【400万PV突破】たしかに成長チートはいらないって言いましたけどスローライフ過ぎやしませんかっ!? ～異世界通販の対価は経験値です～

第47話 セージは雇いたい

　大会の日程を具体的に決めた。

　ただし、雨や風の強い日は中止になるため、予備日を何日か用意する。

　バズが何週間も村に滞在するのは不可能なので、予備日は大会の翌日と翌々日にすることにした。

　この辺りは雨が少ないので、雨天中止の心配はそれほどしていない。

「ありがとうっす。スカイスライム五枚で小金貨一枚でいいっすかね？」

　バズはそう言って、僕にお金を渡す。

　って、小金貨一枚？

　小金貨っていうのは、一般的に金貨と言われるお金のことだ。

　えっと、銅貨が１００枚で銀貨１枚、銀貨が１０枚で金貨１枚。

　銅貨１枚がだいたい１００円くらいだから、金貨は十万円か――と異世界アニメでよくある貨幣を無理やり円に直した感じの説明を心の中でした。

　もちろん、僕の主観の話であり、実際に金貨１枚と１０万円が為替取引されているわけではない。

　って、言うまでもないか。

　ともかく、金貨１枚は子供の小遣いとしては十分過ぎる。

「こんなにいいの？」

「まだ量産体制も入っていない状態の試作品っすから高いのは当たり前っすよ。量産できるようになったら一般のスカイスライムは最終的には銀貨一枚で売る予定っすから」

　バズは僕が考えていた最も安い値段で売る予定のようだ。

「一般のスカイスライムってことは、軍用はもう少し安く売るの？」

「いや、俺が売りたいのは富裕層向けの高価なスカイスライムっすよ。画家を雇い、綺麗な絵を描いて、絵画としても飾りとしても使えるスカイスライムを売る予定っす」

「空飛ぶ芸術ってこと？」

「そうっすね。スカイスライムが一般に認知されるようになれば、セージ様が考えてる芸術部門で優勝するようなスカイスライムは、きっと高値で取引されるっすよ。それこそ、大金貨何十枚もの値がついても俺は驚かないっすね」

「大金貨何十枚っ!?　それもうちへの支払いは三割？」

「そうっすね。契約だとそうなってるっす」

　バズが知らないところで知らない人の手で知らない形の知らないスカイスライムを作って知らない人に売るだけで、うちに大金貨が入って来るなんて。

　これで、我が家もある程度はお金にゆとりができるな。

　ロジェ父さん、親孝行な息子を持ったことを感謝してほしい

「いやぁ、それにしてもセージ様はいい親を持ったっすね！」

「え？」

「今回のスカイスライムの代金は領のお金にするのかって聞いたんっすけど、作ったのはセージ様だから、セージ様に全部渡すそうっすよ。まぁ、税金として三割は領に納めてもらうと言ってるっすけど、それは普通の商売をしていても一緒っすから」

「え？　全部、領の収入になるんじゃないの？」

「俺は領に納めるっすけど、ロジェ様がちゃんと七割はセージ様のお金としてセージ様が成人するまでは預かるそうっすよ？」

　僕は知っている。

　どれだけ、日本の「お年玉は〇〇君が大人になるまでお母さんが預かっておくわね」という言葉の信用度が地の底まで落ちようとも、ロジェ父さんの場合、わざわざ嘘をつくことはない。

　そもそも、この国の法律では、子供の稼ぎは親の収入にしていいことになっている。

「じゃあ、これ、小金貨一枚っす。契約金は既に領主様に渡したから」

　バズはそう言うと、スカイスライムを布で包み、小走りに去っていく。

　顔が生き生きしていたので、いろいろと考えがあるのだろう。

　しまった、契約金、いくら払ったのか聞いておけばよかった。

　ロジェ父さんに聞いたら教えてくれるかな？

　……んー

　　　▽　▼　▽　▼　▽

「ロジェ父さん、いま、時間ある」

「うん、あるよ。セージもハーブティーを飲むかい？」

　仕事の合間に休憩をしていたのだろう。

　ロジェ父さんはソファに座って自分で淹れたハーブティーを飲んでいた。

「うん、もらうよ。バズにスカイスライム五枚売って、小金貨一枚貰った。それと、父さん、バズから契約金ももらったんだよね？」

「もらったよ。でも、セージが大人になるまでは僕が預かっておくからね」

「そのお金を使って、メイドと料理人を雇わない？」

「急にどうしたんだい？　別にいまのままでも困る事はないだろ？」

「今のままでも十分だけど、僕にも婚約者ができるからね。王都から嫁いでくるお嬢様が家に来るんだよ？　それなのに、執事もメイドも料理人も植木職人さんも馬丁もいないのって――せめて身の回りの世話をしてくれるメイドと料理人くらい雇ってみない？　僕のお金使ってもいいから」

「セージのお金を使わなくても、税金分で使用人を雇うことはできるよ。確かに使用人を雇っていない貴族は少ないからね。でも、人を雇うってのは簡単なことじゃないんだよ？　エイラとラナにも相談してみないとね」

　二つ返事とまではいかないが、だからといって頑なに拒否しているわけでもなさそうだ。

　エイラ母さん次第では雇ってもらえるかもしれない。

　その日の夕食中、ロジェ父さんが早速話を切り出した。

「ということなんだけど、二人はどう思う？」

「父さん、うちって貧乏なんじゃないの？　人を雇って大丈夫？」

　ラナ姉さんが心配そうに尋ねた。

　前までうちが貧乏貴族だと知らなかったラナ姉さんは、ラナ姉さんなりにいろいろと考えていたのだろう。

「ジャガイモとマヨネーズはこれからだけど、スカイスライムで一定の税収が見込めそうだからね」

「だったら、剣の師匠を雇ってほしい！　父さんが忙しい時に稽古相手になってほしいの！」

「余裕ができたと言ってもそこまでじゃないわ。それに、複数の師匠を持つと剣がブレることがあるの。我慢しなさい」

　ラナ姉さんがバカなことを言い出したが、エイラ母さんが止めてくれた。

　よかった、剣の家庭教師なんて雇われたら、僕が修行空間でレベルを上げていることを見抜く可能性がある人が増えることになる。

「じゃあ、どっちでもいい」

「私は賛成よ。料理は嫌いじゃないけど、やっぱり本職の人に作ってもらった方が美味しいし、余った時間でロジェの仕事を手伝えるかもしれないでしょ？」

「え？　エイラ母さん時間が余っててもいつも本を読んでるだけで父さんの仕事を手伝ったりは――いたいいたい！」

「ラナ、余計なことをいう口はこれかしら？」

　エイラ母さんがラナ姉さんの口を引っ張って注意する。

　危ない、もう少しで僕が同じことを言ってしまうところだった。