44、カリネリアとの戦い(その四)

「どうだ? サラ、皆助けられそうか? 大丈夫か?」


 酷い酸欠となると脳細胞が破壊されることもあると知ってる俺は焦っていた。


 脳に障害が残ったらどうしよう、サラの力で回復するのか? 

 もしそうなら有り難いが、無理だったらどうしよう。


「落ち着いて、お兄ちゃん。治癒と回復が終わった後、障害が残った方は私が必ず治すから、だから落ち着いて!」


 俺の目は焦点を失っていたと後にサラは言っていた。

 俺の動揺はかなりのものだったらしい。


「サラ……頼む、サラ……みんなを助けてやってくれ、俺のせいだ……俺のせいなんだ。俺が甘かったせいで」


 しゃがみこんだ俺はサラに頼むことしかできなかった。


「お兄ちゃんはここに居ても邪魔よ。後のことは私がベアトリーチェさんとスィールさんとで責任もってやるから、こんなこと仕出かした愚か者に思い知らせてきなさい! それがお兄ちゃんの役目でしょ?」


「あなた! しっかりしなさい! ゼギアス・デュランの怒りをあの自治領主に思い知らせてくるのです」


「ゼギアス様、もしここを襲おうという輩が来たら私が退治する。心配しないで行ってきてください」


 サラ、ベアトリーチェ、スィールそれぞれが俺を叱咤する。彼女達の目にも怒りがあった。俺と同じく怒ってくれている。


 ああ、必ず報いを受けさせてやる。

 簡単に殺してもらえると思うなよ。


 俺は黙って頷き、領主宅へ転移した。


・・・・・・

・・・


 領主宅の前に転移した俺は、まず門を蹴り飛ばした。

 はちきれんばかりの怒りのせいか、やりきれない悔恨のせいか、俺の身体には力が漲り、館ごと破壊できそうな勢いで鉄の門を蹴り飛ばした。


 無言で玄関まで歩いて行き、闇属性龍気を混ぜて火系魔法を撃つ。俺の手から赤い光が膨れ上がり、扉以上の大きさまで膨れたとき、扉に向けて光の塊を撃ち込む。館に火が広がると同時に、火に触れたところは消え去っていく。


 フン。

 中に居れば楽に死ねるだろうよ。


 玄関前で静かに火が燃え移っていく様子を見ながら、館の様子を伺う。

 窓から自治領主を抱えた侍従が飛び出てきた。続いて長男も。


 侍従の服には火が移っている。

 可哀想だが、悪い主人に仕えたと諦めてくれ。

 自治領主の関係者には、一遍の情けもかけないと誓ったんだ。


 大声をあげながら消えていく侍従から自治領主は離れ、その様子を見ていた長男も腰を地面につけたまま動かない。


「た……たす……助けてくれ! 金ならいくらでも用意するから」


「……」


 俺は無言で自治領主のそばまで近寄り蹴り飛ばす。

 ドンッという音と共に長男にぶつかる。


「許してくれ、奴隷は解放する。な? これでいいだろ?」


「……」


 石ころを蹴るように再び領主を蹴る。


 横に居た長男の足をガンッと踏み潰す。

 領主は横たわり蹴られた腰を押さえながら、ガッグハッと呻いている。

 ガアァァァァァァァッと潰された足を押さえながら長男は地面を転がっている。


 (アロン。そっちの状況はどうだ?)


 (空戦部隊の例のアレでコルラード軍は撤退。今、厳魔達がせっかく出向いたのだからと傭兵たちを蹂躙している最中です。あと三十分もすればこの戦争はおしまいです)


「コルラード軍は撤退、傭兵たちはうちの仲間に蹂躙されてるぞ」


「なっ!」


 潰された足を抱えながら長男セドリックが俺を見た。

 大きく見開いた目には驚きと失望が見える。


 こいつには予想外の展開のようだが、こちらは想定通りなんだよ。

 さて、こいつらの始末だが、被害者に決めさせよう。


 俺は自治領主と長男を掴んで坑道入口に転移した。


・・・・・・

・・・


 サラ達のところに着き、二人をゴミのように投げ捨てる。


 サラ達の治癒と回復のおかげで、数十人がしゃがんで他の仲間の様子を伺っていた。そばに近寄りたかっただろうが、サラ達の仕事の邪魔になるとでも考えたのだろう。誰も作業の邪魔になるような動きはしていない。


