第60話 金色の両生類

 思わぬ形で到着、三階層。

 三階層で最初に目に映ったのは、池だった。

 周囲を見ると、あちこちに池がある。


「セージ、三階層にいる魔物は、ビッグトードだけなの?」

「いや、まずゴブリンとスライムもいるらしいよ? さすがにスライムがここまでくるのは難しいが、ゴブリンは結構いるみたいだ。それと、ジャイアントクラブって魔物もいる。それと――」

「クラブ? ファミコム探偵クラブ?」

「たぶんカニだね……えっと、ファミコム探偵クラブってなに?」

「ゲームの部屋にあったよ」


 うん、タイトルからしてファミコムのゲームだろうとは思っていた。

 当然、僕が生まれる前に発売されたゲームだろう。

 アウラ、僕と一緒に色んなゲームをできるように日本語を教わったって言ってたけど、もしかして、僕より日本語がうまくなってるんじゃないだろうか?

 一度、日本語で会話してみたいと思うけれど、うっかり日常で使ってしまう可能性もあるな。

 ちなみに、この階層に食材となる生物はいない。

 何故なら、カエルとカニ、どちらも食料になるからだそうだ。

 寄生虫などはいないが、食べるときは念のために火を通すようにとゼロに言われている。

 ちなみに、僕が必要としているのは、ビッグトードの発情期中の雄。

 特徴として、普通のビッグトードはくすんだ蒼色だが、発情期になると輝くような碧色になるらしい。


 でも、とりあえず最初の目標はビッグトードを倒すことではなく、出口の発見だ。

 退路の確保は新しい迷宮で絶対に必要だ。


「出口はここからだと見つからないな。とりあえず歩こうか」

「待って!」


 アウラはそう言うと、蔓を延ばして、それを地面に突きたてると、自分の身体を持ち上げるように上空に上がっていく。

 うん、見上げないよ?

 アウラはワンピース姿だから、ここで見上げたらパンツが丸見えになっちゃうもんね。

 僕は紳士だから、そんなことはしない。


「セージ、出口見つけたよ!」


 そう言って、蔦を収縮してゆっくりと降りてくる。


「便利だね、その蔦」

「うん! セージのスカイスライムを見て思いついたの! アウラは空を飛べないけど、スカイスライムみたいにはなれるんじゃないかなって」

「凄いね。その発想は僕にはなかったよ」

 

 まさか、空を飛ぶ方法が見つからないからって、自分がスカイスライムになるなんて。

 忍者は大凧に乗って空を飛ぶというけれど、あんなの当然フィクションの話だ。

 

「それと、あっちに金色に光る変なのがいたよ?」

「金色っ! アウラ、そっちに行くぞ」

「え? でも出口と反対方向だよ!」

「いいの!」


 さっき、説明が途中だったけれど、この3階層には普通の魔物とは別に、レアモンスターと呼ばれる魔物がいる。

 特定の魔物が湧くたびに、一定の確率で出現する魔物だ。

 3階層に出るレアモンスターは、通常のビッグトードが約1000回出現するたびに1回くらいの確率で出現する。

 その名前は――


「ゴールデントード!」


 金色に光る、牛くらいの大きさのカエル。

 見た目はそれ以上でもそれ以下でもない。

 しかし、見た目以外に大きな特徴がある。

 その特徴は――


「このゴールデントードは、経験値が1050もあるんだ!」

「経験値1050? ゴブリンが経験値5だから、えっと、201匹分? 金属スライム!?」

「210匹分だよ。うん、でも防御力が高いとかそういうのはない、普通のビッグトードと変わらないよ」

 

 普通のビッグトードの経験値が50なので、21匹分。

 ただし、特別なのは経験値だけで強さは変わらない。

 ゴールデントードが大きくジャンプする。

 僕にのしかかって潰すつもりのようだ。


「ウィンドカッター!」


 風の刃が金色に輝く皮膚に浅い傷を作る。

 まだ生きている。

 一回では仕留め切れていない。

 このままだと五歳の僕の身体は押しつぶされてしまう。

 しかし――


「うー、ヌメヌメ」


 一瞬にして、ゴールデントードの身体がアウラの蔦で縛られる。

 アウラは蔦にも感覚があるらしく、カエルのヌメヌメが嫌なようだ。

 その間に僕は次の魔法の準備をする。


「ウィンドカ――あ……」

「セージ、カエルが青くなっちゃったよ」

「うん、これはもう――」



 レアモンスターの特性。

 確率により出現。とても珍しい。

 強さは通常の魔物と変わらない。素早かったり硬かったりもしない。

 経験値が通常の魔物より遥かに多い。

 そして――


 一定時間で、普通の魔物になってしまう。


「普通のビッグトードだ」


 僕はそう呟き、ウィンドカッターでトドメを差した。

 当然、経験値も普通のビッグトードの分しか入っていないだろう。

 レアモンスターが普通のモンスターに戻るまで、数日の猶予があるはずなのだが、きっとちょうどレアモンスターが普通の魔物に戻る時間だったのだろう。

 運が悪かった。

 カエルの死体を見る。

 発情期でもないみたいだし、食材にしようにも、こんな大きいものを出口まで運ぶのも大変だ。


「じゃあ、行こうか」

「うん!」


 改めて、僕とアウラは出口を目指して歩いていった。

 はぁ……逃がした魚は大きいな。

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