第194話 魔石採掘

 北の山は赤土の山だった。

 この山の向こうには、騎馬民族たちが生活する土地が広がっているらしい。もしもこの山がなければ、その騎馬民族に何度も侵略戦争を仕掛けられていただろうと言われている。

 さながら、この山々は天然の万里の長城といったところだろうか?

 ちなみに、魔物は普通に生息している。

 ワイルドゴートという山羊の魔物だ。肉は癖が強いが、好きな人は結構好きらしい。あと、毛皮もそこそこ価値があるとか。


「調査の前に、僕たちは周囲の索敵と殲滅をする。君達はセージと荷物の護衛を頼む。」


 ロジェ父さんがそう指示を出す。

 僕たちはお留守番だ。


「護衛といっても、こう見晴らしがいいのなら待機と同じですね。俺たち、何もしなくていいんですか?」

「ぼやかないで、ナライ。荷物を狙ってる敵ならいるんだから」

「どこにですか?」

「上に」


 僕が指を上に差し、ナライと一緒に上を見上げた。

 すると、二羽の大きな鳥が急降下してくるところだった。

 風の刃を放とうかと思ったが、一羽はウィルの矢で射抜かれ、もう一羽はソウカが刀の錆びにしていた。

 あっという間の出来事だ。


「こいつ、荷物を広げてるととりあえず盗みにくる厄介な鳥だからね」

「セージ様、知ってたんですか?」

「うん、本で読んだ」


 実際は二階層で昼ご飯を食べているとき、三度ほど食事を奪われたことがある。

 魔物ではなく、野生の鳥なので強いわけではないのだが、逃げられたらもう食べ物は戻ってこないので、ある意味ゴブリンより厄介だった。

 山でこの鳥を見かけたときは、その嫌な思い出がよみがえったよ。


「油断し過ぎだね、ナライ」

「セージ様の忠告、しっかり胸に刻むんだぞ」

「うぅ、すみません、イセリアさん、ギデオンさん」


 と言っている間に、ウィルが鳥の下処理を始めた。

 持って帰るつもりらしい。

 この鳥の肉は、さっきの鳥ほどじゃないけど、そこそこ美味しいからね。

 さてと、僕は――


  ▼ ▽ ▼ ▽ ▼


 暫くして、ロジェ父さんたちが帰ってきた。

 二人と三人に別れて、大きな山羊を持って帰ってきた。

 結構な成果があったらしい。

 だけど、一緒にいる人達の様子がおかしい。

 声にならない声で何か言っている。


「『なにもできなかった』って言ってるでござるな」

「ソウカ、耳いいね。まぁ、ロジェ父さんと一緒ならできる仕事は荷物運びくらいだね」

「なら、荷物番の私たちと大した違いはないですね」


 イセリアが笑った。

 うん、ロジェ父さん一人いたらなんとでもなっちゃうからね。

 ワイルドゴートはマジックポーチに入れてお持ち帰り。


「ツバイ。それで採掘地点の様子は?」

「双方確認してきましたが、特に滑落や崖崩れの危険な場所ではありませんでした」


 ツバイというのは、ロジェ父さんの騎士の一人で、斥候の役割をしている三十歳くらいの男性だ。

 走るのが得意で、王都までなら、四日で走っていけると言っていたそうだ。

 王都まで400キロくらいあるから、一日平均100キロ。毎日フルマラソン二回以上走ることになる。

 いくら、この世界の人間がステータスとレベルの概念により身体機能が底上げされているからって、無茶し過ぎだろ。

 ともかく、ツバイにより、安全は確認された


 僕たちは、最初の採掘地点に向かう。

 ツバイの言う通り、特に危険そうな場所はなかった。

 さっそく調査開始だ


「土操作!」


 今回は地中深くまで調べるため、六メートルの範囲で調べる。

 ん? 何か反応。

 魔石じゃないな。鉱石か?

 とりあえず、周囲の土ごと出してみる。


「これは……巻貝の化石か」


 アンモナイトのような化石が発掘された。

 このあたりは昔は海だったのかな。それとも、陸生の巻貝?

 庭に埋まっていたゴブリンの骨と同じで、化石も土とは判断されず、引っかかるわけか。


「凄い、セージ様の魔法って本当に凄いです」


 魔法大好き女騎士のイセリアが熱い視線を送って来る。


「どういたしまして。じゃあ、次行くよ」


 とりあえず、化石はマジックポーチに。

 今度、バズに売りつけよう。

 ド・ルジエールさんのところに持っていったら、高く買い取ってくれるだろう。

 次の場所、さらに次の場所と移動するけれど、不発が続く。

 価値のある鉱石かもと思って出してみたけれど、価値のない屑石だったりした。

 この場所には無いのかもと思ったその時だった。


「ある! 魔力が吸い取られる感じがする」

「本当かい?」

「うん。待って――」


 僕は慎重にそれを土から掘り起こす。


「土の塊?」


 誰かが言った。


「魔石に魔力が触れると吸い取られるから、魔石には直接魔法を流さないで、周囲の土ごと持ち上げたんだ。ナライ、その土を払いのけてみて」

「わかりました」


 ナライが出てきた土の塊の、その土の部分を落としていく。

 すると、中には小さな魔石があった。


「セージ様、これが魔石ですか?」

「うん、結構いい大きさだね。そのくらいの魔石なら、王都で金貨三枚くらいで売ってたよ」

「え!? これが金貨三枚ですかっ!?」

「うん。だからネコババしたらダメだよ」

「絶対にしませんから」


 僕はそう冗談を言って、さらに次の場所に行く。

 さて、このあたりを調査してみようかな?


 魔力を展開する。

 さて、次は当たりがあるかな?


 ……ってあれ?

 ……あ、これ、あかんやつや。


―――――――――――――――――

累計文字数50万文字到達しました。

ここから、カクヨムジャンルで大長編となります。

もうちょっと続くのでお付き合いください。

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