25、幕間 サラの旅行(出会い編:セイランとリエラ その二)
二人がもうじきザールートの街に入るという辺りで、一人の女性が苦しそうに道端にしゃがみこんでいるのを見つけた。
「どうかしましたか? どこかに怪我でも?」
サラはその女性に身を寄せ言葉をかけた。
だが、サラの顔を見ながら話す女性の言葉はサラもライラも判らなかった。
サラは思念回析魔法を使える。
それは当然の話しで、何せ思念回析魔法を指輪に定着させていたのは最初サラなのだから。思念回析魔法を自分とその女性に使い、サラは再び女性に声をかける。
「大丈夫ですか? 怪我でもしましたか?」
その女性は大きく目を見開き慌てた様子で
「貴女の言葉が判る。私の言葉も判りますか?」
サラはその反応で”この方は多分呼ばれし者”と察した。
「ええ、貴女の言葉は判るわ。でも、今は魔法で一時的に会話出来るようにしているだけ。もし貴女が動けるのなら、私の宿まで行きましょう」
宿に置いたサラの荷物の中に思念回析の指輪が入ってる。
それを渡せば……。
「怪我はしてないのですが、二日間何も食べずにここまで歩いて来たので……」
どうやら空腹で辛くて動けないだけらしい。
それならばと、サラは女性に回復魔法をかけた。
これで空腹でも一時的には元気になる。
宿まで戻ったら、そこで何か食事をとることもできる。
「どう? 動けそう?」
サラは女性に動けるか確認する。
女性は急に元気になり、そんな自分に驚いていたが、サラに頷き”大丈夫です”と返事した。
女性の返事を聞いて、サラはライラの手とその女性の手を掴み、宿の前まで転移した。サラ達の部屋まで転移することもできたが、やはり宿の受付けを通らずに部屋に入るのはやめたほうがいいかなと考えた。
宿に入り、受付に事情を話してからサラ達は部屋へ向かった。
部屋に入ると、サラは自分の荷物から一つの指輪を取り出して女性に渡し、身につけるよう話した。
「これで、魔法が解けても誰とでも会話できるわよ」
女性が指輪を身に着けたと同時にサラは伝えた。
「先にお食事すませましょうか?」
空腹な女性にかけた回復魔法の効果が切れる前に食事をというライラの言葉にサラは頷く。
「そうね。その後、この方をお風呂に入れて、それから……服も用意しなければならないわ。この方の服はかなり汚れてるもの。このままでは可哀想ね。でも今は先に食事ね」
女性を連れて宿を出た。そしてサラ達は宿のそばにあるレストランに入った。
レストランに入るとき、女性がかなり汚れていて多少臭っていたので店員に嫌な顔をされた。だからお店の迷惑にはなってはいけないと、とりあえず店外でも食べられるものを注文し、それを持って砂浜へ降りた。ライラは服を買ってきますと、店が閉まってしまう前にいかなきゃと急いで走っていく。
サラはライラが戻るまで食事を待つことにしたが、女性には先に食べるよう促した。
女性はすみませんと頭を下げ、手にしたパンをほうばっている。
サラは女性を見ないように海を見て彼女が食べ終わるのを待っていた。
空腹で食べ方も気にできない状態を他人に見られるのは嫌だろうと思ったのだ。
女性は食べ終わると
「ありがとうございました。会話ができるようにしていただいただけでなく、食事まで……。ありがとうございます」
何度もお礼を言うその女性を見て、ゼギアスが呼ばれし者を助けるのもサロモン王国の役割だと言った気持ちが何となく判る気がした。ヴァイスハイトやバーラムの時のように身近な者が、この世界の者達と会話できない呼ばれし者を助けてくれるとは限らない。
不安で、怖くて、寂しくて……きっと辛かっただろうな。
サラはこの女性に会えて良かったと思った。
私達ならこの人を助けてあげられると喜んだ。
やがてライラが服と靴を買ってきたので、ひとまずサラ達も食事を済ませることにした。
夕日も沈み、かなり暗くなってきた砂浜。
三名の女性が食事をとりながら会話している。
と言っても、その女性の話をサラとライラが聞くだけのようなものだったが。
「これからどうするつもりなの?」
ライラがその女性に真剣な表情で聞く。
この女性の意思を尊重する必要がある。
もちろんサロモンへ来ることを勧めるが、最後は彼女の意思だ。
