19、幾つかの課題 (その一)

 ――厳魔にアマソナスにゴルゴン、エルフや獣人などの亜人、その上人間も加わった勢力があり、デーモンの侵攻を食い止めた。その勢力は新たに加わった種族を奴隷にするわけでもなく、仲間として対等に扱っている。


 この噂がグランダノン大陸南部に住む魔族や亜人達に流れたらしい。


 厳魔やアマソナス、あとゴルゴンと付き合いがある種族には、協力関係を結びたいとこちらから打診した。

 だけどその他の種族には声をかけていないのに、冬の間、俺のところには多くの種族から仲間入りの申込みがあったんだ。


 巨人族や人魚族、ハーピィやガーゴイル、ラミア族や小人族には、厳魔のリーダーのラルダやアマソナスのリエッサ、ゴルゴンのスィール達から誘ってもらった。既にデーモンの影響下にあったガーゴイルを除き、他の種族とはすんなり協力関係を結ぶこととなり、中にはうちの勢力圏内への移住を希望する種族もあった。


 噂、恐るべし。

 間違っていない噂で良かったよ。


 更に、うちとの接点が無い知的魔物が、冬の間に俺のところへやってきた。


 ユニコーン、グリフォン、コカトリス……厳魔族の獣魔という種に属する魔物がやってきた。ユニコーンを見ては喜び、ケルベロスを見ては俺はビビっていた。


 多くの種族が俺達の仲間になってくれることはとても嬉しかったさ。

 だが、住居が足りない。獣魔は雪風をしのげれば良いので楽なのだが、その他の仲間用の住処の用意にうちの工事が追いつかない。総勢で移住希望してきた種族が意外と多かったのだ。


 工事関係を任せていたラニエロは毎日泣きそうになっている。

 シャピロ達や工事に就いてるエルフ達は死んだ魚のような目で毎日働いている。


 これは可哀想だ。

 可哀想だと心から思っている。


 だが神殿の森は上下水道をしっかりと敷いてからでなければ建築物は建てない。最初に工事しておかないと後がもっと大変になる。


 何故上下水道の整備に拘るかというと、入浴習慣を含めて衛生面を考慮した生活習慣が亜人にも魔族にも無いから。


 汚れが酷くなったら水浴びすればいい程度しか考えてない。

 排泄物も住居から少し離れた場所で処理すればいいとしか考えていない。


 まあ、地球の歴史を思い出しても、下水道が大都市に配備されたのは産業革命前後で十八世紀だから、中世以前の文明程度のこの世界の住人に求めるのは酷だとは思う。


 だが、俺は嫌だ。

 一見綺麗に整備された街を歩くと排泄物の匂いで臭いなんてのは耐えられない。

 見た目綺麗なアマソナスやゴルゴンが近づくと臭うというのも嫌だ。


 ということで、様々な設備が整備されるまでは住居建築は許可しない。


 まあ、俺が許可しなくても、ヴァイスやシモーナが許可しないからなあ。

 衛生管理を疫病対策として理解しているヴァイスとシモーナは、俺以上に厳しい。


 だから移住希望種族には申し訳ないが、諸々の工事が済むまでは待ってもらっている。

 ラニエロとシャピロ達が泣いても、俺には見えない。

 ほんっとーに可哀想だと思うけど見えないんだ。


 俺達の国に大勢が参加してくれそうで、ある意味で嬉しい悩みではあるんだけどね。


◇◇◇◇◇◇


 冬前に完成した幾つかの集合住宅には、リエンム神聖皇国側の山や平地に散らばっていた里に住んでいた人達を招いた。神殿の森地域の開発を手伝って貰ってきたし、春からは農業や工事で活躍してもらうためという理由もあるが、もっと切実な理由は、俺達が守るべき場所が散らばっているという点。戦力を分散させるのは好ましくないからだ。


 今後は増えるにしても、うちの戦力は現時点でまだまだ少ない。


 相手より少ない戦力で戦える力は、うちの仲間たちには十分あると自負しているが、それでも当面の敵リエンム神聖皇国が本気で戦力を投入してきたら被害は大きくなる。


 リエンム神聖皇国と付き合いを続けていきたいと考える里の者も居た。例えば、娼婦の中には仕事が成り立たないのではないかと心配する者も居た。まあ、それは当然の心配で、子作りのため頻繁に情事を求めるアマソナスやゴルゴンが大勢居るんだ。

 そして娼婦達には都合が悪いことに、アマソナスもゴルゴンも美形でスタイルが良い者が多い。俺はアマソナスのような女性はタイプじゃないが、女性に組み敷かれてみたいという趣味の男も中にはそれなりに居るので、しっかりと需要がある。


