第四章 続の章

48、蠢く大陸(その一)

 ジャムヒドゥンの現グラン・ドルダであるガウェインは、サロモン王国のカリネリア占領とコルラード王国との同盟、そして南部同盟の結成の報告を受け、四士族会議を開いた。


 リエンム神聖皇国との戦争はいまだに終わらない。

 エドシルドはジャムヒドゥン四士族の結束を崩し国力を削ごうと画策している。

 更に、潜在的敵国サロモン王国の体制充実。

 他にも問題はまだあるが、今のところはこの三つが問題だ。


 グランダノン大陸の大国、今やサロモン王国も加えた三大国のうちジャムヒドゥンが置かれた……周囲全てに問題を抱えてる現状は好ましいものではない。


「……説明したこれら三つの問題を解決するため意見を交わしたい」


 ガウェインが三者を見渡しながら意見を求める。


 サロモン王国の領地となったジラールと最近占領されたカリネリアと接する領地、ジャムヒドゥン南部をまとめるアザン族のドルダ、ルーカンが口を開く。


「私が治める南部の立場から言えば、サロモン王国への対応を真っ先に考えていただきたいとは思う。だが、以前から奴隷の利用範囲を狭くし続けてきたから、直接軍事解決でなく外交交渉で解決できそうでもある。ただ、他の士族が治める地域と足並みが揃っていないこともあり、我が領地単独ですすめても良いかも考えていただきたい」


「私の領地でも奴隷は殆ど残っていない。だが、ごく一部の汚れ仕事では依然奴隷を必要としている。そこでは亜人や魔族に限定していないのだが、結果として亜人と魔族の奴隷が作業している。まあ、必要に迫られれば、亜人と魔族の奴隷を禁止するさ。ルーカスが交渉するというのなら、私の領地も足並みを揃えることは可能だ」


 ガウェインはルーカンの方針に賛同する。ダギ族のドルダ、ホルサもガウェインの領地と同じ状況のようで、やはりルーカンに賛同した。


 だが、テムル族のドルダ、ヨセフスは反対した。彼の領地では軍事に関わらない作業はほぼ奴隷を必要とする体制のままで、他の士族長は領地の体制を徐々に変えてきたが彼は全くと言っていいほど変えていない。


 他の領地は体制を変える必要があったが、彼の領地では変える必要がなかったのが原因。テムル族の領地は他の領地より気候に恵まれ農業生産の効率をあげなくても必要とする食料を確保できたのだ。



 一方、他の領地では面積辺りの生産量をあげるために、様々な努力をしてきた。

 奴隷として働かせるよりも、土地を貸し与えて小作人として働かせたほうが生産高があがったため、サロモン王国という奴隷解放を目的とする国から敵視されぬよう奴隷自体を減らす要因となった。 


「皆の領地では必要があったから奴隷を使わなくなった。それは俺がどうこう言えるものではない。だが俺の領地では変える必要がなかったから、先祖代々続くやり方を続けてきた。サロモン王国がどれほどのものか知らんが、誇りあるジャムヒドゥンが顔色を伺って領地の体制を変えるほどの相手ではあるまい」


 ヨセフスは強気に、現状を変える意思のないことを主張する。


「だが、サロモン王国からすると、ヨセフスの領地だけ奴隷を利用してるからと他の領地への侵攻しないという選択はしないだろう。四士族でそれぞれ領地経営が違うのはあくまでもジャムヒドゥンの内部事情によるものだ。サロモン王国から見れば関係のない話だからな」


 ガウェインは全士族を巻き添えにすることになるとヨセフスに忠告する。


「何を弱気になってるのだ。サロモン王国が責めてきたら返り討ちにすればいいだけのことではないか?」


「サロモン王国だけ相手にできるならそれも可能かもしれない。だが、現実に神聖皇国との戦争は続いているし、北東方面でもきな臭い動きがあるのだ。戦わずに済む方法があるなら、そちらを選ぶべきではないのか?」


