33、雄飛を目指して(その一)
リエンム神聖皇国南部中核都市コムネスから奴隷解放された。
その事自体も大きな問題だが、それ以上に戦闘神官第五位のトリスタンと第七位バーミアンを失ったことのほうがリエンム神聖皇国としては問題だった。
戦闘に参加していた兵士の証言に拠ると、トリスタンは策を用いて勝とうとしたが、策を逆手に取られ力を出す前に敗北したらしい。だが、バーミアンは敵のゼギアス・デュランと一対一で戦い、手も足も出なかったという点の方が問題視された。
サロモン王国の王ゼギアス・デュランは最低でも戦闘神官第三位以上の力の持ち主ということを意味する情報だからだ。
戦闘神官は第三位以上と第四位以下では全く違うレベルの存在だ。
筆頭のカリウスは別次元として、第二位のアンドレイと第三位のバックスも第四位以下と比較にならない力を有している。
だが、第四位から第十位までの戦闘神官でも一人で十万の兵に匹敵すると言われている。第二位と第三位ともなれば数十万の兵に匹敵するだろうと考えられているのだ。
つまり敵のゼギアスは数十万の兵に最低でも匹敵すると考えるのが妥当。
また、バーミアンに率いられた総数六万の軍勢が、ゼギアス抜きの敵およそ三千に撤退させられたという点も脅威だ。兵の話を信じるなら、戦闘神官レベルの敵は居なかったにも関わらず、用兵によって味方は消耗が激しく撤退に追い込まれたという。
ここまでで判るのは、ゼギアスを相手にするには第三位以上の戦闘神官でなければ相手にならず、第四位以下の戦闘神官ならば二人以上居なければ、ゼギアス抜きの敵軍にも勝機がないかもしれないということだ。
ケレブレア様がカリウスの投入を全く認めないのだから、ゼギアスに対抗するには第二位と第三位を同時に投入して初めて勝機があるが、ゼギアスが万が一カリウスに近い力を持つなら第二位と第三位が揃って戦っても勝てない可能性がある。
まして、第四位以下だけであれば、ゼギアスと当たったなら全く勝ち目は無い。
ジャムヒドゥンと戦争状態の今、戦闘神官をこれ以上失えばリエンム神聖皇国は壊滅的なダメージを被ることになる。国家存亡の危機に陥ると言ってもいい。
リエンム神聖皇国が奴隷制度を維持している限り、ゼギアスは再び攻めてくるだろう。奴隷解放こそが彼の国の存在理由に等しいものだから確実だ。
だが、奴隷なしではリエンム神聖皇国の体制は維持できない。ケレブレア教の教義に、人間が他の種族を統べ従えることで他種族の罪を洗い、他種族も救いを得られるというものがあり、故に亜人や魔族を奴隷として使役することは正当化され当然視されてきたし、ある意味義務とも考えられているのだ。
だがこの教義を守り、既存の体制を維持するなら、教義の維持どころか、国の維持も危なくなっている。
ケレブレア様のお力を借りて戦闘神官を増やすか……。
だが、戦闘神官とは、素質ある神官にケレブレア様の血が入った飲み物を飲ませ、その者のもつ素質の限界まで力を使えるようになった者だ。ケレブレア様の血は劇薬で、飲んだ者はもともと持つ力が低ければ死に至るし、生き残っても素質限界まで力を使えるようになるとは限らない。増やしたいからといってそう簡単に増やせるものではないのだ。第十位までの戦闘神官が揃うまででも十数年かかってる。
やはり無理だ。
体制維持のために教義をなんとかするしかない。
ケレブレア様の言葉として教義を作ったのだから修正はできない。
修正するということは、もともとの教義に誤りがあったということになる。
ケレブレア様の言葉は絶対で過ちなど無いということで、我らの地位が保証されてるのだから、修正などできはしない。
では新たな教義を付け加えるか……。
新たな神託が降ったということにすれば問題はない。
その場合、人間の定義を変えれば、亜人や魔族でなくても奴隷として使役できるようにはできる。
しかし、ジャムヒドゥンの奴らが休戦を受け入れさえすれば、サロモン王国へももう少しやりようがあるのだが……。あの小賢しい野蛮人どもめ。
そう言えば気になっていることがある。サロモン王国は最初にニカウアで奴隷解放してから、こちらから動くまで動かなかったのは何故だ。ニカウアの時もサロモン軍の損失はほぼ無かったはず。そのままコムネスなり、スタフェッテなりに攻め込み奴隷解放することは可能だったはずなのに、何故そうしなかったのだ……?
戦闘神官を二名倒してコムネスから奴隷解放した実力から言って、戦力に問題があったわけではあるまい。
そこら辺にサロモン王国の弱みがありそうだ。
ふむ、食料か?
食料の供給力に弱みがあるとすれば……。
継続戦闘力に限界があるとすれば……。
こちらから奴隷を解放してやれば、奴らの食料不足は深刻になるはず。
奴隷解放を理由に侵攻されることもなく、更にサロモン王国の弱体化も見込める。
教義を加えてから、奴隷解放すればこちらも労働力不足に悩まなくて済むし、現体制を維持することも可能になる。そもそも貧乏人や弱者など、国を維持している我らに奉仕して当然なのだ。
だが、この判断が間違っていたらサロモン王国に労働力を増やすことに繋がる。
さてどうするかだな……。
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