44、カリネリアとの戦い(その二)
フラキアに来た目的は、明日以降のカリネリア占領について説明すること。
それとエドシルドの動きを領主から確認すること。
俺は、領主宅のノッカーを叩いて門の外で待っている。
数分後には、いつもの様に侍従長が迎えに来て、領主の部屋まで案内される。
事前に伺う旨は思念伝達で領主に伝えておいたので、領主は部屋で待っていてくれた。
「こんにちは。今日は私に時間があまりないので早速用件を始めたいのですが、宜しいですか?」
立ったままで失礼することを謝罪し、領主が頷くのを見て話を続ける。
カリネリア方面の状況報告をさっさと済まし、関心あるエドシルドの動きについて俺は確認する。
「フラキア、カリネリア以外のエドシルド参加自治体は何か動きを見せているでしょうか?」
「エドシルド連邦の盟主国エドシルドを始め、カンドラ、ライアナ、フリナム、レイビスの参加自治体全てが静観を決め込んでます」
各自治体とカリネリアとの間にフラキアがあることもあり、まだ慌てる状況ではないと考えてるだろうとのこと。
「カリネリアの危機的状況なのにどこも支援しようとしないのですか?」
「それはエドシルドの性格があくまでも対ジャムヒドゥンに偏っていて、更に、カリネリアは自前の軍を持たない自治体であることも影響してると思います。自分達が危機に陥ってもカリネリアからの支援は金銭に限定されますからね」
援助された金で傭兵を雇えば良いではないかとか、ジャムヒドゥンとの交渉で金を使えばいいのではと思うのだが、貧乏だったフラキアならともかく、自軍に被害が及ぶリスクを犯してまでカリネリアからの支援を必要としてる自治体はないのだそうだ。
「カリネリアが占領された時は、エドシルド連邦として批判声明は出すでしょうが、水面下ではサロモン王国と接触し、対ジャムヒドゥンの駒にしようと動く自治体は出てくるでしょうね」
「なるほど。わかりました。今後の対エドシルド連邦方針については、カリネリアの件が済んだら話し合いましょう。今日はお忙しいところありがとうございます。私はここで失礼させていただきます」
当面、エドシルドに動きはないと判ったので、早速カリネリアへ向かう。
ゼギアスは領主へ一礼してその場からカリネリアへ転移していった。
◇◇◇◇◇◇
カリネリアの自治領主宅前に転移したゼギアスは門のノッカーを叩く。
館から出てきた執事はゼギアスの顔を確認すると、門を開けずにそのまま館へ引き返した。数分後に、自治領主マクシム・コウトニクが玄関から出てきた。
その顔は緊張していたが、ありったけの威厳を総動員してゼギアスに尊大に告げる。
「今日は何をしに来た?ゼギアス・デュランよ」
「期限は明日だが、奴隷を解放する気になったか?」
「いや、奴隷は解放せんよ。カリネリアを維持できなくなるのでな」
「そうかい。じゃあ、明日また顔を合わせよう。その時には一切の譲歩はなしだ。いいな?」
”そちらこそ情けない顔を見せるでないぞ”とゼギアスの後ろ姿に叫んでいたが、ゼギアスはそれを無視してアロンのところへ転移した。
その様子を二階のカーテン越しに長男のセドリックは見ていた。
コルラード王国と傭兵の準備を整えたセドリックの表情は、期待と不安が同居していた。
「奴を……ゼギアスを戦場から離す算段はした。あとはゼギアス抜きのサロモン王国軍に勝てるかだ」
明日に迫った開戦にセドリックも緊張を隠せないようで、額に流れる汗に気づきもせず、既に去ったゼギアスが居たところを眺めている。
・・・・・・
・・・
・
休憩地に戻り、アロンのテントへ戻る前に兵達の様子をゼギアスは見て回る。
さすがにはしゃいでる者は居ないようだが、表情は固くもなく緊張の様子は見えない。今回が実戦初めての者も多いが、厳しい訓練に耐えてきたせいか自信もやや見られる。
アロンによると、サロモン王国の最後の戦いであったリエンム神聖皇国のバーミアン戦闘神官率いる軍との戦いで、勝つには勝ったが相当苦戦した経験がわが軍の指揮官達から油断を奪っている。だが、その経験のおかげで、この数年の訓練は常時実戦を想定したものになり、指揮官の指示に柔軟に対応する軍に育っているという。
「みんな!いよいよ明日だ。地上部隊の出番はないかもしれないが、それでも油断せずに頼む。怪我一つ負うこと無く国に戻ること! 宜しく頼む」
俺の言葉に軽く腕をあげて大勢が応えてくれた。
そう、明日は空戦部隊によるちょっとした実験を行う予定で、効果があればコルラード王国軍は退却するしかないはず。そうなれば地上部隊の出番はないから、無傷で全軍を国に帰せる。
みんなにも家族や友人が居る。
”ただの長時間散歩だったよ”とみんなが笑い合える結果に落ち着きたいものだ。
皆の様子を一通り確認してからアロンのテントへ戻った。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
アロンはアロンで明日の戦地の地図を広げ、自分がたてた戦術の確認をしていたようだ。
「ああ、カリネリア自治領主は奴隷解放しないと言っていた。つまり予定通りさ」
カリネリアには興味なさげにアロンは言う。
「好きにさせておけばいいんですよ。どのみち解放するしかない……というか、明日には自治領主の座から落とされるんですから彼らの返事など形式に過ぎないんです。ゼギアス様もその辺り物好きですよね」
「そう言うなよ。奴らにだって最後通牒くらい受け取らせてやったっていいじゃないか」
俺の言葉にフッと笑ってから、
「最後通牒って書状で出すものですけどね? まあ、そのズボラなところ嫌いじゃないですよ」
「あらま、そうか……今度から気をつけるよ。しかし、こちらのこと詳しくも知らないのに自信ありげだったな」
「ヴァイスハイト様も私も態度こそ余裕あるように思われますけど、いつも不安を抱えてますよ。皆の手前不安な顔見せられないですしね。カリネリアもそうかもしれない」
「なるほどな。俺相手に弱気なところは見せられないってところか」
不安を消すために戦術の見直ししているアロンの邪魔はできないし、ついでに夕食まで休もうと俺は横になって目をつぶった。
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