第179話 ナライ・キシミ(後編)※別視点
村で食べ歩きをしていると、今度は何かを見物している人だかりが見えた。
後ろから見ると、二人の男が向かい合って、その間のテーブルに置かれた四角い板の上に、丸い木をはめ込んで、別の木をひっくり返したりしている。
何か遊びのようだが。
「これはなんですか?」
「リバーシという遊びだよ。とっても簡単な遊びでね。つい最近できたんだが、いまじゃ村で一番の娯楽といえばこれさ」
「どういうルールなんですか?」
聞くと、とても単純なルールだった。
だからこそ、奥が深いのだろうか?
聞くと、これもスローディッシュ家の長男のセージ様が考えたらしい。
祭りといい、遊びといい、セージ様はかなりの遊び人らしい。
いや、遊びでもここまでのものを作れるとしたら、それは才能というべきだろうか?
「凄いんですね、セージ様って」
「ああ、あの年でこれだけのものを作ってな」
「そうだな。フライドポテトもセージ様が考えたらしいぞ。あのタイタンが弟子入りしてるんだもんな」
「それに、スカイスライムを考えたのもセージ様だろ? 最後の凄かったよな? 本当に見た目とは凄い違いだよな」
「あの年齢で、何種類も構築魔法が使えるんだもんな」
「噂によると、領主様より稼いでるらしいぞ」
領主様よりお金を持ってる領主様の息子か。
あれ? さっきから年齢のことが上がっている。
そういえば、スローディッシュ男爵って、まだ若いよな?
二十歳代だろ?
ってことは、その息子のセージ様って――
「セージ様ってどんな方なんだ?」
「ほら、あそこで変なの浮かべてる方だよ」
「変なの? って、本当に変なのだっ!」
さっきまで掲げられていた船のランタンではなく、かなり大きな丸いランタンがふわふわ浮かんでいる。
そのふわふわ浮かんでいるものには紐がついていて、地面に打ち付けられた杭に結び付けられている。
どこかに飛んでいかないようにだろう。
なんで俺はあれに気付かなかったんだ?
その紐の先にいたのが、五歳くらいの少年だった。
普通に、あの子がこの祭りの主催者で、様々な料理や遊びを開発し、領主様よりお金を持っている少年だって言われても信用しなかっただろうが、この異様な光景を作り出しているのもあの少年だとするのなら、納得せざるを得ない。
「あ、あの、あなたがセージ・スローディッシュ様ですか?」
「はい、そうです」
「これは一体何なんでしょうか? スカイスライムってやつですか?」
「これはスライムバルーンという名前のものです。浮かんでいるけど、スカイスライムとは全然仕組みが違うんです。使われているのは穴が一つしか空いていないビッグスライムを乾燥させたもので、スライムポンチョに加工する前のものを貰って来たんです。本当は千個くらい浮かべて、ランタンフェスティバルのように村の名物にしようかと思ったんだけど、一個しか用意できなくて」
セージ様は丁寧な言葉で俺に説明をした。
これが千個浮かぶ光景なんて想像できないが、それが実現したら凄い光景になるだろう。
仕組みを教えてもらったが、ほとんど理解できなかった。
人を乗ることができるのかと尋ねたところ、理論上は可能だけど、ビッグスライムの皮は強度が足りないから事故が起きやすいので乗り物には使えないと言われた。
人間が空を飛ぶことができる可能性があるだけでも凄いと思う。
「ここお願いしますね。落ちてきても、スライムの皮は燃えにくいから大丈夫だと思うけど、注意してね」
「わかりました」
セージ様は村の人にそう言って俺を見ると、
「これからランタン流しをするんです。よかったら見ていってください」
「ランタン流し?」
「祭りの締めくくりです」
そう言っている間に、村の人たちが村中に掲げられていた変わった形のランタンを外してどこかに持っていく。
何が起こっているのかわからないまま、俺は皆が向かう川辺に向かった。
すると、そこには篝火が掛けられていて、多くの人や、俺と同じような村の外の人間が川辺に座っていた。
暫くして、篝火が突然消えた。
と思ったら、川上から灯りが近付いてくる。
それが、先ほどまで村を彩っていたランタンだと気付いた。
「灯篭流――じゃなくて、ランタン流しです。とりあえず、お祭りに来ていただいた先祖様をお送りするための船って設定ですが、今日のところは、綺麗な光景をみんなで眺めようって感じで思ってください」
教会に許可をもらっていないので。
とセージ様は笑って言った。
なるほど、綺麗な光景を眺めるか。
確かに、宗教的な意味はなくても、それだけで十分価値のある催しだと思った。
翌日、俺は面接の結果を聞くために再び、領主様の屋敷に赴いた。
やはりというか、俺は騎士として不採用となった。
しかし、ロジェ様から思いもよらぬ提案が来た。
なんでも、治安維持や、今後創設されるバズという男の商会の護衛のために、戦える人間が必要になってくるらしく、騎士見習いとして採用することができるという。
雇用条件を聞くと、悪い物ではない。
ただし、住む家の確保ができていない――昨日俺が泊まった家は、正式に騎士として採用された者が住むことになる――ので、暫くは村の宿に泊まることになるそうだ。
それと、雇用主は、領主様ではなくセージ様になるとのこと。
俺は二つ返事で受け入れた。
こうして、俺は領主様ではなく、その息子のセージ様に仕える騎士見習いとして採用された。
あの人についていけば、きっといろんな面白い光景を見ることができる。
そんな期待を抱いて。
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