第277話 アウラのためにできること

 屋敷でいつも通りの朝食を取る。

 今日はフレンチトーストだ。

 この町で焼いているパンには小麦粉だけでなく、蕎麦粉が多めに含まれているため、風味が普通のパンと違うが、これはこれでいい風味が出ている。

 ティオの料理の腕もますます磨きがかかっている。

 まだタイタンには敵わないところはあるが、それでも王都で通用するんじゃないだろうか?

 でも、ティオが働いていた店で食べた料理はもっと綺麗だったっけ? 整っている味がした。きっと、あれが王都で好まれる味なんだろう。

 僕はティオの素朴な料理の味も好きなんだけどな。


「セージ様、どうなさったのですか?」

「どうせ料理のことを考えてるんでしょ」

「うん、そうだけど、なんでわかったの、ラナ姉さん」


 ミントの質問にラナ姉さんが答えを出す。

 ラナ姉さんは「あんたの姉を何年やってると思ってるのよ。そのくらいわかるわ」とどこか自慢げに答えた。

 だが――


「セージ様、無理して料理のことを考えていませんか?」


 ミントが心配そうに尋ねる。

 確かに、僕は敢えて感情を表情に出さないように料理のことを考えていた。

 まさか、そっちを見抜かれるとは。


「本当なのかい? セージ」

「うん。ちょっとアウラのことでね」

「アウラって、あのアルラウネよね? 結構強かったし、一度手合わせしてみたいわ」


 ロジェ父さんに尋ねられて答えると、ラナ姉さんがとんでもないことを言う。

 あまりラナ姉さんにはアウラを会わせないようにしないといけないな。

 ラナ姉さんを注意しつつ、エイラ母さんが僕に尋ねる。


「ラナ、余計なこと言わないの。最初はアルラウネって言われて心配したけどいい子よね。あの子がどうしたの?」

「僕と契約したことで、他のアルラウネと仲違いしたみたいなんだ」

「それは聞いたことがあるわね。人にテイムされた魔物はもう野生に戻れないとか、人間の匂いをさせる魔物は、たとえ自分の子供であっても敵愾心を見せるとか」


 それを聞いた途端、ラナ姉さんが顔色を変えて、コパンダを呼び出す。


「ラインハルト! あんた、送還されたあと大丈夫なの!? 他の魔物にいじめられたりしてない!?」

「メー? メーメー」

「そう、それならいいわ。でも、何かあったら私に言うのよ」


 どうやらラインハルトは大丈夫らしい。

 ロジェ父さんが言うには、「コパンダ」という種族は全体的に人に懐きやすい魔物だから、人と接したり従魔になっても仲間外れになったりしないらしい。

 種族的な問題もあるのだろう。

 一般的なアルラウネは毒で人間を動けなくして養分にするって言ってたし。


「野生に戻れないって、じゃあ、今は大丈夫なのですか?」

「うん、ミント、大丈夫みたい。彼女が送還される先には優しい魔物がいて、僕と契約したことも理解した上で優しく接してくれているみたい」

「それならよかったです」

「うん、アウラもそう言って表面上は平気そうな顔をするんだけど、でもやっぱり落ち込んでるみたいで――ってごめんね。こんな話、ミントにして」


 婚約者に対して、別の女友達のことが心配って言うのはよくないことな気がする。

 しかし、ミントは首を振って言った。


「いいえ、話してくれて嬉しいです。そうですね、ではアウラさんをこの町に招待してみるのはどうでしょうか? とても愛らしい方ですから、コパンダさんみたいに町の人気者になると思いますよ」

「そうだね。いきなり町の人全員というのは行き過ぎかもしれないけれど、まずはここで歓迎会をしてみるのはどうだい?」

「それがいいわね。セージ、アウラちゃんはどんな食べ物が好きなのかしら?」

「ええと、魔法で作った水が一番好きだって言ってたけど、甘いものが好きだね。お肉も食べるけど、野菜や果物の方が好きだね」

「わかったわ。じゃあ、ティオに作らせましょ。料理に使う水は私が魔法で作るわ」

「え? 水なら僕が出すよ?」


 エイラ母さんが自分で水を出すというのはおかしなことだと思った。

 それに、料理だってアウラの好みを知っている僕が手伝った方がアウラも喜ぶと思うけれど。


「セージはアウラちゃんと契約してるのでしょ? セージがアウラちゃんのために作る水や料理は対価として当然渡すべきものよ。歓迎の意思を示すなら、セージが関わらない方がいいわ」


 僕が料理を用意すれば当然のこと。

 ティオとエイラ母さんが用意するからこそ価値があるのか。


「じゃあ、僕は何もしなくてもいいの?」

「いいえ、セージはアウラちゃんのために装飾品を用意しなさい。スカーフでも指輪でもなんでもいいわ。そういうものは、特別な感謝の気持ちになるの」


 そういうものなのか。

 既にアウラには髪飾りをプレゼントしているんだけど、もう七年前のことだし、新しく何かプレゼントしてもいいよね。


「じゃあ、ミント。一緒に選ぶの手伝ってくれる?」

「ええ、勿論です」

「いいわね! 私も行くわ! ラインハルトに何かプレゼントしてあげないとね」


 本当にラナ姉さんは、コパンダには優しいよね。

 さて、何をプレゼントしようかな?

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