第195話 修行空間に永遠に

 僕は立っていることもできずに倒れそうになる。

 修行空間に――いや、この体制で戻ったら、どうしても修行空間からこっちに戻ってくるときに違和感が出る。

 きっと痛いんだろうな。

 一秒にも満たないその間に僕はいろいろと考え――


「セージ、大丈夫かっ!」


 ロジェ父さんに支えられていた。

 あれ? ロジェ父さんってかなり離れた場所にいたような……はは、さすがロジェ父さんだ。


「魔力枯渇……久しぶりだ……ちょっとキツイ」


 みんなが敷物を用意し、僕を寝かせてくれた。

 全身倦怠感でだるい。

 修行空間に行ってゼロに回復してもらいたいけれど、突然治ったらおかしいから、素直に横になっている。

 説明は後でいいから今は休むようにと言われた。

 三十分くらい休んで、ようやく座れるまで体力が回復した。


「それで、なにがあったんだい?」

「魔石って魔力を吸収する効果があるんだよ。さっきの魔石はそれで見つけた。吸収といっても、一個の魔石が吸収する量はしれてるんだけどね、何個かあると、魔力を吸収する力が強くなるんだ。例えば、使った魔力だけじゃなくて、繋がっている使用者の魔力まで奪おうとするんだ……エイラ母さんにも、たくさんの魔石の気配を感じたら土の支配を解除するように言われてたけど、さっき簡単に魔石を掘り出せたから、今回も行けると思って周囲の土を掘り出そうとしたら――魔力を奪われちゃって――」

「それってつまり?」

「この下――正確にはこの斜め下の方向に、大量に魔石が埋蔵されてる。鉱脈と言っていいと思う」


 僕がそう言うと、周囲から歓声が巻き起こる。

 おいおい、領主の息子が息も絶え絶えなのに歓声って……よかったね。 


 もう一カ所の採掘ポイントの調査は行わないことになった。

 一カ所見つかっただけでも十分だし、これ以上の調査は国に任せた方がいいだろうとなったのだ。


   ▼ ▽ ▼ ▽ ▼


 地面をくわで掘る。

 屑石が見つかる。

 さらに鍬で掘る。鉄の鉱石が見つかる。


「梯子出てこないね」

「うん」

「牧場経営ゲームなのに、地面掘ってばかりだね」

「そういうゲームだね」


 ちょっと疲れたので、僕はアウラと一緒に修行空間でテレビゲームで遊んでいた。

 やっているのは、牧場経営ゲームだ。

 いまは二年目の冬で、鉱山で採掘ばかりしていた。


「アウラは地面掘るの得意だよね?」

「うん、得意だよ! アウラならこの鉱山に眠るオリハルコンまであっという間に掘りつくしちゃうよ!」


 アウラなら可能なろうな。

 と、主人公の体力が限界だ。カレーうどんを食べさせて……と。

 話を戻す。


「でも、簡単に掘り終わったらゲームの楽しみなくなっちゃうね」

「確かに! セージのいう成長チートは嫌だ! っていうのと同じだね」

「僕、そんなこと言ってたっけ?」

「言ってたよ?」

「言ってたかぁ」


 疲れているのか、気の抜けた返事をする。

 いいよねぇ、スローライフ。

 いくらレアな鉱石を見つけても、国が介入してくるわけでもないし、税金も納めないでいいんだから。

 僕も、こんな主人公みたいな生活したいな。


「セージ、一時間経ったよ」

「そっか。じゃあ、セーブするよ」


 ベッドの横の日記帳でセーブをして、今日のゲームは終わりっと。

 ゲームは一日一時間ルールは今も継続している。

 ただ、ゲームの時間が短いので、ほとんどのゲームがやりかけのままになっている。


「じゃあ、今日も五階層に行くか」

「レベル9になったけど、まだ五階層?」

「うん、レベル10までは五階層かな?」


 僕はレベル9になった。

 昨日――魔石の鉱脈を見つけた日の夜だった。

 かなり時間がかかったが、その分余剰経験値が大量に手に入った。

 昨日はその余剰経験値を使って、アウラとハイエルフと大宴会を催した。

 そして、ステータス偽造のスキルも取得した。

 ステータスカードをいつ見られても問題ない。


「セージって、さっきのゲームの主人公に似てるよね」

「似てるって?」

「毎日鉱山に潜ってる主人公と、毎日ダンジョンに潜ってるセージ」

「確かに似てるか……」

「セージ、ずっとこっちにいたら?」

「え?」


 突然、アウラがそんなことを言い出した。



 アウラがそんなことを言うのは初めてだ。

 どうしてだろう? って思ったら、


「セージ、あんな主人公みたいな生活したいって言ってたよね?」


 とアウラが言う。

 どうやら、疲れていたせいで思っていたことが全部口に出ていたようだ。


「でも、これ以上成長しないっていうのは――」

「じゃあ、セージが大人になったら、ずっとこっちにいたら?」


 アウラの純粋なその質問に僕は――


  ▼ ▽ ▼ ▽ ▼


「セージ! 訓練付き合いなさい」


 僕が本を読んでいると、ラナ姉さんがノックもせずに部屋に入ってきた。

 その手には二本の木剣が握られている。


「いやだよ、今日は本を読む日って決めたんだ。魔力枯渇で動きたくない気分なんだよ」

「あんた、昨日もそう言ってだらけてたじゃない。そうしている間にも、世界は動いてるのよ!」

「いいよね。僕が何をしなくても世界が動くなんて。世界は素晴らしい――」

「御託は聞き飽きたわ。選びなさい。今日一緒に訓練するか――」


 ラナ姉さんの口が止まる。

 そして、それ以上何も言わない。


「するか?」


 僕が辛抱できずに尋ね返すと、ラナ姉さんはにっこりと笑った。

 何も知らない人が見れば七歳の女の子の優しい笑顔だ。

 だが、この状況で優しい笑顔を浮かべる理由はなに?

 その微笑む目の奥には、この後に起こる僕の身を憂う同情の眼差しが込められているような。

 背筋に悪寒が走り抜けた。


「……訓練に付き合います」

「最初からそう言えばいいのよ。安心して、セージはまだ五歳なんだし、無茶な訓練にはしないから」


 やっぱりアウラとハイエルフたちとずっと一緒にいる選択肢を選んだ方がよかったかな?

 いまからでも変更可能だけど、でも変更可能だからこそ、僕はこっちの世界もあっちの世界も両方を生きるよ。


「セージ、早く準備しなさい!」

「待ってよ。そもそも訓練って何するか聞いてないんだけど!」

「訓練って行ったら、レベル上げに決まってるでしょ! 秋には森の近くに植物系の魔物が出るのよ! この時期しか倒せないんだから行くわよ」

「この時期しか食べられない旬の食べ物みたいな言い方しないでよ……あぁ、もう」


 僕は文句を言いながら、部屋の隅に置いてあった弓矢を手に取った。


――――――――――――――――――――――

前回、もうちょっと続くと言ったので

ここで無理やり最終話風の物語を書いたらどうなるか?

という感じの話です

まだまだ続きます

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