第29話 ピクニックと贈り物
「二階層、スライム見たら、ほっとする。セージ、心の俳句」
俳句じゃなくて川柳だろ、季語が入ってないぞって意見はガン無視でお願いします。
二階層でゴブリン退治をしているとき、ふと足下を見るとスライムが僕を退治しようとゆっくり這って来た時にできた心からの俳句だ。
ゴブリンは弱いんだけど、僕を殺そうとする意気込みは結構凄いんだよね。
スライムも僕を殺そうとしていると思うけど、こっちは本当に口と鼻を塞がれない限り死ぬことはないから、心から安らぐ。
でも、経験値は貴重なのでナイフを使って倒しました。
ご馳走様です。
「セージ、ゴブリンにはいまもちょっと躊躇するのに、スライムには容赦ないね」
「うん、スラ・即・斬が体に染みついちゃってね」
アウラに言われた通り、いまだにゴブリンを殺すのは少し躊躇してしまう。
断末魔の雄たけびは耳に残るし、矢を回収するとき、鏃についた血を洗い落とす作業にもげんなりしている。仮にゴブリンじゃなくて、猪とかだったら、むしろ魔物ではなく食べ物として見ることができるかもしれないのに。
牡丹鍋、食べたいです。
「セージ、これから何するの?」
「今日は天気もいいし、ピクニックかな?」
「ピクニック?」
「山を登っていい景色を眺めながら、サンドイッチを食べるの。あ、これだとピクニックじゃなくて、ハイキングかな?」
「ハイキング! 楽しそう!」
アウラが嬉しそうに言う。
ただ、登山道ではないので、登る場所はちゃんと考えないといけない。
そういえば、日本にいた頃は、母がよく健康のために登山をしていた。もちろん、こんな岩山じゃなくて、ちゃんと整備された登山道だったけれど。
よく、僕も一緒に行かないかって誘われたけど、面倒だったし断っていたな。
今にして思えば、一緒に登ってあげていればって思う。
「セージ、悲しいこと考えてるの?」
「ううん、懐かしいことを考えてるだけ」
一瞬表情は暗くなってしまったが、でも、それほど悲しいという気持ちは少ない。
たぶん、僕という人間は、神下誠二という日本人の記憶を持っている、セージ・スローディッシュという人間だからだろう。
僕が、セージ・スローディッシュとして生まれたその日から、僕の母はエイラ母さんだし、父はロジェ父さんになっていたんだ。
そもそも、前世のままの僕の人格だったら、七歳の姉さんを怖がったりしないしね。
そのことに気付いて、神下誠二としての人格が消えていくことに恐怖を感じたこともあったが、今にして思えば、それでよかったんだと思える。
前世の両親には申し訳ないが、こうしてセージ・スローディッシュとして生きる以上、前世のことは切り離して考えないといけないから。
「んー、どこから登ろう」
ある程度登ったところで、急斜面で登れない場所に来た。
回り込んで登ろうにも、回り込む道はその道で、結構歩いていくのが辛い。
「私が先に行くね」
アウラはそう言うと、蔦を上に伸ばし、低木に括りつけると、一気に上まで飛んだ。
そして、上から伸びてきた蔦が僕の身体に巻きつく。
彼女が本気で力を加えたら、背骨が折れる程度じゃ済まないが、アウラのことを信用しているので恐怖は全くない。
丈夫で僕一人の体重くらいじゃ絶対に切れない蔦が自由に動くから、投げ縄や鍵爪フックよりも使い勝手がよさそうだ。
「うわぁ、一気に登ったね。凄い景色だ」
このあたりでは一番高い山に登っているので、周囲の山々の頂も見下ろしている。
お、あの山は活火山なのか。火口から煙が上がってるな。
あっちの山頂には出口の魔法陣があって、山の中腹には洞窟があった。たぶん、洞窟はゴブリンの巣だな。入り口をゴブリンが見張っていた。
さすがにここからだと矢も届かない。
後で地図に書いておこう。
「セージ、頂上が見えたよ」
「ああ、もう少しだ」
と思ったけど、そこからも結構長かった。
途中、岩の隙間に生えている花を見つけてアウラがはしゃぎ、僕もまんざらではなくその花に癒され、結局お腹がすいて、途中で出口の魔法陣を見つけたので、帰りは楽ができそうだと話したり、やっぱりゴブリンに襲われてアウラと二人で返り討ちにしたりして、体感時間で約五時間。
富士山ほどではないが、かなり高いんじゃないだろうか?
遠くに、うっすらとここより高い山が見えるが、それを除けば全ての山々を見下ろせる高さだ。
どうやらこの山も火山のようで、立派なカルデラが出来上がっていた。
「凄いな、登ってきた甲斐があるよ」
「うん、凄いね! 綺麗!」
頂上に座り、二人でサンドイッチを食べる。
明日は筋肉痛かなって思うけれど、筋肉痛の原因は、筋肉の損傷により起こる炎症が原因と言われているので、そうなる前にゼロに損傷部分を治療してもらえば筋肉痛になる心配はない。
二人でお弁当を食べる前に、僕は鞄からそれを取り出した。
「アウラ、これ、僕からのプレゼント」
「プレゼント?」
「うん、高価なものじゃないけど」
アウラが小さな箱を受け取り、その蓋を開ける。
そこに入っていたのは、サファイアの宝石のついた髪飾りだった。
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