第219話 ハイエルフとエルダードワーフの差

 家に帰った僕は、ロジェ父さんの執務室に向かった。

 最近はクリトスも一緒に仕事をしているので、ノックしてから確認をして部屋に入る。

 それまではノックと同時に扉を開けるか、ノックもせずに入っていた。


「セージがこの部屋に来るのは久しぶりだね。何か用事かい?」

「うん。ちょっとこれ見てほしくて」


 僕はそう言って、マジックポーチから筒状に丸められている大きな紙を取り出した。

 広げると、大きな机に収まりきらないくらい広がった。

 わざわざマジックポーチに入れて持ってきたのは、この大きさも理由の一つだ。

 その紙に書かれていたのは町の設計案だった。


「新しい町の設計案。今から変更が利く範囲で、工賃も安く、住民の要望をできるだけ叶えられるようにしてる」

「セージが描いたのかい? ……いや、字がセージの字じゃないから別の人か」

「街造りが趣味だっていうちょっとした知り合いに。ただ、衛兵の詰め所や武器庫、倉庫のようなあまり周知されたくないような場所については描かれてないけどね。それで、これがこの設計案を元に町のモデル。こっちは僕が土操作の魔法で作ってみた」

「へぇ、実際に形にしてみるとわかりやすいね。しかもよく観察してある。屋敷なんて色がないだけで本物そっくりだよ」


 ロジェ父さんは屋敷を見て言った。

 うん、これについては自信があった。

 まず、土操作で中身が空洞のできるだけ軽い土人形を作って、できるだけ高い木を登ってもらい、チェキで撮影させた。

 同じように村中を撮影し、ギスタンに渡した。

 ギスタンはその写真を元に新しい町を設計した。


「私も見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「うん、いいよ」


 クリトスが町のモデルを黙って確認したかと思いきや、要望書や村の見取り図、その他資料などと見比べる。


「これは……素晴らしいですね。皆の要望を取り入れるだけでなく、後々人口が増えたときのことも考えられての設計でしょう。セージ様、これは名だたる方が描かれたのでは?」

「最近、村の近くで知り合ったドワーフのおじさん。街造りが趣味で、いろんな町や都市の設計を無料で描いてるって言ってたから、試しに頼んでみたんだ。ワイン三本、紙とインクの費用はこっち持ちで」

「ワイン三本――それが本当なら破格の値段ですね。これからでも計画の変更をする必要がありそうです」

「警備の上で、外部の人間――ドワーフが考えた設計でもいいのかい?」

「はい。先ほどセージ様が仰ったように、重要な施設の位置は決まっておりおませんし、そもそも、このあたりは軍事上重要な拠点になるわけでもありませんからね」


 軍事施設の設計だったら不味いけど、町の設計なら、別に町が完成した後普通に歩くだけで情報が手に入るからね。


「セージ様、そのドワーフに私もお会いしたいのですが」

「ごめん、それは無理だと思う。結構人見知りで、もう百年以上人間と関わってなかったって言ってたし。僕と会ったのも、前に知り合ったエルフさんの紹介のようなもので――」

「なるほど。ドワーフは偏屈な者が多いと言いますし。きっと、セージ様が純粋な子供だからこそ会えたのでしょう。ここで無理を言ったら、相手にも失礼になりますね」


 クリトスが勝手に納得してくれた。


「作家のゼロ、魔法を教えてくれたエルフ、そして今度は町を設計をするドワーフか。本当にセージは僕の知らないところでいろいろと人脈を広げていくね」

「たまたまだよ。偶然」


 あと、アルラウネと神と魔王とも知り合ってます。

 エルダードワーフは今後、僕のために必要なとき、町や建物の設計をしてもらったり、魔道具作りや酒造りのアイデアを考えてくれることになった。

 また、六階層で倒されたトパーズスコーピオンなどのレアな魔物の素材も提供してくれるということで、フォースも納得した。

 砂漠でレベル上げっていうのも大変そうだし、この前六階層に行ったとき、出口に行くまでちょっと砂漠を歩くことになったのだが、アウラが少し辛そうだった――サボテン以外の植物の魔物に砂漠はきついようだ――ので、レベル上げは五階層で行い、次に行くのは七階層ということにした。

 これで、丸く収まったんだが――


   ▼ ▽ ▼ ▽ ▽


 零階層にて――


「あれ? セージ様、エルダードワーフたちは連れて来なかったんですか?」

「六階層は砂漠なんですよね? そんなところに千年以上も置き去りにされて、かなり疲れてると思うんですよ」

「それを思うと、まだ私たちの方が幸せでしたよね」


 とハイエルフ三人がエルダードワーフに同情の念を持っていたので、正直に、三人は町作り、魔道具造り、酒造りとそこそこ楽しそうな生活をしていたこと、その趣味を突き詰めるために彼らはここには来ないことを伝えると、


「「「なにそれずるい!」」」


 と口を揃えて叫んだ。

 うん、本当に悲惨なサバイバルを余儀なくされたハイエルフと、趣味に没頭する環境が整えられていたエルダードワーフ――両者の差は何が原因なんだろうね。

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