第180話 ハイエルフと五階層
今日は、ハイエルフ達も一緒になってダンジョン探索にやってきた。
ピクニックというか、気分転換のようなものだ。
実際、この階層くらいの敵相手なら、ハイエルフたちも難なく倒せるので、緊張感はない。
「そこに罠があるから気を付けて………………………………………………ねぇ、もしかして罠を敢えて発動させたうえで超高速で回避して落ちてきた石を拾ったり飛んできた矢を回収したりできるの?」
「セージ様ったら。そんなのできるわけないじゃないですか」
「できるのなら、罠の意味がないですよ」
「罠の種類がわかっていても無理ですね」
よかった。
ロジェ父さんの常識は世間の非常識のようだ。
「セージ。アウラなら蔦を伸ばして罠を発動させたらいいんじゃないかな?」
「火が出る罠だったら蔦が燃えちゃうかもしれないしね」
「それなら、燃え移る前に蔦を抜くよ?」
「そこまでリスクを冒してまで罠を発動させる必要はないよ」
アウラの蔦は自由に引っこ抜いて新しい蔦を生やすことができるのだけれども、新しく生やすのに体力が必要らしい。
ド〇ゴンボールで例えるとしたら、ピ〇コロさんの腕のようなものだ。
ということで、罠は放置継続。
「そういえば、セージ様の仰っていたお祭りはどうなったのですか?」
「うん、結構うまくいったよ。灯篭流しはゴミが出るし火事の心配もあったから大丈夫かなって思ったけど、ちゃんと村の人が処理してくれたしよかったね。ただ、エイラ母さんから、そんな面白そうな祭りを自分抜きでやるのはズルいって怒られた」
父さんと母さんは、仕官してきた人の選定をした後、内政官として先に採用が決まった人と話し合いをしていたので祭りに参加することはできなかった。
二人以外にも、スライムバルーンの管理や料理の提供、灯篭を流したり回収したりと裏方に回った人たちにはその分の給金を支払っているので苦情は来なかった。
来年以降は、村の人ではなく僕の下で働く騎士見習いの五人に裏方を担当してもらうことになるので、それも問題ないだろう。
「ハイエルフにも、精霊祭ってお祭りがあるんだよね」
「精霊祭? 聞いたことがありませんが」
「あれ? リエラさんから貰った本に、昔からの慣わしでそういうものがあるって書いてあったけど」
精霊を崇めるお祭りで、春一番に森で採れた果実を蒸留させて作ったお酒を神に納めた後、その残りを飲むというお祭りだ。
樽に入れた果実酒を半年間聖殿で寝かせておくと、樽の中身の量が減ってしまう。
それは精霊が飲んだもので、その残りのお酒は神から下賜されたもので、それを飲むことで精霊の加護を得ることができるという伝承によるものだ。
実際に精霊が飲んだのではなく、揮発して減っただけ――地球で言うところの『天使の分け前』と呼ばれる現象だろう。
ウイスキーほど量が減るわけではないので、この世界の精霊は天使に比べると随分と下戸のようだ。
……と思ったが、ゼロはお酒を飲んでも全然顔色一つ変えないし、フォースもお酒を浴びる程飲んでいたが酔っている様子はなかった。
きっと、天使がお酒に強すぎるんだな。
「やはり知りませんね。私たちが死んだあとにできた祭りでしょう」
「でも、精霊が飲むって言われると、こっそりワインを試飲してもバレないからいいですよね」
「リエラはお酒が好きだったので、もしかしたらこっそり飲んでいたのを隠すためにでっち上げたお祭りかもしれませんね」
リエラさん、お酒好きなのか。
今度会うことがあったらお酒をプレゼントしようかな?
