ロード オブ フロンティア ―― 次元最強の転生者
湯煙
第一部 グランダノン大陸編
第一章 序章
1、歩く女難 (その一)
初めて転生する前の俺は、多分ローマ帝国が崩壊した直後の時代で生きていたと思う。
底辺の生活していた俺には当時の社会状況など判らないから、今思うと多分そのくらいの時期だろうと思う程度だが許して欲しい。
当時、乱暴で税がキツイ大地主のところの小作人。
収穫のほとんどは地主に持って行かれて、死なない程度の作物しか手もとに残らない生活を送っていた。
物心ついた時から死ぬまでずっと腹が満たされたことなどなかったし、領主の機嫌が悪ければ鞭で叩かれる日々。
家族も持てず、飢饉でついに死ぬ間際、「殴られず飢えずに生きたかった」と強く思った。
死んでから数十年か百年ほど経って、そこそこの商人の家に俺は生まれ変わった。
転生したのは初めてだったから驚いたし、そのことを話すと皆から憐れむような目を向けられた。自分でも俺はおかしくなったのかと心配になったこともあったんだ。
でも前世のことを事細かく覚えてるし、地名などを確認できる範囲で調べると
自分では前世はあったと確信した。だけど、奇異な目で見られるのも嫌だから、前世のことは誰にも話さないようになったよ。
転生後の人生は、食べるには苦労しなかったが、身分の高い奴らにはいつもペコペコと頭を下げ、村では金の亡者のように蔑まれた。死ぬ間際に、「また生まれ変わることができたなら、餓えることなく、堂々と生きられ、他人から蔑まれないよう生きたい」と願ったのさ。
その後、俺は何度も転生を繰り返した。
数年も経ずに転生することもあれば、数十年後に転生することもあった。
傭兵や貴族、政治家や学者に神父、砂漠の国で王族の一人になったこともあったな。
神の気まぐれか遊びかは判らないけど、死ぬ間際に願ったことがほぼ叶えられて転生する。転生を繰り返して判ったことは、必ず男に生まれ変わることと過去に戻って転生することはないということ。
また、転生して生まれた時から前世の記憶があるわけじゃない。
十歳から十五歳くらいまでの間に、前世の記憶が次々と毎日夢に出てくるようになる。過去に転生した人生全てを夢に見る。
楽しかった記憶だけでなく、死に面した際の痛みや苦しみや感情も思い出す。
夢だから痛みや苦しみをそのまま感じることはないけれど、痛かったと辛かったという感情はしっかりと感じる。
これはまったく慣れない。
何度経験しても辛い。
辛いけれども、回数をこなしたおかげか、死に際して感じる苦痛に多少は慣れたかもしれない。
でも経験したくないけどな。
いろんな立場で転生したけれど、立場ごとに嫌なことがあり辛いことがあった。
そりゃあ、飢えて毎日腹を空かせていた生活より、王族の生活のほうが良かったさ。けれど、跡継ぎ争いでいつ殺されるか心配し、食事にすら恐れる生活がいいかと言われればやはり嫌だったさ。
もう何度目の転生になるかいちいち数えてはいないけれど、そこそこの生活が送れればいい人生なんじゃないかと今は思ってる。同じ経験してる人が他にも居て、その人は違う感想を持ってるかもしれないけど、俺はきっと凡人気質なんだろう。
金は、慎ましく生活が送れる程度あればいいし、権力は要らない。そこそこ仲のいい友達や家族が居て、愛する恋人か妻がいて、可もなく不可もない程度の子供が居て、仕事があって飢える心配せずに生きられればそれで幸せだなと。これでも欲張りなのかもしれないんだけど、そう思うよ。
俺は今、二十一世紀の日本のかろうじて市レベルの人口を維持してる地方都市で事務系の公務員をやっている。
年齢三十歳、妻有り、子供なし。
両親あり、兄弟なし。
公務員だろうと嫌なことも辛いこともあるが、数々の転生でいろいろと経験した俺にとっては些細な事と受け入れられる。真面目に仕事してさえいれば命の危機に直面することなどないからだ。
家に帰れば、奥さんが食事を用意して待っていてくれる。
食後に夫婦でネトゲで遊び、就寝前には孫の顔が早く見たいという両親のために子作りに励む。
奥さんは特別美人とは言えないし、とても優しいとも言えない。
ズボラなところもあって家事もそこそこ。
けど、奥さんの寝顔を見て、その温もりを横に感じて寝るのはとっても好きだ。
寒くもなく寂しくもないし、生活をともに作ってくれる相手が居ることにささやかながらも幸せを感じる。何度生まれ変わっても、寂しいのはとにかく嫌だ。
更に、大きな声では言えないけれど意外と女好きということも自覚している。
でも浮気はしない。
そこまで甲斐性はない。
結婚して四年経つが、毎日家事に勤しみ、両親も大事にしてくれ、いつも横に居てくれる奥さんがとても大切だ。いずれ生まれるだろう子どももきっと可愛いだろう。
そんな平凡な生活に満足しながら生活していたある日、マンションが火事になり、家族を逃す際に負った火傷が元で亡くなってしまう。
――――死に際して、あることを願いながら。
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