37、ジラールの惨劇(その四)

 誰かがジラールを監視していて、動きがあるとデザートスネークを送り込んでいるということになる。この世界には双眼鏡のような望遠鏡は無いから、ジラールからさほど離れていない場所から監視するしか無い。


 だが、巡回している飛竜が空から発見できないでいるのだから、砂に潜っているか、かなりうまく迷彩をほどこしているか、何らかの魔法で隠れているのだろう。


 だったら、隠れていようと隠せないものを頼りに探せばいい。


 鷹人特有の遠くのモノを識別する視力を持つエルザとクルーグのために暗視スコープを用意した。鳥は夜目がきかないという俗説を信じてのことだったが、エルザとクルーグから”いえ、夜でも昼間のように見えますよ”と言われて使わずにいる。


 その暗視スコープは赤外線探知型の熱線映像装置だから、周囲の温度より高い温度の物体を発見できる。


 砂漠は寒暖差が大きく、今はまだ陽が差しているから砂の温度も高く、生き物の温度を識別するのは無理だろう。だが、日が沈み深夜になれば急激に気温は下がるし、砂の温度も下がるから必ず発見できるだろう。


 深夜に暗視スコープを使ってデザートスネークを操ってる者を見つけ出す。

 方針が決まった俺はバルトロを連れてジラールへ帰ろうとした。


 しかし、バルトロは自分を襲いそうになったデザートスネークを折檻していた。


 ……楽しそうに。


 いつもののほほんとしたバルトロはそこには居ない。


「たかがデザートスネークのくせに舐めんなよ? ゴラァッ!」

「ミンチにされてぇのか!? アァー?」

「キャハハハハハ……、オラオラオラオラオラァァァァァ!」 


 さすがにギズムルの子というか分身体である。

 十歳程度の子どもにしか見えない身体で、体長三メートルくらいのデザートスネークを赤い髪をなびかせて軽々と蹴り飛ばしている。

 顔を傾けて中指立ててデザートスネーク煽ってる。

 頭を地面に下ろすことも許さないバルトロのパンチの連打にデザートスネークは意識を飛ばされている。


 うん、怖いね。


「バルトロ~そろそろ帰るぞ~」


 俺が声をかけると、人が変わったように


「うん、帰るー」


 いつもののほほんとしたバルトロに戻る。

 そこにはもはやヤンキーバルトロの姿はない。

 こちらを振り返ったバルトロの表情には、子供らしい可愛らしい笑顔が浮かんでいる。変わり身の早い奴である。


 まあ、デザートスネークに責が全く無いとも思わないので、バルトロのちょっと激しい運動に付き合って貰ったと俺は考えておこう。


 俺とバルトロは、ヒクヒクと身体を震わせ、腹を上向きにして倒れてるデザートスネークを後に、仲の良い兄弟のように手を繋いでジラールへ帰っていく。


 グランダノン大陸南部にはまだ怪物も居るし、リエンム神聖皇国の戦闘神官も残ってるし、ジャムヒドゥンには術師もいるらしいが、全部バルトロに倒して貰えば楽なんじゃねぇ? と思いつつも、そうなったら俺の出番って全く無くなるんじゃ……とその考えを打ち消す。


 ジラール城内に戻ると、治癒・回復魔法使えるエルフ達がグリフォンに乗って五十名やって来ていた。サラやミズラから状況を聞いてヴァイスが手配したのだという。


 うむ、俺が指示しなくても物事が進むって素晴らしいね。


 エルフ達は、リエラ特製スープやお腹に優しい雑炊も持ってきていて。


「ゼギアス様、早く複製してくださ~い」


 俺は言われるままに、器とともに料理の複製を繰り返した。


 しかし、こんな腹ぺこ状態の人達にリエラの激ウマ料理なんか食べさせたらあまりの旨さにたとえ少量しか食べなくても死んじゃうんじゃねぇか? と心配したが、それは無かった。


 相手がエルフだろうとデーモンだろうと、獣人だろうと命を助けてくれるなら感謝するのは当然とはいえ、目の前で獣人や魔族が人間を助けるのは当然であるかのような態度をとる奴が居なくて良かった。そんな奴が居たら、デザートスネーク操ってる輩を発見する前に砂漠へ放り出してやるところだ。


 領主のフベルトを初め、皆が俺達に感謝しつつパンと料理を嬉しそうに食べる様子は、食料の複製作業に忙しい俺を、生き残って良かったなと声をかけたくなる気持ちにさせた。


・・・・・・

・・・


 深夜になり、暗視スコープをサラに転送してもらって準備万端の俺は、暗視スコープを装着してから飛竜に乗り、空へ駆け上がった。


 上空から下を見ると、砂を被って外からは見えないデザートスネークも体温が赤く色付けされて、その位置がはっきり判る。


 ジラールの周囲をぐるっと回りながら探索していると、デザートスネークよりかなり小さい熱源を発見した。


 俺はそこへ飛竜を下ろし、熱源の上に火系魔法で、ちょっと火傷するかもしれない程度の火を被せる。


「あ、あちちち……あぢぃ!!!」


 砂の色に似たフード……燃えてるのだが……を被った男の声のする人型が慌てて飛び出てきた。男は燃えてるフードを捨てて、背中を砂の上にこすりつけるように倒れ込む。


「な、何故俺の居るところが判った?」


 身体をさすりながらゆっくりと起き上がり、俺に視線を合わせて聞いてきた。


「それをお前に教えるつもりはない。それで、なんでジラールを苦しめてるんだ」


 その男に近づきながら俺も聞く。

 俺の背後で待つ飛竜が目に入ったのだろう”龍が……”というつぶやきが聞える。


「そうだ、龍だ。隠れてもまた見つけるし、お前、逃げられないぞ?」


 俺から逃げるように後ずさっていた男は、足を止めた。

 月の影になって顔は見えない。

 体格は特別背が高いわけでもなく、がっしりとしてるわけでもない。


「俺をどうしようってんだ」


「捕まえて、何故こんなことしてるのか吐いてもらう」


「ハンッ、俺は何もしゃべらねよ」


 俺は男を見下ろしながら


「お前は俺に隠し事はできない」


 俺は催眠効果のある魔法を使うと決めてる。

 体内で魔法力を練り、男の頭に右手をあてた。

 俺の手がボワッと光ると、男はその場にしゃがみ込む。

 そして俺のいくつかの質問に、表情を失った男は抑揚の無い声で次々と答える。


 男の胸から、笛を探して手に取り腰にさす。その後、男の魔法を解除する。


 自分が答えていた記憶は残してあるから、魔法から覚めた男は慌てている。


「……てめえ!」


「さあ、お前達のリーダー、ヤルミルのところへ行こうか」


 俺は男の背を掴み、飛竜に乗る。

 ヤルミルが隠れてる場所も、男から聞き出してるので案内は要らない。

 俺は片手に男をぶら下げて目的地まで飛んだ。

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