「セージ様、宝箱があります。開けてもいいですか?」
「うん、いいよ」
リアーナが宝箱を開ける。
中には魔石が五個入っていた。
「魔石ですか。リディアなら上手に使えそうですね」
「転移先の設定にも魔石を使うんだっけ? じゃあ、リディアが使って」
「ありがとうございます」
リディアはリアーナから受け取り、皮袋に入れた。
そこには今日倒した魔物から得たゴールドも入っている。
四人で四等分して、最後の買い物に使うらしい。
雑貨屋に向かっていると、ウロコが赤く半透明に光るリザードマンが現れた。
まるでウロコ一枚一枚が宝石のように輝いている。
レアモンスターの一種なのは間違いないだろう。
「ルビーリザードマンです! ものすごいレアモンスターですよ!」
「鱗がルビーでできています。アウラさん、捕まえてください!」
「わかった!」
アウラが蔦を使ってルビーリザードマンを捕まえる。
はい、捕縛完了。
剣が落ちる。
ルビーリザードマンの持っていた剣も、柄のところに大きなルビーが埋め込まれている。ただ、大きいと言っても、アウラの髪飾りに使われているサファイアほどではないが。
「では、セージ様。鱗の無いこの首のところを裂いてください。返り血を浴びないように、こう、後ろから」
「うん、わかった」
首を切り裂くと、血が噴き出す。
初めて見ると残酷な光景だが、だいぶ慣れた。
こういうとき、ミスリル包丁は使い勝手がいい。
ティオには大切に保管しているって言っているけれど、やっぱり包丁は使ってなんぼだからね。
じたばたしていたリザードマンから急速に力が失われ、やがて近くにゴールドが落ちた。
お、初めて見る千ゴールド硬貨だ。しかも八枚もある。
一匹で8000ゴールド、さすがレアモンスターだ。
この調子なら、経験値もたんまり入ったことだろう。
なにより、このルビーリザードマン。
これは、五階層では売らずに、将来、お金に困ったら元の世界で売ってみよう。
ド・ルジエールさんのところに持っていったら高値で買い取ってくれそうだ。
「そういえば、森にもいたわよね、ルビーリザードマン」
「見たのは一回だけですね。懐かしいです」
エルフの住んでいた森にもいたんだ。
とはいえ、長年住んでいて一回しか見ていないってことは、相当レアなモンスターなんだろうな。
「そろそろ雑貨屋だよ。僕が今までで見つけた雑貨屋の中で一番大きい店だから、ゆっくり買い物楽しんでね」
「「はい」」
今日の予算は一人二万ゴールド。
ただし、僕は買い物をする気分じゃないので、店内にある椅子に座って待ちぼうけ。
ゆっくり楽しんでねと言ったが、すでに一時間経過している。
まぁ、修行空間は時間を気にする必要もそんなにないので別にいいんだけどね。
「皆さん楽しそうですね」
「リーゼロッテももっと見てきてもいいのに」
「私は既に買い物を終えましたから」
彼女が買ったのは、全部毛糸だった。
服を編んだりするのに使うのだそうだ。生前はよく編み物をしていたそうだが、修行空間に来てから一度もしていないので、できるかどうか不安らしいが、チャレンジしてみるとのこと。
「上手にできたらセージ様にプレゼントしますね」
「うん、スローディッシュ領は冬になると寒いからありがたいよ」
どこで買ったと聞かれたとき、はぐらかすのが大変そうだけどね。
そんなことを考えて、ふと思い出す。
「毛糸ってことは、ハイエルフの村でも羊を育ててたの?」
「いえ、毛糸は人間の国との交易で手に入れていましたね」
「交易してたんだ。その国の名前って何て国?」
国の名前を聞いたが、知らない名前だった。
相当遠い国なのだろう。
遥か昔の国だから、既に滅んでいるのかもしれないけどね。
なんて言っていたら――
「そうそう、その国には地底迷宮って呼ばれている迷宮があってですね。フォースさんのいる魔王城に繋がっているんですよ」
「……待て、それってつまり――」
ハイエルフの森って、僕たちの国のすぐそばじゃない?
そして、その近くにあるハイエルフの住むような大きな森って、西の大森林だけじゃないかな?
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