 ゴルゴンに至っては、結婚という習慣は子作りに必要な男を独占するための習慣と受取り、既に結婚した者も数人居る。まあ、相手の男も喜んでるようだからそれはいいよ。


 ゴルゴンには美人でスタイルも良い方多いしね。少し爬虫類の腹に似た白い肌がいいという男もいるみたいだし、種馬状態でも構わないというなら俺から言うことは何もない。


 ただ、結婚したゴルゴン家庭では、ゴルゴンが寝ぼけてつい旦那を石化してしまい、石化解除できる者が早朝呼び出されるなんてことも頻繁に起きている。でも、命には別状ないのと、相手が石化されたことを覚えてないので笑い話になっているのだが。ゴルゴンの家庭は、そのうち旦那でできた石像でも並べておけばいいよ。


 つまり娼婦の需要が極端に少ないのだ。彼女達が心配するのも無理はない。


 別の職に就ける者には大きな問題ではないだろうが、そうでない者には大変に困った問題だろう。ちなみに、ゴルゴンと同じタイプのラミア族も移住希望してるので、娼婦の需要不足が解消される見込みは今後も少ない。人間は違うかもしれないが、亜人は相手の下半身が蛇だろうと気にしない者も少なくないのだ。


 状況が状況なので、娼婦を廃業することを勧めた。里に残ると危険だということも十分説明した。仕事はいくらでもあるから、生活には困らないし、もし困ったことがあれば相談に乗るからと説得し、彼女達も最後は移住に納得してくれた。 


 あと鍛冶師。


 ドワーフの鍛冶師数人がうちに定住希望して俺は歓迎したのだが、それが里の鍛冶師には問題だった。腕が、技術が違ったのだ。品物の質も良い上に仕事がとにかく早い。こんな同業者が居ては商売上がったりと考えるのも無理はない。


 だが、そんな心配はまったく要らないと説明した。

 ドワーフに師事して腕を磨けと俺は言った。


 ドワーフの鍛冶師には、当分の間、一般の客向けの仕事などできる時間はない。

 サラが作った各種設備をドワーフが自力で作れるよう依頼しているからだ。

 今は排泄物の処理施設と配管作りに忙しいはずだ。


 俺が地球から持ってきた知識をもとに設計図を書き、機能などを伝えると、夜も眠らぬ勢いで研究し製作し続ける。もちろん技術についても、地球から持ってきて伝えてある。最初はできないのだが、あれだね、ドワーフってモノ作りに注ぐ熱意も凄いし、製造技術を習得する才能に溢れてるね。


 ”ワシには鉄の声が聞える……”と言い出しても俺は信じられるよ。

 二年か三年後にはステンレス作れそう。


 化学薬品の知識もすぐ覚える。

 俺より全然優秀。

 この分だとサラにお願いすることなく、化学薬品プラント作れる日も遠くないね。


 ちなみに刀工の呼ばれし者もうちに来ている。

 部族長からバーラムという名を貰っていた。

 現在、俺の大太刀と小太刀を作って貰っている。

 彼は、刀の需要があれば作るが無ければ他のドワーフと同様の仕事をしたいと言ってくれたので、俺の仕事が終わったらプラント作りに精を出してくれるだろう。


 だから、鍛冶師に頼みたい仕事は十分ある。

 あとはドワーフの仕事に近づいてくれればいい。

 高いスキルが必要な日用品など、そんな多くないからさ。


 ドワーフは高いスキルが必要なモノを、そうでないモノは里から来た鍛冶師達に作って貰えればいいと説明して安心して貰った。


 お年寄りの中には、自分が行っても出来ることがないと言う者もいた。

 だが、街の掃除や外来者の案内など、軽作業があるからお願いできたら嬉しいと伝えると、納得して来てくれた。


 病人にも治癒魔法で治る者と難しい者が居た。

 治癒魔法で治る病人には無料で治すから来てくれと伝え、治癒魔法では治癒の難しい病人にも大丈夫だから来てくれと伝えた。

 ほぼ全員治癒魔法で治癒可能な病だったし、残った数人もサラが聖属性龍気を付加した治癒魔法で治した。生き神様のように崇められたサラが困ってる様子が少し可笑しかった。 


 子供達はブリジッタの学校で学ばせることにして、各地に散らばっていた里を神殿の森にまとめることができた。これで春先から必要となる労働力も見通しがたった。


 あとは新たに加わる魔族の仲間からも労働力は期待出来るから心配はないだろう。

 今回、独身男性が増えて目を輝かせ大喜びした千人以上がいたことは言うまでもない。うちには肉食獣のような女性が大勢いるのだ。

 体が保つならハーレムでも何でも作るがいいと、独身男性に幸あれかしと祈ったのは内緒である。


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