第215話 エルダードワーフの街

 王都にも匹敵する――いや、それ以上の大都市が僕の目の前に広がっている。

 ただし、王都と違う点があるとすれば、人の姿が全く見えないことだ。

 その代わり、石の人間が動いている。

 ゴーレムだろうか?

 ただ、魔物にしては、近くに僕がいても襲ってこない。

 フォースを恐れているという感じでもない。

 僕にとっては王都に続いて二度目、それに日本ではもっと大きな街が普通にあるので驚きはしないが、アウラにとってはゲーム以外では初体験。とても感動しているように言う。


「これ、街だよね? 街ってこんなに凄いんだ。セージもこんな街を作ろうとしてるの?」

「ここまでの街は作れないよ」


 僕たちが作ろうとしてるのは街じゃなくて町だしね。


「驚いたよ。六階層って、街のマップなんだ」

「いいや、六階層は砂漠をモチーフにした階層だ。こんな立派な街があるわけがねぇ」


 砂漠か。

 道理で暑いと思った。

 フォースがクーフィヤを僕に被せてくれたのもこれが理由か。


「え? じゃあこれは?」

「エルダードワーフ共が作りやがった。千五百年のあいだにな」

「エルダードワーフって三人だよね? たった三人でこれだけの街を作ったの?」

「この街だけじゃない。他にもいろんなところにここと似たような街を作ってやがる。それと、三人じゃねぇ」


 三人じゃない?

 エルダードワーフって三人だけって話だけど。

 もしかしたら過去にも同じようにファーストによって六階層に放逐された人がいるってことかな?

 たとえば、ドワーフ五百人とか。

 それはそうだ。いくら千五百年経っているといっても、ここと同じような街をいくつも三人で作れるわけがない。

 仮にできるとしたら、エルダードワーフが千五百人いたらたったの三年で世界中に王都以上の街ができあがることになってしまう。

 僕の質問を続いて、アウラが尋ねる。


「何人でこの街を作ったの?」

「一人だ。エルダードワーフは三人、それぞれ役割が違う。街を作ってる奴、魔道具を作ってる奴、そして酒を造ってる奴がな」


 ……開いた口が塞がらないとはまさにこのことじゃないだろうか?

 建築特化のチートにしても常識の範囲を超えている。

 僕も前世界の知識で内政チートっぽいことをやってきたけれど、ここまでのチートはないぞ?

 ライトノベルでよくある、

『建築魔法しか使えないと放逐された俺が、三日で王都に勝る軍事都市を作り上げた件について』

 みたいな話か?

 ていうか、なんのために街なんて作ってるんだ?

 住む人もいないのに。

 いや、人はいないが、変な物はいたわ。


「あのゴーレムはこの街の住人ってこと?」

「あぁ、魔物の自動撃退システムらしい。魔物を見つけたら襲い掛かって捕まえ、解体し、いろんな用途に使うらしい。あとは建物の維持、管理もしている」

「魔石はどうしてるの? 魔道具を作るには魔石が必要でしょ?」

「六階層のレアモンスターであるトパーズスコーピオンは心臓部分が魔石でできてる。それを集めたんだろうな。あの魔石が一個あれば、このゴーレム十体は動かせる」


 ルビーリザードマンのような、宝石型の魔物か。

 滅多に出てこないレア種なのに、かなり捕まえたのだろう。

 いや、何度かトパーズスコーピオンを倒して魔石を集め、あの石のゴーレムを何体も作ってしまえば、後は自動的に魔物を倒してくれる。

 ハイエルフみたいに、レアモンスターの出現位置を予測して、その場所にゴーレムを配置するだけで時間はかかるが魔石は集め放題ってことか。

 無機質に動くゴーレムを見送る。

 とても効率的な街だけど、やっぱり人がいないと寂しいな。


「それで、エルダードワーフはどこにいるの? やっぱりあのお城の中?」

「いや、こっちだ」


 そう言うと、フォースは歩いていき、近くの外観からして、レストランをイメージして作ったであろう建物に入った。

 僕も後に続いて入る。

 すると、中は街の暑さとは打って変わってひんやりとした部屋だった。

 その部屋の真ん中で、三人の髭面のおっさんたちが酒盛りをしていた。


「おぉ、魔王の旦那! 待ってたぜ」

「駆けつけ一杯どうじゃ?」

「そっちのがセージ様ってやつか。その嬢ちゃんはアルラウネか? まぁいいや、坊主と嬢ちゃんも一緒に飲むか?」


 うわ、酒臭い。

 一体何を飲んでるんだ?


「あれは、テキーラみたいな酒だな」

「テキーラって、原料なんだっけ? サボテン?」


 お酒はほとんど興味がないんだよな。

 前世でも未成年だったし。

 ただ、テキーラといえば、メキシコ。

 メキシコといえばメキシカンハットを被ってマラカスを振っている陽気なおじさんとサボテンのイメージが強いのでそう尋ねた。


「半分正解で、半分不正解だ。セージ様の世界のテキーラは竜舌蘭――アガヴェっていう植物が原料で作られてる。サボテンじゃねぇ」

「じゃあ完全に不正解じゃん」

「いや、あいつらが飲んでるのはテキーラみたいな・・・・酒で、原材料はサボテンの魔物だから、そっちは正解だろ」


 魔物が原料なのか。

 サボテンの魔物から酒作ってるのか。

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