38、ジラールの復興へ(その四)

 家に戻ると、まだ子供達は到着していない。

 もうじき夜が明ける。

 到着して風呂に入った後、朝食を食べたら寝ちゃうだろうな。

 まあ、時間はたくさんある。急ぐ必要はない。


 俺は風呂を浴びて自室に入ると、ミズラが俺のベッドで寝ている。

 起こさないよう静かに着替えていたのだが、


「あなたお帰りなさい。お疲れ様でした」


 ミズラが目を覚まし、身体を起こした。

 顔を洗ってくるわねと言い、ミズラは部屋を出て行く。

 寝てるところ悪いことしちゃったなと考えつつ着替えを済ませる。


 これから寝るつもりはないが、ベッドに横になり、ぼーっとする。

 ああいう惨事を見た後は何も考えたくない。

 俺はひたすら天井を見てるだけ、頭を空っぽにしている。


 ミズラが戻ってきて、俺の横に座った。

 俺の頬にキスをして、そのまま俺の耳元に顔を寄せる


「昨夜は大変だったわね」


「ああ、やりきれないね。ミズラも怖かっただろう」


 俺の首に腕を回して


「ええ、怖かったわ」


 ミズラの背を抱いて


「ああいうことがあると判っていても、見ないで済めばいいことだからなあ」


「……そうね」


「俺はジラールを管理下に置いたんだ。奴隷制度も廃止する。それでも恨みや憎しみを誰かに持つ奴は必ず居て、酷いことをするんだろう。巻き込まれた奴には、災難という言葉で片付けちゃ可哀想だが、災難と呼ぶしかないな」


「嫌だけど、そういうものなのよね」


「こういう気分の時は、ミズラに甘えて嫌なことを全て忘れたいものだよ」


「あら、私はいつでも甘えてもらいたいのよ?」


「残念だけど、これから人が来る。あの犯人が匿っていた子供達だ。時間がないのがとても残念だよ」


「ほんと残念ね。じゃあ続きは今夜になるのかしら?」


「ん? 用事が終わったら、フラキアへ行くつもりなんだがどうする?」


「お父様には会いたいわ。それじゃ連れて行ってくれる?続きはフラキアでになるわね。それもいいわ」


「ああ、いいさ。それまではゆっくり休んでいるといい」


「そうさせて貰うわ」


・・・・・・

・・・


「それじゃ、落ち着いたかな? あとはのんびりしていてくれ。昨夜は徹夜だったから眠いだろう。ベッドは用意してあるからゆっくり休んでくれ」


 食事が終わった子供達に話たあと、妻達に用を依頼する。


「サエラとリエラ、二人はこの子達を預かってくれるところが見つかるまで面倒を見てやってくれ。リーチェとマリオンはこの子達を養子にしてくれる家を探してくれ。子供欲しい家はたくさんあるから苦労はしないだろう。そしてスィールとリエッサは家と子供達のことを頼む。俺は今日ミズラを連れてフラキアへ行かなきゃならない。フラキア自治領主に報告することがあるんでね。ではすまないが皆宜しく頼む」


 ゼギアスの依頼に全員が笑顔で頷く。


 子供達は侍女達が、用意した部屋へ連れていく。

 何が何だか判らない風の子供達は、侍女に促されるまま歩いて行った。


「そうだ、リーチェ、アルフォンソさんのところにシャピロの弟ヴォーケルとメイヤが居るだろう? あの子達を紹介してやってくれ。外から来ても大丈夫だって教えてやりたいんだ」