「みんなをこんな目に遭わせたのはこいつらだ。だが、みんなの主人でもある。俺はこいつらをすぐにでも消去したいのだが、みんなの気持ち次第では助けてもいい。こいつらを助けたいものはいるか?」


 皆の視線が自治領主と長男に集まる。

 だが、誰ひとりとして口を開かない。


「お前達! 主人の助命をせんか!!」


 自治領主マクシムは、こんな状況でも尊大だ。

 命令できる立場だと思ってんのかね。

 思ってるからこそ命令口調なのだろうな。


「頼む! 命だけは取らないよう頼んでくれ!」


 長男セドリックの方は状況が判ってるのだろう。

 奴隷達に頭を下げて命令ではなく依頼の口調だ。


 だが、誰も口を開かない。


「答えは出たようだな」


 俺が二人に近づきながら言うと


「この件はセドリックが……息子のセドリックが仕組んだことだ。あんたを戦線に参加させないようにと。あんたは奴隷の命に危険が迫ると放おってはおけないはずと」


 こいつはクズだな。

 長男が言い出したことでも、受け入れた時点で同罪なんだよ。

 息子に責任転嫁して自分だけ生き残ろうとするその姿勢には反吐が出る。


「関係ない。どうせ二人とも処刑する」


 自治領主にもう口を開かせたくないから、先に報いを受けさせる。

 だがこの場には幼い子どもも居る。

 処刑の現場は見せたくない。

 仲間に頼んで、子どもたちを近くの作業小屋へ連れて行ってもらう。


 子どもたちが連れ去られる様子は、自治領主に自分の命に終わりが近づいていると予感させたのだろう。


「頼む。命だけは助けてくれ」


 涙や鼻水たれ流しながら地面に頭をこすりつけて懇願している。


「お前は一度でも、俺の同胞の意見に耳を傾けたことがあるのか?」


 俺は自治領主と長男を結界で覆い、ぼっち結界状態にする。

 そして自治領主の結界の中から空気を結界外へ出していく。

 同胞が味わった酸欠状態をその身で味わってもらうのだ。


 自治領主は、吐き気を催したようで、ゲェゲェと吐いている。この状態を維持すればそのうち昏睡し死に至る。俺はこの状態で結界から空気を抜くのをやめ、次の長男に取り掛かる。自治領主の結界よりもゆっくりと空気を抜いていく。


 自治領主の様子を見て、次は自分だと悟ったセドリックは”やめろ! やめてくれ!”と叫び、潰れた足を引き釣りながら移動しようとするが、結界に阻まれ進めない。


 ちらと自治領主を見ると、昏睡状態に陥っているようだ。このまま放置して置けば勝手に死ぬ。


「お前が俺の同胞にしたことはこれだよ。同胞に与えた恐怖を味わって死んでいけ」


 サラ達は、セドリックに見向きもせずに治療を続けている。

 救助された仲間達は、感情に乏しい視線で自治領主とセドリックの様子を無言で見つめている。


 (ゼギアス様。こちらは終わりました。この後はどうしましょうか? 予定通りにカリネリア占領で構いませんか?)


 (ああ、そうしてくれ。俺はもうしばらく鉱山にいるからよろしく頼む。)


 アロンからの報告を聞いている間に、セドリックも吐き気を催し始めたようだ。

 喉に手を当ててゲェ……ハァハァ……ゲェェェェと苦しんでいる。


「た……助けてくれ!……ゲェエッ、俺が……悪かった」


「お前は幸せだなあ。助けを求める相手が居て。同胞は誰にも頼めなかったんだ。因果応報ってものを覚えて後悔して死んでゆけ」


 しゃがんで自治領主達への処刑を見守ってる者達を見渡した。

 恨み言を言うでなく、ただジッと見つめている。


 セドリックの口からまともな言葉は出てこなくなった。こいつももうじき昏睡する。

 自治領主は既に死んでるので、闇属性龍気を纏わせた火系魔法を自治領主の結界内に放り込む。これで骨も残らずに消えるだろう。


 やがてセドリックの身体も動かなくなったので自治領主同様に消す。


「みんな苦しい思いをしただろうし、今までのことを思えば自治領主達が居なくなっても気持ちは晴れないかもしれない。だが、この場はこれで勘弁してくれ。それで、できればサロモン王国に来てくれないか? 今すぐ決めなくてもいい。いつでもいいから、もしその気になったら言ってくれ」


 サラと奥様二人にこの場を任せ、俺は占領を始めるアロン達のもとへ転移した。

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