第28話 異世界マヨネーズ(革命)

「エビマヨって、エビにマヨネーズでもつける料理?」

「うん、基本はそうなんだけど、重要なのはこれだね!」


 僕がそう言って怪しい白い粉を取り出した。

 別に中毒性のある危ない薬じゃないよ。

 怪しいといっても、みんなからしたら見慣れない粉ってだけで、僕からしたら見慣れた粉なんだけどね。


「セージ、それはなんだい?」

「片栗粉だよ。ジャガイモから作ったんだ」


 もちろん、作っている暇はない。

 エビマヨを作ると決めた瞬間に、修行空間に行って作って戻ってきた。

 幸い、あっちには、種イモに向いていないジャガイモがまだ残っていたからね。


「片栗粉? 何に使うんだ?」

「いろいろと使えるよ。スープにとろみをつけたり、あとはパンも作れる」

「スープにとろみ? どういうんだ?」

「残ってるスープがあったよね? 試してみる?」


 タイタンが頷いたので、僕はスープに水溶き片栗粉を入れて加熱してもらい、タイタンとロジェ父さんとラナ姉さんに振舞う。


「なんだこれ! 粉を入れただけなのに俺が作ったスープと全然違うじゃねぇか!?」

「本当だね。まるでスープなのに食べているみたいだ」

「ドロドロしてて変な感じね」


 ラナ姉さんは褒めているつもりだろうか?

 でも、片栗粉でとろみ付けってそんなに珍しいだろうか?

 コーンスターチでも同じことが……って、そういえば、トウモロコシもこっちの世界に来てから一度も見たことがない。

 トウモロコシがないのに、コーンスターチがあるはずがない。

 小麦粉を入れても独特なとろみを出すことはできるけど、あれは味がついちゃうから、クリームスープなどにはいいけれど、こういう野菜スープにはあんまり向いてないもんね。

 もしかしたら、片栗粉はマヨネーズ以上の料理革命の起爆剤になるかもしれない。

 

「小麦粉と似た使い方も全然違う使い方もできるのか。セージ、なんでこの粉のことを黙っていたんだい?」


 ロジェ父さんがスープの入った匙を見て尋ねる。

 確かに、片栗粉について黙っていたのはマズかったかもしれない。

 穀物は蕎麦しか育っていないこの土地で、小麦の代わりになるというのは、確かに聞き捨てならないことだろう。

 でも、ロジェ父さんの口調は怒っているのではなく、文字通り、僕に理由を尋ねているようだ。

 ここで、理由もなにもなく黙っていたと言ったら、怒られる――いや、呆れられるかもしれない。


「ロスが多いんだよ。ジャガイモから片栗粉を作ると、一割程度になっちゃうんだ。大量に取れれば片栗粉に加工するのもいいと思うけど、いまはまだその段階じゃないでしょ?」

「一割、確かにそれは少ないね。うん、わかったよ。でも作り方はちゃんと教えてね」

「セージ! それより、エビマヨ作ってよ! 私はマヨネーズの料理が食べられるって聞いたから来たのよ」

「わかったよ。えっと――」


 と、片栗粉、卵、トマト、そして手長エビを使ってささっとエビマヨを作る。

 これだけだとマヨラーのラナ姉さんは納得しないと思うので、他にもマヨネーズをたっぷり使った半熟オムレツも作った。


「美味しい! エビはプルプルしてるし、卵はぶにゅぶにゅしてるし!」


 ラナ姉さんが興奮して料理を食べるが、擬態語が絶対に間違っている。

 エビはプリプリしてて、卵はふわふわしていてほしい。

 ロジェ父さんは、笑顔で「美味しいよ」と言ってくれるが、タイタンはさっきから黙っている。

 もしかして、僕の作る料理は、料理人からしてみれば子供だましに思えたのかな?


「なぁ、セージ坊ちゃん。このマヨネーズを使ったオムレツと、エビマヨは坊主が考えたのか?」

「うんと、マヨネーズの作り方は本に書いてあったからだけど、これは僕が考えたよ。といっても、既存のレシピをちょっと改造しただけだから、大したことない」


 ゼロの書いてある本にもこの料理については書かれていないので、そう答えるしかない。


「既存のレシピをちょっと改造しただけ? 大したことない?」


 タイタンが震えていた。

 もしかして、他人のレシピを勝手に使うのはよくなかったのかな?

 それとも、僕の言い方が料理をバカにしていると思ったのかもしれない。

 どうにかして、他意がないことを説明しないと。


「セージ坊ちゃん!」


 僕が言い訳を思いつく前に、タイタンが突然その場に跪いた。

 そして、僕の目を見て言う。


「いや、セージ様! どうか俺に料理を教えて――いや、俺を弟子にしてくれ! 頼む!」

「……やだ、面倒」

「よろしく頼むぞ、師匠!」


 いま、やだって言ったよね?

 耳、聞こえてないの?

 料理は好きだけど、それは趣味としてで、仕事としてするつもりはない。ましてや、可愛い女の子ならまだしも、こんなゴツイおっさんの弟子なんて持ちたくない。

 僕は助けを求めるように、ロジェ父さんを見た。


「そうだね、いろんな料理があれば村の発展にもつながるかもしれないし。うん、セージが料理を思いついたら、この店に教えにくるってことでいいんじゃないかな?」


 違うっ!

 僕が言ってるのはそういうことじゃない。

 それだと、本当に師匠と弟子の関係になってしまう。


「おぉ、それは俺にとっても願ったり叶ったりだ!」


 僕の願いは叶ってないよ!

 僕はロジェ父さんとタイタンに全力で再考をお願いするけれど、結局僕の願いが叶うことはなかった。

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