第46話 空飛ぶ金の匂い
「セージ様、ひどいっすよ!」
行商人のバズは、僕の顔を見るなりそんなことを言ってきた。
ひどいって、何がだろう?
「俺、セージ様に言われて芋についてあちこちで聞いてまわったんっすよ! なのに、既に見つかって栽培してるなんて。報せてくれてもいいじゃないっすか!」
あぁ、そういえば、バズにジャガイモについて尋ねたことがあった。
その時に、あちこちでジャガイモについて調べてもらうことになっていたんだっけ?
この国にないだろうと予想していたので、すっかり忘れていた。
「それに、マヨネーズの免許制度や、スライムを変異させる花、スカイスライムなんて金になりそうなものばかりできてるじゃないっすかっ!」
「いや、教えようにも、バズは数カ月に一度しかこの村に来ないじゃないか?」
「それでも愚痴くらい言わせてほしいっすよ」
まぁ、僕だって、友達が失くしものをして一緒に捜していたのに、見つかってから暫くの間僕に教えてくれなかったら怒ることもあるだろう。
「それで、バズ。何か用?」
まぁ、悪いことはしてないので謝らないけどね。
「スカイスライムの販売契約っすよ。ロジェ様に許可を貰ったので、発案者のセージ様にも報告をしようと思ったっす。これは絶対に売れるっすよ!」
「売れるかなぁ? 自分で作っておいてなんだけど、ただ空に浮かぶだけだよ?」
「売れないわけないっすよ。まず、宣伝費がいらないのが大きいっすね」
「宣伝費がいらないって?」
「だって、一人がスカイスライムを揚げれば、周辺に住んでる人はそれを絶対に目にするわけっすよ? 一人が実際に遊ぶだけで宣伝の役割が終わるっす」
言われたらその通りだ。
昭和の頃だと、アドバルーンという空に浮かぶ広告があった。現代日本だと、高い建物が沢山出来過ぎたせいで宣伝効果はないけれど、建築技術がルネサンス期や大航海時代くらいのヨーロッパくらいしか進んでいないこの世界では、高層建築物なんてほとんど存在しない。
十メートル程スカイスライムを揚げるだけでも、周囲の人間の目に留まるだろう。
「むしろ、スカイスライムに垂れ幕を垂らして、商店の宣伝をするのもありか……本日牛肉半額! みたいに」
「なんっすかっ! その斬新な宣伝方法はっ! それいただきっすっ! これなら娯楽目的以外にもスカイスライムを買う人が出てくるっすよ!」
「軍に打診して、のろし代わりに使ってもらうのは? 煙の形や色よりいろんなことを伝えられるよ?」
元々、凧は古代中国の戦争の時に使われていた通信手段の「
もしかしたら、こっちの方が使い方としては正しいのかもしれない。
「天才じゃないっすか、セージ様。その案もいただきっす! やばいっすよ、もう大儲けの予感しかしないっす」
そうかそうか、それはよかった。
「ところで、スカイスライムが売れたら、当然、うちにもいくらかキックバックはあるんだよね?」
「当然っすよ。そのあたりは領主様と話し合って、売り上げの三割は納めさせてもらうことになってるっすよ」
「三割もっ!?」
スカイスライム1枚あたりの値段は材料費から考えて、銀貨2枚くらいになると思う。たぶん、それより高かったら、多少手間でも自分で作ろうと思うだろう。
安く見積もって、銀貨1枚くらいかな?
1000枚売れたら銀貨1000枚……小金貨100枚。うちには小金貨30枚も入るのか。
しかも、ジャガイモやマヨネーズの免許制と違い、うちは何もしなくてもいい。
仮にスカイスライムが原因で事故が起こっても、全ての責任はバズにある。
こんな美味しい商売はないだろう。
「それと、セージ様が開く大会のスポンサーになりたいと思ってるっす。それで、具体的にどんな大会になるのか教えてほしかったんっすよ」
僕のところに来たのはそれが理由か。
どうせ、バズのところだから大会が成功したら同じように各地で大会を開いて、スカイスライムを販売するんだろうな。
「どうせなら、いろんな遊び方をするように、三つの部門を作ろうと思ってるんだよ」
僕が考えたのは以下の通りだ。
高さ部門:スカイスライムがどこまで揚るかを競う。凧あげの大会としてはポピュラーな方だと思う。
技術部門:スカイスライムを揚げた後、その動きや技を競う。カイト凧みたいなスカイスライムはまだ作っていないが、ラナ姉さんやロジェ父さんは既に縦横無尽にスカイスライムを操っているので面白そうだと思う。
芸術部門:空に上がったスカイスライムの美しさで競う部門。空に揚がることが前提で、スカイスライムの形を変えたり絵を書いたりして、その芸術性の高さを採点する。
ラナ姉さんが得意そうな喧嘩凧風の部門も考えたけど、いまは楽しむことを前提にやって欲しいので、今回は見送ることにした。
「大会はいつするんっすか?」
「まだ決めてないけど、スカイスライムを作ったり練習をする時間も必要だから、一カ月後にしようかな? それで、スポンサーってことは、賞金出してくれるんだよね? いくらくらい?」
バズが教えてくれた金額は、結構奮発したと思えるだけの金額だった。
僕も審査員になる予定だったけれど、参加者になりたいと思うくらい。
「それで、セージ様に相談なんっすけど、知り合いに紹介したり、工場で現物を見て作りたいので、いくつかスカイスライムを融通してもらってもいいっすか?」
僕は二つ返事で頷く。
幸い、ロジェ父さんが大量に竹ひごを作ってくれたのと、ラナ姉さんがスライム袋を作るのに失敗したおかげで材料は余っている。
僕はささっと作って試しに空に飛ばした後、バズにシンプルなスカイスライムを五枚程作って渡すのだった。
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