第274話 アウラと
修行空間で僕は新たな問題に直面していた。
十二歳になり身体も成長した。
レベルもそこそこ上がり、強くなってきた。
そろそろ七階層に行ってもいいのではないか? という問題だ。
六年以上新しい階層に行かなかった。
それにはレベルがなかなか上がらなかったことと、神からの罰により修行空間で経験値が入手できなかったことに加え、一つ、大きな理由がある。
七階層にはある魔物がいるというのだ。
「ゼロ、前に教えてくれたよね? 七階層に出る魔物について」
「はい、申しました」
「そうだよね……だからこの準備なわけなんだし」
防毒スキルも異世界通販本で3万ポイントで入手した。
ただし、この防毒は完全耐性というわけではなく、効きにくくなるというだけ。
完全防毒スキルが300万ポイントも必要なので、今回は劣化版のスキルで我慢した。
一応、花粉毒の解毒魔法も構築魔法から覚えていつでも使える準備はできている。
さらに、異世界通販本で防毒マスクーー2980ポイントを購入。
ガスマスクとか防毒マスクって、なんとなく軍用で高級品のイメージがあったんだけど、思ったよりお手頃価格のものがあった。
ゼロが言うには、軍用ではなくたとえば工事現場や建築現場など身近な所でも使われているらしい。毒というより、アスベストなどを防ぐ防塵としての役割の方が強いそうだ。
そういう風に日常でも使われるから安いのか。
日本のことについて僕よりゼロの方が詳しいんだよね
ただ、このマスク目が隠れていない。
花粉症の人は目がかゆくなるっていうから、目もガードできるようにゴーグルを598ポイントで購入。
これで完全装備。
「思ったより喋りやすいんだよね。もっとシュコーシュコー言うかと思った」
イメージは、星の戦争の映画に出てくる黒い仮面のボスだ。
この装備でわかるように、七階層には毒の花粉を出してくる魔物がいる。
その名前はアルラウネ――そう、アウラと同じ種族の魔物がいるのだ。
野生のアルラウネは危険な毒の花粉を飛ばして襲ってくる。
「でも、大丈夫かな。アウラって強いよね? 一対一で、離れていたら僕でも勝てると思うけど、アウラが二人いて挟まれたりしたら絶対に勝てない」
「アウラは個体として特別ですから。花粉に毒もありません。恐らく、彼女は特別なのでしょう。今のセージ様が注意するべきは花粉による毒ですが、その対処もできています」
「……うん、五年間聞いてきたんだけど……」
僕は防毒マスクを一度外してため息をつく。
覚悟を決めてきた。
アルラウネのいる階層で戦うこと。
それには二つの覚悟がいる。
一つ目はアルラウネと戦うことについて。
アウラを見ればわかるが、アルラウネの見た目は人間と変わりない。
そんな相手に襲われて、果たして僕は戦うことができるのか?
いや、それより殺すことができるのか?
無理と判断したら、真っ先に出口を見つけ、七階層でのレベル上げは諦める。
そして、二つ目は、アウラの考えだ。
七階層はアルラウネが生息する世界。
アルラウネがアウラのことを仲間と認識したら?
アウラの家族がいたら?
もしもアウラがその世界で暮らしたいと言ったら?
僕はどう言えばいい?
「セージ、準備できたよ」
アウラが来た。
手には弁当箱が持っていた。
たぶん、リーゼロッテが作った料理が入っているのだろう。
最初はゼロのランチを持っていった僕たちだが、最近はハイエルフたちも弁当を用意してくれている。
肉料理も入っている。
意外なことに、ハイエルフの肉料理は非常に美味しい。
その理由は、彼女たちは何百年も三階層で暮らしていた。
そこでの食事はほとんどカエル肉とカニ肉。
ハイエルフたちにとって好きではない肉料理――それをどうにかして美味しく食べられないかと研究してきたようだ。おかげで、焼き加減とか最高にちょうどいいのだ。
逆に野菜に関しては、彼女たちは生で食べるのが主な食べ方なので、味付けとかそういうものをほとんどしない。
前に野菜のお弁当を用意してもらったとき、キャベツが丸々一個入っていたことがあって、さすがに僕も引いた。
「これマジックポーチに入れて」
「うん」
アウラから受け取ったお弁当箱をマジックポーチの中に入れる。
「じゃあ行こうか」
いつも通り笑顔のアウラに、僕は頷いた。
自分の顔が笑えているかどうかわからない。
六年以上前に覚悟を決めたはずだ。
最後は笑顔で。
アウラが七階層に残るって言っても別に永遠に会えないわけじゃない。
七階層に行ったらいつでも会える。
なんなら、召喚魔法を覚えたのもそのためだ。
召喚魔法を使えば七階層にいるアウラをどこからでも呼び出すことができる。
だから、いつでもアウラに会える。
さよならなんかじゃない。
「じゃあ行こうか」
「セージ、それさっきも言ったよ」
「うん……手、繋いでいい?」
「私も繋ぎたい!」
僕とアウラは手を握り、ダンジョンへと続く扉を――
「あ、ちょっと待って! 忘れ物!」
アウラはそう言ってログハウスに行って、直ぐに戻ってきた。
その髪には僕がプレゼントしたサファイアの髪飾りがつけられている。
あっちの世界に行くときは説明が面倒だから外すように言った髪飾りを外したままにしていたようだ。
「これでいいよ。行こう、セージ」
「うん」
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