第218話 エルダードワーフの決意
店の外は相変わらず日差しがきつい。
案内されたのは、城の近くにある塔のような場所だった。
その階段を登っていく。
壁には様々な絵が彫られていた。
酒を飲んで騒いだり、喧嘩をしたりしているエルダードワーフの絵だ。
「これらは、俺たちの日記のようなもんだ。まぁ、俺たちが生きた証みたいなもんだよ。だいたい、一週間で一番印象に残ったことが彫られてる」
「へぇ……」
たいそうな絵日記もあったものだと感心する。
「うわぁ、凄い景色だ」
そして、塔を登り切って僕が見たのは、都市の周囲に広がる広大な砂漠だった。
本当に砂漠の中の都市なんだ。
ただし、普通の砂漠ではない。
なんと、砂漠なのに遠くに広大な森が見えるのだ。
「セージ様は知ってると思うが、魔物たちは深い階層からやってくることはないが、浅い階層から魔物がやってくることはある」
「うん、知ってる」
二階層にもスライムはいたし、三階層でもゴブリンがやってきて、リディアの友達になっていた。
「四階層は森の階層だったんだろ? あの森はな、四階層で生活をしていた魔物が偶然にも六階層までたどり着いて、その時たまたま持っていた種から育てた森なんだ。果実を取って、酒を造るために儂が一人で育てた。砂漠の地下深くにある土を掘り起こし、魔物の死骸を栄養にして、その体内にある糞を発酵させて肥料にして、何度か森が全滅したこともあったが、それでもようやくあそこまで大きくなった。街を作るより遥かに難しい」
「それは……うん、凄いと思う」
地球でも砂漠化は深刻で、多くの人がその砂漠化を食い止めようと努力している。
ゲルンは酒のために一人であそこまで大きな森を作り上げたというのだ。
それは十分尊敬に値することだ。
「だが、あの森も管理は十分ではない。俺たちがいなくなれば、直ぐにとは言わないまでも、滅んで元の砂漠に呑み込まれてしまう。だから、セージ様、頼む。俺をここにいさせてくれ」
そう言って、ゲルンは僕に頭を下げた。
「ゲルン、言っておくけど、僕は人間だからいつか死ぬよ? ていうか、明日死んじゃうかもしれないし。そうなったら、もしかしたら二度とこの砂漠の世界から抜けられなくなる。フォースが協力してくれるとも限らないしね。でも、零階層に行けばゼロっていう優秀な天使もいるし、ハイエルフ達も生活をしている。それに、さっき言ったみたいにいろんな作物を育ててるからいろんなお酒を造れる。それでも、ゲルンはここに残るの?」
「セージ様がそれを許すっていうのならな。先日、魔王様がここに来たときに言われてから考え決めたことだ」
そう言うと、ゲルンは塔の柵にもたれかかって言う。
「グルトンが作った人形がノーアルコールノーライフと言った。酒がない人生なんて考えられないってな。俺も同じだ。あの森は俺の子供、いや、俺の分身のようなものになってしまった。だが、これは俺だけの思いだ。だから、ギスタンとグルトンは連れて行ってくれやしないか?」
つまり、ゲルンは一人でここに残る覚悟を決めたという。
この誰もいない世界で、たった一人で。
それはどれだけの覚悟があったのだろうか?
「ゲルン――」
僕がなんて言っていいかわからずにいると――
「何をカッコつけてるんだ? お前がいなかったら誰が酒を造るんだ? ゲルンが残るというなら俺も残るぞ」
「儂もじゃ。全く重要なことを一人で決めるのではない。決めるときは三人で一緒じゃと言ったであろうに」
ギスタンとグルトンが現れてそう言った。
最初から話を聞いていたのか。
「おぬしら! しかし、ギスタン! お前、砂漠の都市はそろそろ作り飽きた。今度は川辺の都市や雪国の都市、山の上や谷底の都市を作りたいと言っていたではないか!」
「言ってたな。だが、ちょうどお前が作った森の間伐で得た丸太を乾燥させて、木造建築を作ろうとしておるのだ。あと千年はそれで楽しませてもらうぞ」
「グルトン。お主だって、魔道具を作るのに必要な素材が砂漠では足りないと言っていたであろう!」
「それがどうした。魔道具が生まれる素は、足りないなにかを補おうとする精神にある。セージ様の仰ってた零階層は確かに素晴らしいところのようじゃが、唯一、足りないが足りない。そんな場所で魔道具の開発なんてできるか! それに、なによりお主がおらなんだら、誰が儂等の酒を造るというのだ」
「ギスダン、グルトン……」
そう言って、髭面の三人の男たちは泣いて抱き合う。
感動シーンなのだろうけれど、僕は置いてけぼりを食らっているみたいだ。
と思ったら、アウラとともにフォースがやってきた。
かなり怒っている様子だ。
「お前ら、それが認められるわけないだろ! この世界はセージ様のために創られた世界なんだぞ。セージ様の役に立つどころか、修行の邪魔をするっていうのなら、置いてけるわけないだろうが。従わないって言うなら、存在ごと消滅するか?」
「フォース、待って。確かにこの世界ができた原因は僕だけど、別に僕のためだけの存在してほしいわけじゃない。あっちの世界だって神が創った世界だけど、神を信じていない人だって生活は許されてるでしょ?」
暴君や独裁者になりたいわけではない。
しかし、フォースは納得できない。
「セージ様、しかしな――」
「そうだ! 僕の役に立ちたいっていうのなら、ここにいながら僕のために仕事をしてくれたらいいんだよ!」
僕はそう言って、一つの提案をした。
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