第193話 北の山へ
僕たちは現在、北の山に調査に向かっていた。
メンバーは、ロジェ父さんと騎士五人。
そして、僕と僕の部下の騎士見習い全員。
合計十二人だ。
女性はイセリアひとりなのでかなり暑苦しいメンバーになってしまった。
「セージ様、荷物を持ちましょうか?」
「いや、マジックポーチだから重くないし必要ないよ」
「それでしたら、あっしが負ぶっていきましょうか?」
「自分で歩けるから必要ない。暑苦しそうだし」
そんな中、僕に暑苦しく声を掛けてくるのが、ギデオン。
王都で蛇毒から命を救った冒険者だ。
僕に恩義を感じているらしく、なにかと世話を焼きたがる。
マジックポーチは普段は持ち歩いていないのが、魔石や鉱石を採取できたら持って帰ることになっているので、持ち出しが許可された。
「世話を焼くのなら、後ろにいるウィルの荷物を持ってあげてよ。結構辛そうだし」
「わかりました! おい、ウィル! 荷物もってやるよ」
「ありがとう、ギデオンさん。でも大丈夫だから」
「遠慮するなって」
後ろのやり取りを聞きながら、僕はロジェ父さんたちについていく。
村から北は街道もないので、馬車に乗っていくこともできないから大変だ。
「セージ様、本当に大丈夫でござるか?」
「むさくるしい男に背負われるのが嫌なら、私が負ぶって差し上げますよ」
ソーカとイセリアも心配そうに尋ねる。
道のない場所を歩くのは、平たんな場所でも体力を使うからだ。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。定期的に回復魔法で体力を回復させてるから。本当は身体強化の魔法を使えたらいいんだけど、そっちはエイラ母さんに止められてるからね」
僕がそう言うと、ソーカは感心するように頷き、イセリアは小さな声で「羨ましい」と呟きながら、やや羨望に満ちた眼差しで僕を見る。
「セージ様は流石ですね」
ナライが感心するように言った。
言っていることは、ほとんどモブAって感じだな。
いやぁ、個性の強いこのメンバーで、ナライのようなキャラは本当に貴重だなぁ。
「セージ、この辺りで一度休憩にしようっ!」
前方を歩いていたロジェ父さんが声を上げた。
山までもう少しだけれども、確かにお腹が空く時間だ。
僕たちは昼食の準備を始めた。
ということで、二チーム別れて、ご飯の準備だ。
といっても、せいぜい近くの川で水を汲んで沸かすだけ。
食べるのは持ってきた弁当だ。
薪を集めたり、水を汲んだりは皆の仕事。
僕はせいぜい魔法で薪を乾燥させて着火するくらいなものだ。
「セージ様、大きな鳥が獲れたんだ。皆で食べましょう」
ウィルの手には大きな鳥があった。
いつの間に捕まえたんだ?
さすが、凄腕の狩人だな。
「いいね! でも、半分はロジェ父さんたちに渡すよ」
「どうしてですか? 俺たちだけで食べましょうよ」
ナライが言う。
食事はそれぞれ用意するってことになっていたんだから、本来ならウィルの獲物をロジェ父さんたちに分ける必要はない。
ウィルが僕たち六人で分けたいと言ったら、六人で分けるべきだろう。
「そうはいかんでござろう。我々は騎士見習い。正式に騎士として採用された彼らより豪華な昼食を食べるわけにはいかないでござる」
「ソーカの言う通りですね。ここであいつらに恨まれたら、セージ様も面倒でしょうし」
「さすがセージ様。立派なお考えです」
ナライ以外は僕の考えに賛成してくれた。
ということで、鳥は半分に捌いて、ロジェ父さんのところに持っていく。
鳥はロジェ父さんが調理できるから大丈夫だろう。
「ウィル、手際いいね」
「鳥の解体は慣れてますからね」
「うんうん、ウィルにいてもらってよかったよ。ところで、みんな、ここからは小さな声でお願いね。これ、なーんだ!」
僕は小さな声でそう言って、マジックポーチからある瓶を取り出した。
「塩……にしては色が違います」
「砂ではないでござるよね?」
ナライもソーカもわからないか。
ウィルもイセリアも考えているが答えは出ない様子。
「一番近いのはナライだね。半分は塩なんだけど、もう半分は粉状にしたホワイトペッパー――胡椒なんだよ」
「胡椒っ!?」
「シーっ!」
ナライが大声を出したので、僕は黙るように言う。
「胡椒って、かなり貴重なんじゃ」
「せっかくだし、美味しく食べたいじゃない。これを振って食べたら、絶対に美味しいから。ロジェ父さんたちには内緒だよ」
僕はそう言って焼く前の鳥に塩コショウを振った。
実際のところ、異世界通販本で買った塩コショウを瓶に詰め替えたものなので、高級品でもなんでもないのだけれども、少し塩コショウが零れると、ウィルが「勿体ない……」と絶望するように呟く。
そして、焼けた鳥肉を食べた。
焚き火で焼いた鳥の肉はほんのりとスモーキーな香りが広がり、口に含むと肉汁が溢れる。
塩と胡椒の辛味がバランスよく調和しており、肉の旨味を引き立たせている。
さらに、焼き目がついた部分には、カリッとした食感が加わり、食べ応えも十分だ。
シンプルながらも深みのある味わいで、焚き火の煙と眼前に広がる山の裾野の風景を見ながら食べると、より一層美味しさが増す。
「うまいっ! これが――うまいっ!」
「やはりスパイスは適量が一番でござるな。この国に来る途中に寄った土地ではスパイスは日常に使われていたでござるが、全てが辛かったのが懐かしいでござる」
「全部の料理にスパイスが使われているって、そんな国があるのですか。一度行ってみたいですね」
「お金がいくらあっても足りない気がします」
「俺、セージ様についてきて本当に幸せです」
ナライ、ソーカ、イセリア、ウィル、ギデオンがそれぞれ言った。
なんか、野外キャンプみたいで楽しいよね。
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