「どうしたらいいのか判りません。この世界は私が知ってる世界とはまったく違います。見たこともない人型の生き物や、誰かと話すことも今日までできず、どうやって生きれば良いのか……」
「私達と一緒に来る?」
「でも、今日会ったばかりの貴女達にはご迷惑なんじゃ……」
「そんなこと気にしないで? 私だって、貴女の隣に居るサラちゃんにたくさんお世話になった。だから今度は私が誰かを……貴女を助けたいの。」
ここはライラに任せて自分は口を挟まずに見ていようとサラは思った。
中身は違っても、苦労して自分が生きる場所を探したライラのほうがきっと言葉に説得力があると感じた。
「私達は明日、家に戻るわ。一緒に行きましょう? そこでなら貴女にもきっと居場所が見つかるわ。私も一緒に探す。できることは何でも手伝うわ。ね?」
サラ達に甘えたい気持ちと迷惑をかけたくない気持ち、この女性には両方ある。
それは彼女の表情など見なくても、置かれた状況を考えれば明らかだ。
彼女にはサラ達に甘えこの世界で生きる方策を探すことと、譲ってもらった指輪で可能となった会話を支えに自力で生きる方策を探すこと、この二つしかない。
会話は可能になったといえ、彼女にはこの世界の知識が無い。地球のどの時代からこちらの世界へ呼ばれたのかは判らないが、こちらの世界に馴染むための期間は必ず必要になるだろう。それを右も左も判らないまま誰かのサポートも借りずにすることは理屈の上では不可能ではない。
だが、現実的にはどうだろう。
現状、奴隷の供給は激減している。
それはサロモン王国が減らしたのだ。
そして奴隷を必要としてるところはたくさんある。
そう、余程運がよくなければ、彼女は奴隷にされる。
ライラと彼女の会話を見ていて、サラは多少強引でもサロモン王国へ連れていくしかないと今は考えてる。
「とりあえず、しばらくの間ライラと一緒に生活してこの世界のこと覚えたらどうかしら? その後どうするかは貴女が決めればいい。私達と一緒にと考えるなら、私達はできるだけ貴女の手助けをする。別れてと考えたなら、その後のことを一緒に考える。これでどう?」
彼女はサラとライラの顔を見た後コクンと頷いた。
とにかくゼギアスに会わせ話をしてもらわないと、彼女が元どういう生活していたのかなど判らない。元の生活が判れば、こちらとの違いも説明しやすいし、彼女も理解しやすいだろう。
この世界には、彼女のような”環境に恵まれない呼ばれし者”がまだ他にも居るのかもしれない。今までよりも、呼ばれし者の情報を集める必要があるかもしれないとサラは思う。
「ねえ、ライラ? これからも度々いろんなところへ旅行しようと思うんだけど、その時は一緒に来てくれる?」
今回、面倒なことを起こした責任は自分には無い。
でも話が大きくなった責任はある。
サラと一緒だと今回のようなことが起きる可能性は高くなる。
ライラは迷惑じゃないかしら? とサラは不安だった。
「もちろんよ。サラちゃん、貴女は知らないのかしら、私がどんなに貴女を尊敬していて、何よりとっても大好きだってこと。貴女が迷惑じゃないならどこだって一緒に行くわよ」
「私も貴女が大好きよ。でも、そのうちセイランさんに取られちゃうかもしれないのよね~、フフフフフ。その時は祝福するけどね」
何を言ってるのよとライラは顔を赤くしてる。
ライラは可愛いなあとサラは微笑ましく思う。
さて、彼女の部屋を取らなきゃいけないんだけど、部屋は空いてるかしら。
オルダーンへ向かう人で宿がいっぱいになってる気がする。
もし部屋が取れないようだったら、オルダーンまでグリフォンで飛べばいいわね。
彼女をアンヌに預けて、戻ってからでも十分睡眠時間はあるもの・・・・・・だったら今から行けばいいじゃない。
「ライラ、その人をアンヌさんのところまで先に送ろうと思うの。宿で部屋を取れないかもしれないし」
「ええ、それがいいわ。アンヌさんならこの人のことを安心して任せられるもの」
アンヌに思念を送ると、部屋は用意するし、明日サラが来るまでは女性の部下に世話させますというので、早速グリフォンでオルダーンへ向かうことにした。
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