第178話 ナライ・キシミ(中編)※別視点
屋敷から出ると、俺たち五人は纏めて近くの家に案内された。
将来、従者に採用された人間が住む家で、今日と明日はここで休むようにと言われた。
とはいえ、ベッドもまだ入っていないので、雑魚寝状態だ。毛布が支給されているだけありがたいと思う。
メイドさんが帰った後、一緒に来た五人で話をした。
面接でどんな話をしたとか、領主様の実力が化け物過ぎるとか、それぞれの過去の武勇伝とか。
皆凄いことを話すので、俺もかなり話を盛ってしまった。もしかしたら、皆も俺と同じように話を盛っていたのかもしれない。
さてと、今日の食事だが、なんでも村の祭りに行けば料理が無料で振舞われるらしい。
俺は村へと向かうことにした。
太陽はまだ沈んでいないが、見たことのない形のランタンがあちこちに掲げられて村を明るく照らしていた。
素材には何を使っているんだ? ガラスではなさそうだが。
広場に入って直ぐのところに、パンが置かれていた。
村人たちが自由にパンを取っていく。
「おう、外から来た客人だな! 祭りを楽しんでいってくれよ」
そういって強面の男が俺のパンを渡す。
俺はそれを受け取ると、千切って食べた。
蕎麦粉で作られているらしく、口に運ぶと蕎麦独特の香りが強く、少し苦味が舌の上に広がる。
ねばりがあって、ちょっとパサついた口当たりがした。
決して美味しいパンとは言えないが、少し懐かしい感じがするな。
一番賑わっている方に行くと、
木のコップと共に受け取ると、一緒に見たこともない料理が渡された。
「これは?」
お酒を配っていた女性に話を聞く。
「ジャガイモで作ったフライドポテトって料理なの。エールにとってもよく合うのよ」
「へぇ、ジャガイモで作った料理」
これが村人が言っていたジャガイモを作った料理ってやつか。
一つ食べてみる。
柔らかくジューシーだな。それに塩がよく効いている。
茶色い部分はこの野菜の持つ風味だろうか? 香ばしく美味しい。
軽い苦味があるが、このくらいの苦味なら酒のいいアクセントになるだろう。
こんなうまいものがあったなんて。
これは量産できれば、この村の名物になるだろう。
うちの領地でも食べられないものか?
というか、これはヤバイな。エールを飲むペースが速くなる。
面接が終わったからといって、酔っ払って何か粗相を働き、それが領主様に伝わったりしたら、ただでさえ絶望的な結果が、さらにひどい結果になる。
自重しなければ。
俺は配っていた水を貰い、勿体ないがエールを半分に薄めて飲むことにした。
薄めた酒を飲むなんてガキの頃以来だな。
他に何か料理がないかと村を歩いていると、オークの丸焼きが置かれていた。
なんでも、今朝領主様が今日の祭りのために仕留めてきたらしい。
一気に酔いが引く。
オークといったら、ゴブリンやコボルトより遥かに強く、狂暴だ。
それを領主様が祭りのために倒しに行くって――いや、あの領主様だからな。
なんでもありだろう。
俺は肉をひと切れ貰って食べた。
ふと、村のあちこちに、木の棒が刺さったズッキーニが置かれているのが目に入る。
俺はそれが気になって、通りかかった村の人に尋ねた。
「あのズッキーニはなんですか?」
「あぁ、あれはズッキーニを馬に見立ててるんだよ。まぁ、馬にしたら随分と胴長でブサイクになっちまったがな」
「なんで馬に? 今日は馬の祭りなんですか?」
「いいや、今日は先祖様の霊をお迎えする祭りなんだ。あのズッキーニの馬は先祖様が乗ってやってくる馬に見立ててるのさ。なんでも、ボン祭りって名前の祭りらしい」
「これって、異教の祭りだったんですか!?」
俺は思わず尋ねてしまった。
もしかして、ここは異教の村?
領主様は教会に対してよからぬことを思っているんじゃ――
「おいおい、何言ってるんだよ。教会の教えになんて反していないぞ?」
「でも、そんな祭り」
「いいか? 教会の教えでは亡くなった人は全員天の国に旅立たれる。そして、時々、この世界に降りてきては、我々を見守ってくださっている。そうだろ?」
「え? えぇ……」
「でも、いつ来るか、どうやって来るかは書かれていない。でも、先祖様も元は我々と同じ人だ。こういう祭りの日には来てみたいって思うだろ。それなら、こっちから馬を送って、どうかその馬に乗ってやってきてください! と願うのは先祖様を敬う上では当たり前の話じゃないか。そして、祭りが終わったら、どうかゆっくり帰ってくださいと思うのも当然だろ?」
そう言われたら……うん、確かにそうかもしれない。
「なるほど、このあたりの古い風習なんですね」
「いんや、昨日領主様の息子が思いついた祭りだ。とりあえず、今年は試しでやってみて、今度王都に行ったとき、教会でボン祭りを恒例行事にしていいか聞いてみるそうだ。先祖の霊が駄目だって言われたら、精霊をお迎えするとか、天使をお迎えするとか別の案を考えるって言ってたぞ」
「へ?」
「そもそも、この祭りの本当の名目は、あんたら王都から来た人に、村の名物であるジャガイモ料理を食べてもらって、王都でそれを宣伝してもらうためだってセージ様が言ってたな。祭りの理由なんてどうでもいいんだってさ」
「あぁ、俺たちはセージ様のおかげでタダ酒が飲めるんだから文句はねぇや!」
「セージ様、万歳!」
やられた。
確かに、さっきフライドポテトという料理を食べたとき、自分の領地でも食べられないかと考えた。
俺としたことが、その目論見にまんまと乗ってしまうところだった。
……いや、目論見に乗っても問題ないな。
別に俺が損をするわけじゃないし。
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