第205話 二つのお届け物
スローディッシュ領は大きく変わろうとしている。
それは、始まった工事を見てもわかる。
木材の確保の時のようにこき使われるのかと思ったけれどそんなことはなかった。
代わりに妊娠中のエイラ母さんが仕事に駆り出されている。
できれば、妊娠五カ月の安定期までは家で大人しくしていてほしいと思っていたロジェ父さんだけど、村の中だし、全く動かないというのも体に悪いと言って手伝っている。
もしかしたら、僕がエイラ母さんの仕事している姿を見たことがないと遠まわしに言ったことを気にしたのかもしれない。
それと、王都から来て魔石の発掘調査をしていた一団から、正式に魔石の鉱脈が眠っているとの報せも届いた。
既に仮設住宅の建築が終わり、発掘も開始している。
とても慌ただしいが、それだけ魔石は貴重なのだ。
鉱山夫が住む家より、坑道が先にできるとは思わなかった。
さらに、魔石の周囲に良質な鉄鉱石も埋まっており、それらの採掘も同時に行われるらしい。
スローライフとは縁遠い慌ただしい日々が過ぎていく。
そんなある日のこと。
僕に思わぬ朗報が飛び込んだ。
「セージ、荷物が二つ届いているよ」
「荷物が二つも? それも僕に?」
ロジェ父さんが僕の部屋に来て荷物が届いたと教えてくれた。
居間に向かうと、ちょうど荷物が運び込まれていた。
届いたのは大きな箱と小さな箱、そしてそれぞれに付随して二通の手紙。
小さいといっても、引っ越しの時に使う小さいサイズの段ボール箱くらいの大きさはある。
大きい箱は、幅と奥行きと高さが全部倍になってる感じで、中もかなり重そうだ。
これが童話の中だったら、小さな箱を開けたら金銀財宝が、大きな箱を開けたら化け物が出てくる流れだろうけれど。
とりあえず、手紙を確認する。
大きな箱と一緒に来た手紙には、どこかで見覚えがある家紋が。
メディス伯爵家の家紋だ!
手紙にはミントの名前も書いてある。
さっそく手紙を読もうかと思ったが、ロジェ父さんが、先にもう一通の封書を開けて中を検めるようにと言う。
その原因は直ぐにわかった。
手紙に押してあったのは、王家の家紋のついた封蝋だったのだ。
つまり、王家からの手紙だ。
「ロジェ父さん、中を見てないの?」
「セージ宛ての手紙だからね。いくら当主で父親でも勝手に中は見れないよ。そのための封蝋なんだし」
「そうなんだ」
僕はペーパーナイフで開封し、中を見る。
それを見て、僕は思わず小さな箱を凝視してしまった。
「セージ、なんて書いてあるんだい?」
「国王陛下にお願いしていた味噌と醤油が見つかったんだ」
僕は小さな箱を開けると、中に黒い液体の入った瓶が十本、そして中が見えなくなっている壺が三つ入っていた。
まずは見える醤油から確認する。
ここに来て、実は魚醤でした――なんてオチは勘弁願いたい。
醤油のコルクを抜いて香りをかぐ。
おぉ、まさに醤油の香りだ。
そしてコルクについた醤油部分を指で拭って舐める。
「うん、本当に醤油だ!」
瓶は一升瓶の半分くらいの大きさなので、醤油約五升か。
さらに壺の中に入っていたのも味噌で間違いなかった。
市販の味噌に比べてかなり癖が強そうだが、しかしそれがいい。
「珍しい調味料なのによく見つかったね。さすがは国王陛下だ」
「貴族のミッドラン伯爵が極東の国から取り寄せたものを、王様が譲り受けたらしいんだ」
「あぁ、確かにミッドラン伯爵なら持っていても不思議ではないね」
「ロジェ父さん、ミッドラン伯爵を知ってるの?」
「もちろんだよ。マッシュ子爵領の領主町ドルンが芸術の都とするのなら、ミッドラン伯爵領の領主町は美食の都と言われるくらいだからね。その中でもミッドラン伯爵は貴族随一の美食家として有名なんだよ。この世で食べたことのないものはないなんて言われている程にね」
美食家貴族か。
きっと珍しい食べ物とか集めてるんだろうな。
一度行ってみたいけれど、ミッドラン伯爵領は国の南東部に位置するらしく、王都よりさらに遠い。往復だけでも一カ月くらいかかるだろう。
そこまでして行きたいかと問われたら、やっぱり家でのんびりしていたい。
味噌と醤油が手に入っただけで十分だ。
「ミントからの手紙を読んでもいい?」
「ああ、いいよ。陛下からの手紙は僕が預かるね」
ロジェ父さんに陛下からの手紙を渡し、ミントからの手紙を開封する。
ミントからの手紙が届くのはこれで二度目だ。
王都での近況や、僕に会えなくて寂しいなど書かれている。
バズのことも書かれていた。スカイスライムを届けてもらったので、早速遊んでみたそうだ。
その感想とお礼も書いてあった。
『追伸:セージ様から案のいただいた魔道具が完成しましたので、お送りします。詳しい使い方は魔道具と同封している説明書をお読みください』
「僕が依頼した魔道具っ!?」
中を確認する。
金属の箱が入っていた。
なんだろ? 回転棒が既にあるから洗濯機かな? いや、それにしては少し小さいか。
冷蔵庫か冷凍庫、もしかしたら電子レンジ……はまだ無理かな。
見ただけではこれの使い道がわからないので、説明書と魔石に込められている術式を確認する。
それを見て、僕は自分の目を疑った。
「……いきなり、これを作ったのか。ミント、天才じゃないか」
僕はそう呟き、改めて完成した魔道具を確認する。
「セージ、何が書いてあったんだい?」
「ミントが3Dプリンターを完成させたんだ」
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