 ”ええ、判りました。”とベアトリーチェは応え、外出の用意をしている。

 他の皆も一旦部屋へ戻り着替えてくるようだ。


「ミズラは午後から一緒に出かける。それまではスィール達を手伝ってやってくれ。では行ってくる」


 最後に残った、ベアトリーチェとミズラはゼギアスを見送る。


「何となく判ってきました。ベアトリーチェ様」


 ミズラはベアトリーチェだけは正妻なので様をつける。ベアトリーチェは皆と一緒でいいと言ってるのだが、たてるべきはたてないとと変えようとはしない。


「何がですか?」


「奥様達皆さんが仲が良い理由がです」


「昨日、あの人に何かがあったの?」


 強い雄に頼って雌は自分の身を守ろうとする。ひいては雌の実家をも守ろうとする。雄に複数の雌が頼ってる場合、雌の間に優先順がつくことはあり、雌は一つでも優先順を上にしようとして、雌同士の仲が悪くなることはよくあることだ。


 だが、ゼギアスの妻達にはそういうところが見られない。ミズラはそれが不思議だった。確かにゼギアスは全員を等しく大事にしようと心がけている優先順など見えない。だからと言って女性同士が仲良く暮らせる理由としてはまだ弱い。


 では何故なのか? そのことを昨夜判った気がした。


「ええ、あの方は強く優しく賢い方ですが、とても脆い方でもあるのですね」


「そうね。寂しがりで、傷つくことが怖くてね」


「はい。あの方の力は桁が違う。だから脆さによって生じることも大きくなる。そうならないよう奥様達全員で支えて癒やしてらっしゃったのですね。一人では支えきれないから皆で」


「年々あの人の持つ力は大きくなる。そしてあの人が抱えるものも大きく増えてる。皆自分だけでも支える気持ちはあるのですが、現実にはとても一人ではあの方を支えきれませんからね」


「形だけじゃなく真の意味で家族であり、運命共同体なのですね」


 ゼギアスは繊細だ。その理由は多分、前世の記憶や考えにある。だが、一方で、彼の持つその前世の記憶や考えが、サロモン王国を作り、多くの者を集め、妻達が彼を愛する理由でもある。


 だから、彼の繊細さに拠って、彼が傷ついたり苦しんだりしないよう、傷ついたり苦しんでも、今の彼を肯定する必要がある。彼に自信をつけてあげる必要がある。


 ゼギアスが力をつけるに従って、彼が関わる範囲が広くなる。広くなれば広くなるほど、何が彼の繊細さを刺激するか見えにくくなる。その点を一人や二人ではカバーできなくなっている。気持ちはあってもできない。だから妻達は全員でゼギアスをカバーしてるのだ。誰かが欠けるとカバーできないところが増えると皆が考えている。だから仲が良いのだ。


 ミズラは昨夜、ゼギアスを見ていて”何の関係もない者達を救うのだからそこには打算があって当たり前”と考えたが、ゼギアスはそうではなかった。結果としてゼギアスに利益あるものになったとしても、動機が違う、最初が違う。


 ミズラにはまだ理解できないしこの世界ではゼギアス以外の誰もが理解できない……人権だとか博愛だとか、そういったモノがゼギアスを動かすことがある。それは仲間に利益を与えるから権力を握ることが認められてる者のすべきことなのかとミズラは疑問だ。 


 権力者は与える力も必要だが、切り捨てる力が必要な時もある。それは冷徹な姿勢で行われるべきものであり、割り切ることも必要になることだ。だが彼には拘る理想があり、冷徹になりきれないし、割り切れずに不安なまま動かねばならない。不安だから動揺しやすく傷つきやすくなる。その繊細さ故に彼の心が弱くなりやすい。


 だから皆で支えているのだとミズラは理解した。支えきれなくなった時は、ゼギアスと共に流されてしまうだろう。ゼギアスと妻達は、他の権力者の家族よりも現実的な意味で運命共同体なのだと皆が感覚で理解している。だから不和など起こしている状況ではないのだ。


 だが、皆不幸ではない。

 辛いとは思わない。


 ゼギアスがゼギアスのままであれば、自分も自分が大事にしているものも皆幸せなのだ。他の国で、他の誰かと生きるよりも幸せなのだ。


 愛情も、やり甲斐もある。

 だから誰も暗くはならない。

 前向きでいられる。


 これはきっとゼギアスの妻にしか判らないことなのではないか。

 ミズラはそう感じていた。

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