50、フォモール族滅亡(その四)

 五度目の侵攻の際、フォモール族は完全に舐めていた。

 ……人間など食べ放題だと。


 ところが今回は今までと違った。


 鷹人族が乗った飛竜が空からトウガラシ爆弾を落とし、巻き上がったトウガラシガスが巨人達の目と鼻を奪う。目も見えず、鼻も効かない状態で、口から涎を撒き散らしながら手足を振り回すだけのところへ石化魔法でフォモール族は次々と石化させられていく。

 石化された仲間は地上の兵に斧や槌で粉々に壊されていく。


 三万居たフォモール族は何もできず、ライアナへの侵入もできないまま全員石にされて砕かれてしまう。ゴルゴンとコカトリス、そして厳魔は大活躍である。


 全軍指揮は初めてのリアトスであったが、あまりに一方的な戦いになってしまい、アロン同様に”つまらんな”と呟いてる。フォモール族の弱点を突いてると判ってはいてもリアトスには手応えがなさ過ぎるのだ。勝ちが見えた単純な作業に過ぎないから仕方ない。


 サロモン軍はフォモール方面へ徐々に戦線を押し上げていった。

 リアトスは慎重で、これだけ一方的な戦いでも油断はまったくしない。

 サロモン軍の死角からフォモール族が攻めて来ないか常時グリフォンが上空を巡回して警戒した。


 ライアナからは国王の長男ケネスが参軍し戦いを見守っていたが、サロモン軍の一方的な戦いに、ライアナ軍が弱すぎたのか、サロモン軍が強すぎるのかと悩んでいた。いずれにしてもサロモン軍と敵対するのは自殺行為だと感じた。


 ……そして、フォモール族最後の日がやってきた。この日はゼギアスもサラもラウィーアも参軍していた。デュラン族の敵フォモール族の最後を記憶にとどめておくためだ。


 フォモール最後の一人となった族長フェアラーにはゼギアス自身が向かう。

 ヴァンレギオスにあるラウィーアが居た宮殿の前の広場である。

 中央の噴水は壊されていて、周囲には既に人気のない住居が建ち並んでいた。


 フェアラーは倒れた味方を踏み越えてゼギアスの前に棍棒を持って立つ。

 牛頭の口から涎を垂らし、息も荒く目を血走らせている。

 足場を踏みならし、ゼギアスに今にも襲いかかろうとしていた。


 フェアラーを前にしたゼギアスは不敵な笑みを浮かべ、聖属性の龍気を全身に漲らせ、ゼギアスの身体が光り輝いている。


 ナザレスとの、そしてエルザークとの訓練を通じて、ゼギアスの化物度は数年前と比較にならないほどになっていた。余裕があるという表現では生ぬるい……少なくとも敵の前にいるという雰囲気ではないのだ。


 ゼギアスを見守るサロモン軍のメンバーにも、ゼギアスが負けるなどと感じてる表情はなく、どのように勝利するかだけに絞られた興味……それだけが浮かんでいた。


 フェアラーがゼギアスに駆け寄り、振りかぶって打ち下ろされた握った棍棒を平手でバシィッと砕き、棍棒を失い向かってくる拳に拳を当てるとフェアラーの拳がグシャァっと砕け去る。フェアラーの攻撃がそのまま数倍の攻撃となって返され、フェアラーは片手を失う。そのまま両手を潰され、そして両足も折られ、腹から胸にかけてゼギアスの拳を矢継ぎ早に受けると、口から涎と泡を出しながら、グガガ……ウガグガ……ウガと声とは言えない音を出して息を引き取った。


「……お兄ちゃんはもうこの世の者じゃないね」


 戦いの様子を見ていたサラが呆れた声で言うと、ラウィーアは


「さすがはデュラン族の神! 私の愛しの旦那さま!!」


 と手を叩いてはしゃいでいる。


 戦いですらなかった。一方的な虐殺だったのだが、フォモール族が犯した過去から今に至るまでの所業を思えば、ゼギアスもサラも心は痛まなかった。


 フェアラーが倒れ、フォモール族の全滅が確かとなったことを知ったサロモン軍は歓声をあげ、勝利の喜びを叫んだ。


「ラウィーア、これでヴァンレギオスは取り戻した。どうする?」


 フェアラーの血で汚れたゼギアスの身体をタオルで拭くラウィーアに聞く。

 魔法で汚れを落とすこともできるのだが、ラウィーアがゼギアスの勝利を祝うように嬉しそうに拭いてるものだから止められない。


「ここはレーティヒとマドリュアス達に治めさせようかと考えています。望むなら他の仲間にも協力してもらえば」


「ラウィーアは戻らなくていいのかい?」


「私の居るべき場所はゼギアス様、あなたの居る所です。デュラン族の願いをあなたが叶えるところを私は見たいのです」


 ”そうか”とゼギアスは答え、ラウィーアの意見に従い、フォモールの領地も合わせたヴァンレギオスはレーティヒ等に治めさせると決めた。ラウィーアから伝えられたレーティヒは”これからも私達はラウィーア様、ゼギアス様の配下です。必要な時はいつでもお呼びください。”と付け加えて、ヴァンレギオスを引き受けてくれた。


 そして一旦サロモン王国へ移住したヴァンレギオスの住民のおよそ半数が、新しいヴァンレギオスの復興に協力すると申し出る。およそ千名のマドリュアスは木の精霊で基本的に食事の心配はない。空気と水と大地、そして陽の光さえあればいいのだ。そして戻ると決めたのは獣魔系の猿人でその数五百名ほどで、マドリュアスと合わせても千五百名。


 サロモン王国はヴァンレギオスの開発にまで当分人手が回らないから、しばらくはのんびり暮らして貰えればと考えている。フォモールから襲われることは無くなったのだから安心して暮らせるだろうし、必要に応じて徐々に改善していく予定。他の地での仕事が終えれば、ここの開発にも本格的に着手できるだろうしね。


 ゼギアス達は一旦ライアナに戻り、ライアナの今後について話し合うこととなった。


 ライアナに戻ると、国王オレジノを始めとする大勢がサロモン軍を歓迎した。ゼギアスがサラと共に報告しようと国王の前に出ると、


「この度の件で我が国が貴国から受けた助力に深く感謝致します」


 今後はサロモン王国とも友好関係を結びたい。だから奴隷を使役せずに国を運営できる方法を教えていただきたい……などなどと言ってきた。どうやらカンドラからいろいろ聞いたようだ。


 それはいいのだが、ジャムヒドゥンと隣接してるライアナの軍が壊滅してしまった以上、ある程度の軍を整備しなくてはならない。まずはそれをどうするかだ。ただ、新兵から鍛えるとなると最低でも一年や二年はかかる。サロモン王国としても、ここに常駐しておける軍は今は無い。


「当面は、国民皆兵でしのぎます。ジャムヒドゥンもリエンム神聖皇国との戦いで痛手を負ったと聞きますから、当分、我らにまで手は回らないでしょう」


 ほう、何でも他人に縋ろうとしないのは偉いな。

 ライアナの国王はサラからきっつーい一言貰ったようだけど、まともなところがあるね。


 まあ、確かにそれはいいかもな。

 万が一のときは俺が転移して時間稼ぎすればいいか。

 同時にカリネリアからも兵を出せば、ジャムヒドゥンへの敵対意思がないライアナに構っていられなくなるだろう。


 フォモール族滅亡で、とりあえずヴァンレギオスとライアナの安全は確保された。


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