38、ジラールの復興へ(その三)
城門からバルトロの姿が見えた。
とても晴れ晴れとした笑顔を浮かべて、トテトテと歩いてくる。
おもちゃで十分楽しんだ子供そのもの。
「終わったー、デザートスネークはこの辺から居なくなったよー。この近くでまた見つけたらまた遊んであげるーって言ったら居なくなっちゃったー」
いい笑顔でバルトロは俺に報告する。
そうかあ、遊んであげたのかぁ。
楽しそうで何より。
食事も一通り配り終わり、パンを除いた料理も片付いた様子を見て、俺は戻る準備を始めていた。
わざわざ来てくれた仲間達に礼を言って、戻ってくれと伝えた。皆、笑って、何かあったらまた声をかけてくださいと俺に告げ飛竜やグリフォンに乗って帰っていく。バルトロも飛竜に乗りたいというので一緒に帰っていった。
ただし、ヤルミルの残りの仲間達と彼らを連れてきた兵達、それとアンヌだけはもうしばらく残ってもらう。彼らの今後くらいは何とかしてやろうと思ってるのだ。
命はとらずに残したミラムルは置いておいて、他五名を前に
「さて、お前達なんだが……、俺のところに来い」
無言のまま怯える目で俺を見る五名。
ヤルミルとベンの処刑を見た後じゃ怯えるのも仕方ないか。
人間の女の子が二名と人間の男の子が一名、獣人の男の子が二名。
人間の女の子二名は十歳を越えてるようだが、他はまだ幼い。
ヤルミルもこの子達には、自分の仕事を教えていなかったし、手伝わせもしなかったようだ。
「奴隷になることもないし、食べていくことにも苦労はない。俺のところが嫌なら、別のところも紹介するが、まだ幼いお前達には俺のところが一番良いと思う。ああ、そうだな、しばらく暮らしてみろ。それで嫌なら他へ連れて行ってやる」
まだ判断できないか、無理もない。
この子達を連れてきた兵に、とりあえず俺の家までこの子達を連れて行くよう伝える。サラや他の皆なら俺よりうまく接してくれるだろう。笑顔で話していても俺のことは怖いだろうしな。
兵達に連れられて子供達が去った後、ミラムルと話す。
「お前はジラールの復興に協力しろ。住民からは冷たい目で見られるだろうし、嫌な目にもたくさん遭うだろう。だが、それはお前が仕出かしたことへの罰だ。だが、やり直す機会でもある。奴隷としてではなく、一般の使用人として使ってやれと領主には伝えておく」
俯くミラムルを置いて、俺は領主のところへ歩いて行く。
「フベルトさん。あのミラムルをあんたに預ける。奴隷じゃなく、使用人として使ってくれ。ジラールには人手が足りないはずだ。一人でも多いほうがいいだろ?」
「それは構いません。ジラールではもう奴隷は使わないと決めています。ですが……あの……お願いがあるのですが」
何か言いづらそうだ。
しょうがない。
「復興に協力してくれと?」
「……ああ……ええ……はい、生き残った者がそれなりに居るとは言え、子供もおりますし、両親共に亡くした子や片親亡くした子も居るでしょう。子供の面倒を見るために満足に働く時間を作れない者も居るでしょう。それにしばらくは食料の確保も苦しいでしょう。報酬は用意できるでしょうから、是非お願いできないでしょうか?」
うーん、俺はガラス、甘味、紅茶、その次のプランはあるのだが、まだ準備が整っていなくてなあ。近い将来にはどこかの都市と協力して……と考えていたが、まだ時期が早いんだよなあ。
……どうしようか。
ジラールは幾つかの都市の中間地にあり、立地としては申し分ないんだけど。
でも、一万人程度なら、こちらの準備が整うまで食料支援しながら、中継都市としてのジラールの機能を復活させておけば、準備が整い次第プランを開始できるか。
うん、両親を亡くした子供達は我が国で引き取って教育すれば、将来は人材として活用できる。片親を亡くした家とは個別に相談だな。定期的に家に戻すことにして子供だけ預かってもいいか……親が許せばだが。
まあ、その為には領主に次の話を承諾させる必要がある。