 ガウェインは現状を見ろとヨセフスに再考を促す。


「ヨセフスは、サロモン軍とコルラード軍の戦闘の状況報告を聞きましたか?」


 ルーカンがやや呆れたような口調でヨセフスに問う。


「ああ、詳しくは知らんがコルラード軍は手も足もでずに撤退したというんだろ? だがそれはコルラード軍が弱いからで、我らと同じように考える必要はなかろう」


「それは結果ですよ。注目すべきは戦闘内容です。サロモン軍は飛竜に乗り空中から特殊な武器で攻撃し、コルラード軍の攻撃は一切当たらない状況のまま一方的に叩いたそうです。そのような相手を一蹴できるとでも? 勝てるとしてもかなり苦労しますよ。私は戦いたくありませんね」


 遠距離攻撃を得意とするアザン族のルーカンは、空中を利用した攻撃の恐怖を理解していた。二次元の戦いではなく三次元での戦いなのだ。戦術そのものがこれまでとは違うとルーカンは理解している。


「術師に任せれば良かろう」


「サロモン王国は亜人と魔族の国ですよ? 魔法を活用した攻撃や防御が得意な相手です。神聖皇国の戦闘神官に苦労していることを忘れたのですか? そしてサロモン王国国王ゼギアスは戦闘神官を相手に一人で勝っているのです。我が方の術師がいかに優秀でも術師がいるから勝てるなどと考えるのは危険です」


 ルーカンは身近にサロモン王国の脅威を感じてきただけあって、慎重に分析しているのだろう。サロモン王国とは非戦で対応すべしという姿勢で一貫している。


「ホルサ、お前はどう見る?」


 ガウェインは大人しいホルサに視線を向け、ヨセフスとルーカンの口論がこれ以上熱くならないよう話しを振る。


「私はサロモン王国の軍事面の脅威もさることながら、経済面の脅威にも注意すべきと見ています。巷で人気の商品はサロモン王国製品ばかりになってます。透明度の高いガラス工芸品、これまで見たこともない甘味やお茶、または甘い果実、そして香りの良い石鹸。販売数が多くないためにとても高価な商品ばかりですが、全ての売上をおおよそで計算すると、ジャムヒドゥン年間予算の三倍はあります。つまりそれだけのお金がサロモン王国とその友好国へ流れているのです。更に、神聖皇国や他の小国からもお金が流れてると考えますと、経済力では勝負になりません」


「金を持ってるからどうだというのだ?」


 ヨセフスは経済面に疎いので、ホルサが危惧してる点が判らない。


「お金があるところに人は動きます。人が多いというのはそれだけでも国の力は高くなるのです。もちろん、衣食住に困らせずに受け入れられるという前提がありますが、これまでのところサロモン王国とその友好国で飢えの心配などの噂を聞いたことはありません。少なくとも現状で言えば、サロモン王国は日々国の力を増していると考えていいでしょう。経済面だけで見れば、何としてもサロモン王国と手を組んでジャムヒドゥンにも利益がある状況を作りたいものです」


 ホルサも再度サロモン王国とは争うべきではないと主張する。


「では俺がサロモン王国を破り、奴らの金のなる木を奪ってくれば良いのだな?」


 ヨセフスはあくまでも既存の体制を守りつつ、他の士族が不安視している状況を変える方針である。


「テムル族だけで当たるというのか?」


「ああ、皆には神聖皇国との戦いに集中して貰えればいい」


 ガウェインの質問にきっぱりとヨセフスは答える。 


「賛成できませんね。その結果、私の領地への侵攻を促したらどうするのですか?」


「俺が負けるというのか?」


 怒気を表してヨセフスがルーカンを睨む。


「勝敗は時の運ですから、負けるとは言いませんが、勝つとも言い切れません」


「必勝の信念のないところに勝ちが転がり込んでくるものか」


「信念で勝てるなら兵の数を増やす必要もないし、戦術も必要ありませんね」


 これ以上話しても仕方ないという小馬鹿にした笑いをルーカンは浮かべた。


「その辺でいい加減やめろ」


 再び熱くなってきた口論をガウェインが止める。


「本来、軍事に関係することだけは四士族全員の同意が必要なしきたりだが、今回はヨセフスの思うようにしてみよ。だが、他の士族の協力はない。大言を吐いたのだからテムル族だけで対応せよ。ルーカンは最初の補給だけ助けてやれ。あとはお前の判断に任せる」


 対サロモン王国の方針が決まり、その後、対リエンム神聖皇国との戦争は継続すべしで四士族は一致、対エドシルドは保留ということで四士族会議は終わった。


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