかと心配してるんです。もちろん手応えのある相手でも味方の被害は抑えるつもりで策は練ってあるのですが、どうやら策を使う必要もなさそうなんで……」


 またも好敵手探しかあ。

 頼りになる男なんだが、面白い戦いを望む傾向があるね。

 俺は味方に被害を出さずに目的が達成できればそれでいいんだが。

 まあ、本音では楽に勝てそうで良かったと思ってるのだろうが。


「じゃあ、食事が済んだら動きますよ」


 俺は頷いてアロンを見送る。


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