第30話 髪飾りを貰って

 サファイアの髪飾りを見て、アウラが目を丸くした。


「セージ、どうしたの? これ?」

「異世界通販でね。といっても、ポイントが少ないから、素材だけ用意して、あとはゼロに手伝ってもらってね」


 サファイアの原石は非常に高いが、合成サファイアなら安くて大きい物を買うことができた。

 ただ、それでほとんどポイントを使い切ってしまったので、本当は金とかプラチナで作りたかったんだけど無理だったため、髪飾りの土台となる部分はブロンズ製にした。

 合計2500ポイントで購入。

 それを元にデザイン案を僕が書き、ゼロに加工してもらった。


「いつもアウラにはお世話になってるからね。えっと、気に入ってくれたかな?」

「うん。綺麗! 素敵! えっと、オシャレ!」


 まだ言葉に慣れていないアウラは、彼女なりに僕の用意した髪飾りを褒めてくれる。

 ここまで喜んでくれるとは思わなかったので、嬉しいけど、かなりポイントを節約した安物なので、恥ずかしくもある。


「アウラ、もっとポイントを稼げるようになったら、これよりいいものをプレゼントするからね」

「セージ、それ無理だよ」

「え?」


 いや、確かにいまのままだとポイントの稼ぎは悪いし、ステータス偽造とか写真記憶とか、覚えないといけないスキルは山のようにある。

 でも、時間は無限にあるんだから、いつかはプレゼントできると思うんだけど。

 もしかして、アウラの僕への評価って相当低いのだろうか?

 今日のハイキングも、かなりアウラのを借りてようやく頂上にたどり着けたから。

 でも、僕の身体は五歳児の身体だし、むしろ登り切っただけでも褒めてほしい。


「だって、私、いまとても嬉しい。嬉しくて胸がいっぱいで。だから、これ以上喜ぶプレゼントなんて、たぶん無理だと思う」


 僕はアウラが言っていた意味を理解した。

 そして、同時に、アウラがこれまでで一番可愛らしく思えた。


「アウラ、髪飾りを着けてあげるよ」 

「うん、お願い!」

 

 僕はアウラから髪飾りを受け取り、彼女の髪に着ける。

 アウラの美しい緑の髪に、この蒼はよく映える。


「とても似合ってるよ。森の精霊みたいだ」


 僕はこの髪飾りを着けるとき、絶対にアウラを褒めようと思ってた。でも、そんな意志は不要だった。

 だって、彼女のその姿を見ただけで、自然に言葉が出てくるんだから。

 だが、予想外に、アウラの表情は優れない。

 褒め方が足りなかったかな?


「むぅぅぅ」

「えっと、ごめん、アウラ。語彙力が少なくて」

「ううん、セージに褒めてもらって嬉しいよ? でも、自分で見ることができないのが残念」


 手鏡を用意したらよかったと反省した。

 でも、アウラは直ぐに思い直し、髪飾りを触って、嬉しそうに微笑んでいた。


 その後、僕たちは途中で発見した出口から脱出する。

 休憩所に置かれていた姿見の前で、アウラはとても嬉しそうに髪飾りを見ていた。


   ▽ ▼ ▽ ▼ ▽


 ゼロには回復魔法をいつもの半分くらいにしてもらい、完全に回復しないまま元の世界に戻る。

 そして、ソファに座った。

 このほどよい疲労感が残った状態で寛ぐのって、しっかり運動したあとの休憩って感じで気持ちいいよね。実際、運動したわけだけど。

 そう思っていたら、ラナ姉さんがやってきて、僕の膝の上に自分の健康的な脚を載せてきた。

 唯一の気遣いとして、靴だけは脱いでくれているんだけど、それは僕に気を遣っているのか、それともソファに気を遣っているのかを考えると、おそらく後者だろう。

 この家では僕の立場はソファより低い。


「ラナ姉さん、重――くないけど、脚を載せないで」


 ソファに置いてあったクッションを投げられたので、言い直して、お願いする。

 僕の真摯なお願いをラナ姉さんは無言で聞き、そのまま体を回転させてソファの端に顔を埋めて言う。


「疲れてるのよ、少しいいでしょ」

「僕も疲れてるんだけど」

「疲れてるって、セージはずっと家にいたんでしょ? 私はさっきまで父さんと一緒に森にゴブリン狩りにいってたのよ」


 僕だってゴブリン狩ってた――ほとんどアウラが倒してくれたんだけど――と言うわけにはいかない。

 僕は今日、ずっと家にいたことになっている。

 なんなら、朝食を食べてから、ついさっきまで本を読んでいたことになっていた。


「それなら、僕が別の場所にいくから、姉さん足をどけて」

「えー、このセージの膝の高さがちょうどいいのよ。そのままでいて。重くないんでしょ?」

「重くはないけど」

「ならいいでしょ」


 重いと言ったら、クッションの次は何が飛んでくるかわからない。

 重くないと言ったら、そのまま僕の膝が姉さんのフットレスト用のクッションになってしまう。

 なんだ、この袋小路は?

 姉さんの小さな足の裏をくすぐってやりたいが、下手に笑わせて暴れられたら僕の膝の皿が粉々に砕かれる可能性もある。


「姉さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なに?」

「友達の男の子から、髪飾りをプレゼントしてもらったらどう思う?」

「髪飾りなんて貰って何するの?」

「……ごめん、やっぱりいまの質問はなしで」


 僕はそう言うと、ソファに思いっきりもたれかかり、天井を見上げるのだった。


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