48、蠢く大陸(その二)

 一方、リエンム神聖皇国でも南部同盟の成立は話題になっていた。


 だが、サロモン王国が休戦協定を守り、挑発するような姿勢も見せていないことと、南部同盟はジャムヒドゥンには脅威であろうが、リエンム神聖皇国としてはサロモン王国が休戦協定を守る限り脅威ではないので、急いで対応する必要を感じていなかった。


 それよりも急な奴隷解放を行った後始末がいまだ終わらず、ジャムヒドゥンとの戦争と国内安定に力を注いでいた。


 教皇メルティヌスは、対ジャムヒドゥン戦での助力をケレブレアに何度も願っていた。それは戦闘神官筆頭カリウスの戦線投入であったが、一度も許可を得られずにいた。


 さすがのケレブレアもここ数年週に一度はカリウス戦線投入願いが来るので、カリウス投入は認めないにしても、何かで手助けしてやるべきかと思い始めている。万が一リエンム神聖皇国が崩壊し、人間の壁の役割を果たせなくなるようであればそれは困るからだ。


 もしケレブレアが龍王であるならば、いや、護龍のままであったなら龍を遣わしてジャムヒドゥンとの戦いに投入できただろうが、今のケレブレアははぐれ龍であり龍に命令することはできない。そこで三代前の龍王の怒りに触れ、西の孤島に封じられている一つ目の巨人キュクロプス三名を解放して教皇の願いに応えてやることにした。


 キュクロプスは、飲食できないよう龍王の力で口を塞がれている。生き物ならば何でも襲い食べ、その凶暴さと食欲の旺盛さに龍王の怒りをかったのだ。それはケレブレアでも龍王にならなければ解くことは出来ない。だが、西の孤島から解放することはできるし、自分が龍王に進化した時には解いてやるから、ケレブレアの命令に従えと契約すれば良いだろう。


 キュクロプスは護龍に及ばないものの、龍よりは強力な巨人だ。そして何よりも数百年もの間、飲まず食わずでも死なない生命力がある。


 しかし、ケレブレア自身が外へ出れば、再び護龍達が襲ってくるかもしれない。そこで”相手が襲ってきても避けるだけで決して攻撃したり魔法を使ってはいけない”と指示してカリウスを使者として送ることにした。


 今のカリウスならばキュクロプス相手でも負けることはないが、龍王の目に止まることは避けたい。避けるだけであれば、カリウスの力を龍王に悟られることもない。


 ”ケレブレア様の言いつけは必ず守ります”というカリウスの返事を聞いて満足げな表情でカリウスを送り出す。


・・・・・・

・・・


 西の孤島までカリウスは魔法で転移し、ケレブレアから教えられた島の牢獄まで歩いた。島は灰色の岩だらけで木の一本も生えていない。


 島の中央には丘があり、丘の一部に高さ十メートルほど幅四メートルほどの穴がある。この奥にキュクロプスが閉じ込められている牢がある。


 入り口が広いから意外と中まで日が入っていて真っ暗ではない。少し奥まで進むと目の前に岩でできた扉がそびえ立っている。この扉は物理的な手段では開かない。 カリウスはケレブレアから教えられた護龍や龍王が使う封印を解く魔法を唱える。


 カリウスの額に光の玉が浮き上がり、それがやがて目の前の扉へ吸い込まれていく。光の玉を吸い込んだ扉はやがて光りだし、そしてそこには何も無かったかのようにスウッと消えた。


「我が主ケレブレア様の命に依り、キュクロプスのガークス、ゲルクス、サイクスの三名と契約に来た。私の名はカリウス。ケレブレア様との契約に応じよ」


 カリウスが扉が消えた辺りで奥に叫ぶ。

 奥には格子状の岩があり、その奥に一つ目の巨人キュクロプスが三名座っていた。

 キュクロプスは座っていても五メートルほどあり、立ち上がったら八メートルほどになるのではないかとカリウスはその姿を見て思った。


 (ケレブレアとは何物だ)


 キュクロプスの一人がカリウスを睨みながら思念を伝えてきた。


「ケレブレア様は近い将来龍王になられるお方だ」


 (つまり護龍か)


「いや今は護龍でもない」


 (ふん、まあいい。それで契約とはなんだ?)


 カリウスはケレブレアから伝えられた契約内容を説明した。


 (良いぞ。どうせこのままで居るよりマシだからな)


 ケレブレアから預かってきた契約書を出す。この契約書はケレブレアの血で書かれていて、ケレブレアの魔法によりキュクロプスの血を垂らすことで契約が済み完成するようになっている。


 カリウスはキュクロプスのカリウスの腕ほどもある太い指から血を垂らし、契約書に垂らしていく。契約書にキュクロプスの血が広がり、契約書全体が赤に染まると契約書は光を放ち消えていった。キュクロプス三名との契約が済んだところで、カリウスは再び封印を解除する。


 格子状の岩の柱が消えたことを確認したキュクロプスは、


 (我らはどこへ行けば良いのだ。)


「まず、ケレブレア様の神殿まで同行を願おう」


 カリウスはキュクロプス三名に手を繋がせてから、キュクロプスの一人に触れて転移する。神殿の裏手にある城壁の外にカリウス達が転移すると、そこに人化したままのケレブレアが現れた。カリウスは跪き、キュクロプス達は立ったままケレブレアを見下ろしている。


「よく来た、キュクロプス達よ。我がケレブレアだ。契約に従い、これから命じることをやってほしい」


 ケレブレアは、リエンム神聖皇国軍司令の指示に従うことと、ジャムヒドゥンの軍勢を蹴散らすことをキュクロプスに命じる。ちなみに現在のジャムヒドゥン方面司令は戦闘神官第四位剛流のアイアヌスである。

 ケレブレアはアイアヌスを神殿裏まで呼び出し、キュクロプス達を監督するよう命じた。


 これにより、リエンム神聖皇国とジャムヒドゥンとの戦いのバランスが崩れ、ジャムヒドゥンに危機が訪れることになる。

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