48、蠢く大陸(その四)

 フラキア領主の家族のうちフラキアに居る七名とゼギアスとミズラ、そしてザールート国王の次男ケーダ・ガルージャと、ケーダとの結婚が決まったティアラ等とフリーゼン夫婦は夕食を共にした。


 前カリネリア領主の次男アルベールが妻ナミビアと一緒にフラキアに居たことも少し驚いたが、今や香りの良い石鹸でグランダノン大陸中に名を知られたザールートの関係者ともフラキアが縁を結んでいることに更に驚いた。


 フラキアは南部連合の主要国と短期間に縁を結んでおり後援に困ることは無い証拠だからだ。やがてファアルド夫婦とゼギアス夫婦以外の他の家族はそれぞれ去り、ファアルド達四名とフリーゼン夫婦は別室に移動した。


「改めまして、サロモン王国国王ゼギアスです」


 夕食前に挨拶は済ませていたから、簡単に挨拶を交わして用意された椅子に六名は座る。


「夜も更けて参りましたから本題を早速。夫婦でフラキアに参りましてとにかく驚くことばかりでした。これは是非カンドラでも取り入れたいと思い、ファアルド領主にお話しましたところ、詳細はゼギアス国王しかご存じないということ。そこでお願いしてこの場を設けていただいた次第です」


 ゼギアスは微笑みながらフリーゼンの言葉をじっと聞いている。


「率直に申し上げます。何を代償とすればご協力いただけますでしょうか?」


 フリーゼンはゼギアスの余裕ある態度に、政治的な会話などで腹の探り合いしても拉致があかないと感じストレートに聞くことにした。


「フリーゼン国王には既におわかりになってるのではありませんか?私どもの国のことをご存知であれば……ですけどね」


 知らないとは言えない。知りもしない国に対して協力をお願いするなど、いくらフラキアを見て喉から手が出るほど協力して欲しくなったとはいえ、何の下調べもしないまま一国の国王が依頼するなどお話にならないからだ。


「やはり奴隷の解放……になりますか」


「私どもは奴隷を使役してる国に援助することはありませんし、できません。そうでしょう? 私どもの国で、皆さんが欲してる技術で製品を作ってるのは、まさにその奴隷だった者達なのです。その者達の気持ちを考えたらありえないのです」


「そこを何とか別のものに換えることは……」


「無理ですね」


 ゼギアスの表情は柔らかいし口調も穏やかだが、けんもほろろな返事しか返ってこない。


「……」


「フラキアをご覧になって羨ましいとフリーゼン国王は仰られた。フラキアでは奴隷は使っていませんよ? いくら妻がフラキア出身だとしても奴隷を使役していたら私は協力はできませんでした。私は疑問なのですが、カンドラでも奴隷を使わずにフラキア並の活気を生むことは可能なのに、その方法を先に聞かれないのは何故なのでしょうか?」


「……」


「宜しいですか? 私どもがカンドラやエドシルドの他の国に対して奴隷解放を今のところ要求していないのは、妻ミズラとフラキアの顔をたててるからなのです。それでも……それもいつまでもは続かないでしょう。我が国の”仲間を解放してくれ”という声は必ずこの先大きくなっていきます。私はそれを無視できません。同じ国王ですからおわかりになりますよね?」


「……脅すというのか」


「いえ、違います。ご忠告しているのです。今のうちに手を打ってくださいとお願いしてるのです。私達は報復者ではない。今まで奴隷を使っていたとしても、改善してくれるなら武力を用いようとは思いません。協力もしやすくなるのです」


「……」


「あなた、ここはゼギアス国王から奴隷を使わないで済む方法をお聞きして、その上で協力をお願いしたほうが宜しいのではありませんか?」


 フリーゼンの妻ヴィオーチェがフリーゼンの背中を押す。

 政治に関することには滅多に関わらないヴィオーチェが口を挟んだのには理由がある。

 カンドラの財政はかなり苦しい。以前のフラキアと比べたらまだまだマシだが、年々税収も減っている。そんな状況のところへ隣国のフラキアの隆盛。


 南からカンドラまで足を伸ばしていた客がフラキアに留まるだろうし、東西からの客は素通りすることになるだろう。フリーゼン夫婦の危機感はかなり強いものだったのだ。


 だが、奴隷を使わずに済む方法があるとしても、対応しきれるかは別の話だ。カンドラの体制を大きく変えることになれば、既得権を持つ者が不満を持つのは間違いない。それをどう抑えたらいいのか。


「難しくないですよ? 奴隷を使ってる職業をまず全部調べてください。その次に”奴隷を使わない者にはサロモン王国が支援すると言ってる”と広めてください。法など用意することもありません。噂でいいのです。奴隷を使わない方へは私どもが手助け致します。必ず結果は異なりますよ。ここまで実績を積み上げてきましたからそれは確信してお約束できます」


「……つまり……?」


「ええ、奴隷を使ってる者が必ず損をする状況を作ればいいのです、というか作ります。三~四年のうちに奴隷を使う者は居なくなるでしょう。その上生産量は上がってるはずです。特別な商品を用意しなくてもそこまではいけます。そして奴隷を使う者がカンドラから一掃された後はいくらでもお手伝いいたしましょう」


 奴隷を使ってる既得権者も、奴隷を使わなければ儲かるとなれば徐々に減るだろう。その者達にいくら不満があっても、それ以上に歓迎する者が増えれば。


「我が国から奴隷を無くすお手伝いをしていただけますか?」


「ええ、もちろん。それが我が国の現在の目的ですから」


 フリーゼンは、フラキアをゼギアスとの連絡地とし、カンドラへ戻る。そして早速奴隷使用している者とその業種を調べ始めた。

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