「んー、この際はっきり言うべきと思うので、ジラールをサロモン王国の管理下に置かせていただかないと、うちとしてはこれ以上のお手伝いは難しいです。」
俺にしちゃ頑張った。
相手が弱ってるところに、つけ込むようなことはとても嫌だったのだ。
だけど、こちらとしてもそれなりに投資もするわけだし、ジラールの復興が我が国の利益につながってもらえないと困る。
だから、心苦しい気持ちを抑えて言ったのだ。
「私は領主失格だと思っていますし、ゼギアス様の助けがなければ、私達は死んでいたでしょうし、ジラールも滅んでいました。ですから、サロモン王国の管理下に置かれることに不満はありませんよ。貴方はこの地を復興させようとしてるのですよね?」
ジラールは立地がいいからそれなりに抵抗するかと思ったんだが、意外とすんなり。
では……と、俺のジラール復興計画を話すことにする。
現領主のフベルト・ラプシンには、領主代理を務めて貰う。
領主は俺。
まずは、上下水道の設置から始める。
これは全てうちが担当する。
次に、上下水道設備が完成したら今建ってる石造りの家を、一軒づつ改造していく。トイレや風呂は絶対に設置する。
外壁は基本的に現状通りでいいが、内装は変えていく。
窓は、強化版板ガラスを使い。
幾つかの改造内容を伝え終わり、いよいよ産業の話だ。
ジラールをウールと木綿、絹糸生産も含めて、紡績産業都市にしたいと伝える。できれば将来的には紡織も……。その為の準備はサロモン王国でもまだ完全には整っていないが、綿とウールの生産は進めておけるだろう。生き残った方々には当面そちらに従事して貰う。しばらくは食料提供と多少の給金で我慢してもらうが勘弁して欲しい。足りないところはサロモン王国から獣人を派遣する。
もっともやりたい絹生産に必要なカイコと桑だが、カイコは既に確保してある。現在、養蚕業を営んでる農家から買い取ってあるのだ。必要になったらまた買えばいい。
桑はオルダーンの北側の山脈地帯で栽培し、ジラールへ葉を運べばいい。桑なんて野生に自生してるもんだから、まあ、養蚕に適した桑の品種改良はこれから進めていけばいい。
まあ、まだ絹には手を付けられないのだけれど、絹に手を付けられるようになれば、絹は高級品で収益はあがるだろう。
というのも、この大陸には養蚕農家が少ない。
まあ、魚にしろ虫にしろ養殖がほとんど行われていない時代だからかもしれないが、絹の需要はあるから他が養蚕を始める前にやってしまおうと考えている。
当面と近い将来の話をフベルトに話し終わる。
「そんなにうまくいくでしょうか?」
当然の心配だよね。
でも大丈夫なんだ。何故なら、この時代の紡錘は手紡ぎで、俺達は紡績機を用意できるので生産量が違う。単価を抑えて提供できる。脱色も着色も我が国が誇るドワーフさん達が作った化学プラントのおかげで必要な薬剤を用意ができるから楽。
卑怯で結構!
皆が幸せになればそれでいいんだ。
「その辺は、オルダーンやザールートの領主さんと話してみてください。俺は勝算のないことはしないので」
それから、明日以降の交易路の回復と食料提供の話を伝えた。個人的に気にしてるのは、当面フベルトがどこで暮らすのかということ。だって屋敷燃やしたのは俺だしね。
すると、別宅があるのだという。
別宅、と言えばやはり愛人だよね!
そう思ったのだが違った。
フベルトには息子と娘が居るのだが、息子は今回の惨事で犠牲になり、息子用に建てていた家が空いてるのだという。そこに娘と住むから大丈夫で、ミラムルは当面使用人用の家に住まわせるつもりだという。
まあ、大きな声では言えないけど、家は余ってるような状況だしな。
明日以降はサロモン王国から復興担当と連絡係を寄越すからと伝え、フベルトとの話を終えて帰宅することにした。アンヌにも礼を言い、領主さん達にも宜しくと伝え、俺は転移で帰ることにして、飛竜にはのんびり帰ってくれと伝えた。
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