第188話 スキル無しで魔法は使えるのか?

 僕の部下の騎士見習いは五人いる。


 ソーカ。

 THE侍のおっさん。ヤマトの国という日本に似ているらしい国の出身。

 武器は日本刀で、その剣術もやはり独特。

 元日本人の僕としては一番に採用。


 ウィル。

 元狩人の小太りのおっさん。騎士見習いなのに剣の腕はからっきしだが、弓矢の名手。アムとテルという子供はいるが、奥さんは病気で死んでしまってるらしい。

 僕は魔法ほどではないが、弓矢の修行もしていたので、そのウィルの才能はよく理解できる。だから採用。


 イセリア・ナミリ

 ナミリ男爵家出身の二十五歳のお姉さん。僕の部下の中で唯一の女性騎士見習い。

 剣の腕はそこそこなのだが、本人は魔法に対して強い憧れがあるらしい。

 マキナスの加護を持つエイラ母さんの傍にいたら魔法が使えるかもしれないという変な動機でやってきた。

 そういう動機の人間を騎士として採用するわけにはいかないそうだが、剣の腕は確かなので見習い騎士に採用。


 ギデオン

 元Aランク冒険者。剣術の腕もソーカに迫る。彼は、実は正式に騎士として採用されるはずだった。

 しかし、ギデオンの願いで僕の配下になった。

 というのも、ギデオンは僕が蛇毒の治療を施した冒険者である。

 最初、その話を聞いたとき、「え? こいつ蛇モンスターに殺されそうになっていて、そんなに強かったの?」って話だ。ただ、あれは仲間を庇ってポイズンスネークに噛まれたそうだ。

 そんなわけで、命の恩人である僕のことを神のごとく敬ってくる。

 お礼ならミントに言ってほしい。

 ということで、僕の有無を言わせないまま採用。


 ナライ・キシミ

 男爵家の子供。剣の腕、普通。見た目、普通。性格、普通。貴族の子以外、これといって特徴がない。癖が強いメンバーの中で、こういう無個性な人がいるって、それも立派な個性になるんじゃないかって思って採用。


 さて、今日はイセリアのお話だ。



「岩の大地より、力を授けよ。強靭なる石よ、我が敵に向けて舞い上がれ。岩の弾、放て! ストーンバレット」


 仰々しい魔法の詠唱を唱えている白髪の女性。

 着ている服は、初顔合わせのときの鎧姿とは違い、ローブを身にまとい、ガラス玉のついた杖を持っている。いかにも魔術師という感じの風体だ。

 この世界でも長ったらしい魔法の詠唱というのは存在する。

 なんでも、言葉により魔法のイメージを鮮明にすることで、威力が上がるのではないかという説が昔あったそうだ。

 そう、「説」が「昔あった」のだ。

 つまり、その説は既に間違いだと証明され、いまや物語の中でしか登場していない。


「我が手に炎の力を宿せよ。灼熱の炎よ、敵を焼き尽くせ。燃え盛れ、燃え上がれ、我が意思に従い、その身を捧げよ。熾烈なる炎、この指に宿り、我が力となれ。暴走する炎の力を律し、我が敵を焼き尽くすために。この手に宿る熱、我が敵に届けよ。燃えよ、炎よ、力を発揮せよ! ファイアーストーム!」


 いやいや、何回宿すんだよ!

 炎の力が宿り過ぎて、多重憑依だわ。

 どんな霊媒体質だよ。


「イセリア、何してるの?」

「これはセージ様。魔法の練習です。魔法にはイメージが重要ですからね」

「それ、誰に聞いたの?」

「はい、この本に書いていました」


 そう言ってイセリアが見せてくれたのは、ボロボロになった魔術書らしき本。


「私に魔法の才能がないことを知った商人の男性が、魔法書としては破格の値段で譲ってくれたのです。これがとても勉強になる本で」

「なるほど、魔法書としては破格の値段なんだ」


 つまり、出鱈目な研究書としては割高なんだろうな。

 いや、出鱈目だってわかってる本はそもそも売れるものではないか。


「ねぇ、イセリア。魔道具で代用するってのは無理なの? ストーンバレットが飛び出す魔法の杖とかなら普通にあるんじゃないかな?」

「それだとダメなんです。魔道具を使って魔法を放つというのは、剣の試合で例えるのなら、他人の剣を使って戦うようなものです。私は自分の剣で戦いたいのです」

「その違いはよくわからないんだけど、でも、スキルがないと魔法って使えないでしょ?」

「ご安心を! 私には魔法のスキルがあります!」

「え、そうなの?」

「はい、こちらをご覧ください」


 イセリアが見せてくれたステータスカードのスキルを見る。

 レベル23もあるのか。

 ステータス軒並み高いなっ! 魔法関係以外は――だけど。

 って、見るのはステータスじゃなくてスキルか。

 えっと、斬撃、神速、連続攻撃、断空、盾術……って剣士としてのスキルが多いな。

 大人しく剣士やってろよってレベルのスキル欄だ。

 そして、続きを見る。

 火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、光魔法、闇魔法、魔法操作、魔力解放。

 なんだ? めっちゃ魔法のスキルがある……ん? 


「なぁ、イセリア」

「なんでしょう?」

「この魔法関係のスキル、手書きだよね?」

「はい。私が特殊なペンで書き込みました! この魔法書に書いてあったのです。『スキルというのは大半は思い込みである。まずは自分がそのスキルを持っていると信じること。そうすれば、そのスキルは使えるようになると。その第一歩として、ステータスカードに欲しいスキルを書き込むべし』と」


 その本、いますぐ燃やせ。

 なんだ、スキルは思い込みって。

 思い込みだけでスキルが使えるなら、今頃僕は転移魔法使ってるよ。


「スキルがなくてもスキルを使えるって、さすがにおかしいと思うよ」

「そんなことはありません。領主様は、スキルを一つも持っていないのに、半径百メートル内の生物全ての気配を察知し、光よりも早く動くそうです。実際、私との模擬戦では剣戟を飛ばしていました。あれこそ、スキルがなくてもスキルを使うことができるなによりの証拠です」

「なるほど」


 納得してしまった。

 たしかに例外がいたわ。

 しかも、凄く身近に。

 ……できるのかなー、スキル無しで魔法を使うことって。


 とりあえず、修行空間で相談してみるか。

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