32、幕間 ケーダとセイラン(その二)

 カレイズとケーダは二人でオルダーンに居るアンヌのもとを訪れた。


「私はまだ首都エルを訪れたことがありません。そこで一度訪問しているケーダと共に見学に行こうと考えてます。そこでつきましてはゼギアス様と会えるようアンヌ様に仲介していただけないかとお願いに参りました」


 カレイズはアンヌが常駐している警備員待機所へ赴いた。


「ええ、それは構いませんよ。カレイズ様のご訪問をあちらに伝え、ゼギアス様の都合をお聞きしてお伝えすれば宜しいですか?」


「はい、よろしくお願いします。それと……」


 カレイズはケーダをサロモン王国で働かせようと考えてることなどを率直にアンヌに話し、その為にはどうしたら良いかと聞いた。下手に誤魔化すよりも率直に相談したほうがアンヌを信頼している気持ちを判って貰えるのではないかと考えたのだ。


 アンヌは話を聞き終わって、


「カレイズ様、ゼギアス様は喜んでくださるのではないかと思います。サロモン王国は急激に大きくなっている国で、人材の補充が追いついていないと聞きます。私は喜んでケーダ様をご紹介させていただきますよ」 


 笑顔でケーダの紹介を請け負った。


 ゼギアスは、ケーダがサロモン王国で働きたいと聞いて、アンヌの予想通り喜んだ。領地経営を見て育ったケーダなら頼みたい仕事がたくさんあるのだ。もちろん最初から完璧にできるはずはないと理解していたし、そもそもサロモン王国がやろうとしていることは、この世界の他の国でやっていないことが多いし、住民も様々な種族が居るのでこの国特有の問題も出てくるだろうと考えてる。


 ゼギアスがケーダに求めることは、ケーダのやりがいや幸せに繋がる仕事をこの国で見つけて欲しいということ。それが結果としてこの国をより良くすることに繋がると考えていた。


 ヴァイスハイトがこの国で求められてる仕事とその内容をケーダへ紹介し、そしてケーダが選んだのは移住者管理部門の仕事。


 この国には移住者がこれからどんどん増える。ケーダが選んだ仕事は彼らがこの国で幸せに生活するための環境を用意すること。彼らの再出発第一歩を支えること。ザールートがそうであるように、新たなチャレンジする人を成功へ近づけること。


 やり甲斐が無いわけがないとケーダは思った。


 この国に移ってきた者達が最初に頼る部署をケーダはこれから充実させていくことになる。同時に、移住者がこれまで不満に感じたことを、サロモン王国でもザールートでも対応し両国住民の環境向上に繋げていくことになる。


◇◇◇◇◇◇


 セイラン・ファラディス。

 サラとライラがザールートで出会った駆け出し画家。

 サラとライラが……ライラが特に気に入った画家である。


 セイランの話を聞いたゼギアスは、できればこの国に定住して欲しいと願っていた。というのも、この国を紹介する本を作りたいと考えていて、その本の挿絵を是非セイランに描いて欲しいと思ったからだ。


 地理、文化、歴史、日常生活など、文章だけで表すより視覚に訴える絵があればより判りやすく受け入れやすいものになるだろう。対外向けのものとしてだけでなく、子供達にこの国を教える際に必要だとも考えていた。


 セイランは、首都エルのサラの家を訪ねた。

 入国管理でサラ・デュランの家のことを聞くと、詳しく教えてくれた。


 教えてもらったサラの家の前には獣人の警備員も居て、”私はセイラン・ファラディスと言います。ここはサラ・デュランさんとライラさんのお宅ですか?”と聞くと、警備員は家の中へ確認してから通してくれた。中へ通されると、笑顔のライラが出てきて居間に通される。


「よく来てくださいました。私もライラも、そして兄もセイランさんをお待ちしておりました」


 サラが近づいてきて、身体の大きな男性と透き通るような美しさの女性と、少し扇情的な空気を持つ女性二人が座るソファの向かい側へ座るよう案内された。


「やあ、初めまして、私はゼギアス・デュラン。サラの兄です。貴方のお話はサラとライラから聞いています。是非お会いしたいと私も、ここにいる妻達とも話していたのです。来ていただいて本当に嬉しく思います。こちらに滞在している間は、気楽に過ごしていただけると嬉しい」


 ゼギアスが朗らかな表情で気軽に握手を求めて来る。

 セイランは挨拶しながら握手し、ゼギアスに促されるままに椅子に座った。


 この国への目的、様々なところを見て絵を書きたいというセイランの目的はゼギアスも聞いていて、セイランがどこへ行くにも、案内にライラとその他に二名の警備を付けるとゼギアスは言い、


「ああ、もちろんお一人で過ごしたい時もあるでしょう。その際はライラに遠慮なく言ってください。こちらでお部屋を用意することもできますが、宿を用意することもできます。その辺はライラと相談して決めてくださって結構です」


「あの……ただの旅行者にそこまでしていただくわけには……」


「ああ、私の言葉が足りなくてすみません。貴方にライラを案内につけるのは、ライラが貴方の絵を見て勉強したいというこちらの都合もあるのです。また、貴方にはこの国のいろんな場所を描いていただきたいと思っています。そのために安心して過ごせるよう警備も付けるのです。要はこちらの都合もあるからなので気にしないで」


 ゼギアスは一人、これから仕事があるのでと挨拶してから去った。


「私はライラの姉サエラです。サロモン王国へようこそ。セイランさんのお話は妹からよく聞かされています。私も一度貴方の絵を是非拝見させていただきたいと常日頃から思っていました」


 ベアトリーチェとマリオンもセイランに挨拶し、それぞれ仕事があるからと席を外していった。


「皆、ゼギアス様の奥さんなの。皆綺麗でいい人達よ。今日はサラちゃんはお仕事で居ないけど、夕食には戻ってくるので、セイランさんに会えて喜ぶと思うわ」


 ライラはセイランの予定を聞き、明日以降、どこへ行くかを話し合った。

 そしてセイランは宿で過ごすほうが気楽というので、近くの宿まで案内し、夕食前に迎えに来るからと言って、ライラも戻っていった。


「何だか、過剰に評価されてるようで落ち着かないな」


 部屋で荷物をほどき、一段落したところでセイランは呟いた。


 セイランの感覚だと、サラの家は貴族の家と言っても差し支えない立派な家だった。だが、ゼギアス達は気さくで、貴族らしくない人達だった。初対面だから緊張したけど、会う機会が増えればきっと気楽に話せる相手のように感じていた。


 この国に入ってからは、驚きの連続だった。

 亜人や魔族は何度も見たことはあったから驚きはしないけれど、頻繁にグリフォンや飛竜を、ここへ来る途中ではユニコーンやキマイラも目にしたし、街の外れを歩く巨人族も居た。街中にはラミア族やハーピィが獣人達と談笑しているところも見た。


 街の建物も見たことのないデザインのものがあり、風景が自分の知る世界と大きく異なってると感じた。


 画家として興味あるモノを多く見られて、明日以降が楽しみで仕方ない。


 夕食も今まで食べたことのないメニューで、そしてものすごく美味しかった。

 料理を作ったリエラという女性は天才だとセイランは感心していた。

 絵の師匠について、貴族と共に食事をとったことが幾度かあるけれども、どこで食べた何よりもリエラの料理は素晴らしく、とにかく感動した。


 日中には会えなかったサラや他の方も食卓には居て、セイランはたくさん質問されたが、そこに不快なものは何もなかった。楽しく夕食を過ごしたあと、サラとライラと共に宿へ戻り、そこで二人とセイランは別れた。

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